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神州天馬侠05

时间: 2018-11-30    进入日语论坛
核心提示:富士の山大名    一 木《こ》の実《み》をたべたり、小鳥を捕《と》って飢《う》えをしのいだ。百日あまりも、釈迦《しやか
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 富士の山大名
 
    一
 
 木《こ》の実《み》をたべたり、小鳥を捕《と》って飢《う》えをしのいだ。百日あまりも、釈迦《しやか》ケ岳《たけ》の山中にかくれていた忍剣《にんけん》と伊那丸《いなまる》は、もう甲州《こうしゆう》攻めの軍勢も引きあげたころであろうと駿河路《するがじ》へ立っていった。峠々《とうげとうげ》には、徳川家《とくがわけ》のきびしい関所《せきしよ》があって、ふたりの詮議《せんぎ》は、厳密《げんみつ》をきわめている。
 そればかりか、織田《おだ》の領地《りようち》のほうでは、伊那丸《いなまる》をからめてきた者には、五百|貫《かん》の恩賞《おんしよう》をあたえるという高札《こうさつ》がいたるところに立っているといううわさである。さすがの忍剣《にんけん》も、はたととほうにくれてしまった。
 きのうまでは、甲山《こうざん》の軍神といわれた、信玄《しんげん》の孫伊那丸も、いまは雨露《うろ》によごれた小袖《こそで》の着がえもなかった。足は茨《いばら》にさかれて、みじめに血がにじんでいた。それでも、伊那丸は悲しい顔はしなかった。幼少からうけた快川和尚《かいせんおしよう》の訓育《くんいく》と、祖父|信玄《しんげん》の血は、この少年のどこかに流れつたわっていた。
「若さま、このうえはいたしかたがありませぬ。相模《さがみ》の叔父《おじ》さまのところへまいって、時節のくるまでおすがりいたすことにしましょう」
 かれは、伊那丸のいじらしい姿《すがた》をみると、はらわたをかきむしられる気がする。で、ついに最後の考えをいいだした。
「小田原城《おだわらじよう》の北条氏政《ほうじよううじまさ》どのは、若さまにとっては、叔父君《おじぎみ》にあたるかたです。北条《ほうじよう》どのへ身をよせれば、織田家《おだけ》も徳川家《とくがわけ》も手はだせませぬ」
 が、富士《ふじ》の裾野《すその》を迂回《うかい》して、相模《さがみ》ざかいへくると、無情な北条家《ほうじようけ》ではおなじように、関所《せきしよ》をもうけて、武田《たけだ》の落武者《おちむしや》がきたら片ッぱしから追いかえせよ、と厳命してあった。叔父《おじ》であろうが、肉親《にくしん》であろうが、亡国《ぼうこく》の血すじのものとなれば、よせつけないのが戦国のならいだ。忍剣もうらみをのんでふたたびどこかの山奥へもどるより術《すべ》がなかった。今はまったく袋《ふくろ》のねずみとなって、西へも東へもでる道はない。
 ゆうべは、裾野《すその》の青すすきを|ふすま《ヽヽヽ》として寝《ね》、けさはまだ霧《きり》の深いころから、どこへというあてもなく、とぼとぼと歩きだした。やがてその日もまた夕暮れになってひとつの大きな湖水《こすい》のほとりへでた。
 このへんは、富士の五|湖《こ》といわれて、湖水の多いところだった。みると汀《なぎさ》にちかく、白旗《しらはた》の宮と額《がく》をあげた小さな祠《ほこら》があった。
「白旗の宮? ……」と忍剣《にんけん》は見あげて、
「オオ、甲斐《かい》も源氏《げんじ》、白旗といえば、これは縁《えん》のある祠《ほこら》です。若さましばらく、ここでやすんでまいりましょうに……」
 と、縁へ腰をおろした。
「いや、わしは身軽でつかれはしない。おまえこそ、その鎧櫃《よろいびつ》をしょっているので、ながい道には、くたびれがますであろう」
「なんの、これしきの物は、忍剣の骨にこたえはいたしませぬ。ただ、大せつなご宝物《ほうもつ》ですから、まんいちのことがあってはならぬと、その気づかいだけです」
「そうじゃ。わしは、この湖水をみて思いついた」
「なんでござりますか」
「こうして、その櫃《ひつ》をしょって歩くうちに、もし敵の目にかかって、奪《うば》われたらもう取りかえしがつかぬ」
「それこそ、この忍剣としても、生きてはおられませぬ」
「だから——わしがせめて、元服《げんぷく》をする時節まで、その宝物を、この白旗《しらはた》の宮へおあずけしておこうではないか」
「とんでもないことです。それは物騒千万《ぶつそうせんばん》です」
「いや、あずけるというても、御堂《みどう》のなかへおくのではない。この湖水のそこへ沈《しず》めておくのだ。ちょうどここにある宮の石櫃《いしびつ》、これへ入れかえて、沈めておけば安心なものではないか」
「は、なるほど」と、忍剣《にんけん》も、伊那丸《いなまる》の機智《きち》にかんじた。
 ふたりはすぐ祠《ほこら》にあった石櫃へ、宝物をいれかえ一|滴《てき》の水もしみこまぬようにして、岸にあった丸木のくりぬき舟にそれをのせて、忍剣がひとりで、棹《さお》をあやつりながら湖の中央へと舟をすすめていった。
 伊那丸は陸《おか》にのこって、岸《きし》から小舟を見おくっていた。あかい夕陽《ゆうひ》は、きらきらと水面を射《い》かえして、舟はだんだんと湖心へむかって小さくなった。
「あッ——」
 とその時、伊那丸は、なにを見たか、さけんだ。
 どこから射出《いだ》したのか、一本の白羽《しらは》の矢が湖心の忍剣をねらって、ヒュッと飛んでいったのであった。——つづいて、雨か、たばしる霰《あられ》のように、数十本の矢《や》が、バラバラ釣瓶《つるべ》おとしに射《い》かけられたのだ。
 さッと湖心には水けむりがあがった。その一しゅん、舟も忍剣も石櫃も、たちまち湖水の波にそのすがたを没してしまった。
「ややッ」
 おどろきのあまり、われを忘《わす》れて、伊那丸《いなまる》が水ぎわまでかけだしたときである。——なにものか、
「待てッ」
 とうしろから、かれの襟《えり》がみをつかんだ大きな腕《うで》があった。
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