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神州天馬侠06

时间: 2018-11-30    进入日语论坛
核心提示:富士の山大名    二「小童《こわつぱ》、うごくと命《いのち》がないぞ」 ずるずると、引きもどされた伊那丸は、声もたて得
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 富士の山大名
 
    二
 
「小童《こわつぱ》、うごくと命《いのち》がないぞ」
 ずるずると、引きもどされた伊那丸は、声もたて得《え》なかった。だが、とっさに、片膝《かたひざ》をおとして、腰の小《こ》太刀《だち》をぬき打ちに、相手の腕根《うでね》を斬《き》りあげた。
「や、こいつが」と、不意をくった男は手をはなして飛びのいた。
「だれだッ。なにをする——」
 とそのすきに、小《こ》太刀《だち》をかまえて、いいはなった伊那丸には、おさないながらも、天性の威《い》があった。
 あなたに立った大男はひとりではなかった。そろいもそろった荒くれ男ばかりが十四、五人、蔓巻《つるまき》の大刀《だいとう》に、革《かわ》の胴服《どうふく》を着たのもあれば、小具足《こぐそく》や、むかばきなどをはいた者もあった。いうまでもなく、乱世《らんせい》の裏《うら》におどる野武士《のぶし》の群団《ぐんだん》である。
「見ろ、おい」と、ひとりが伊那丸をきッとみて、
「綸子《りんず》の小袖《こそで》に菱《ひし》の紋《もん》だ。武田伊那丸《たけだいなまる》というやつに相違《そうい》ないぜ」と、いった。
「うむ、ふんじばって織田家《おだけ》へわたせば、莫大《ばくだい》な恩賞《おんしよう》がある、うまいやつがひッかかった」
「やいッ、伊那丸。われわれは富士の人穴《ひとあな》を砦《とりで》としている山大名《やまだいみよう》の一手だ。てめえの道づれは、あのとおり、湖水のまンなかで水葬式《みずそうしき》にしてくれたから、もう逃げようとて、逃げるみちはない、すなおにおれたちについてこい」
「や、では忍剣《にんけん》に矢を射《い》たのも、そちたちか」
「忍剣かなにか知らねえが、いまごろは、山椒《さんしよう》の魚の餌食《えじき》になっているだろう」
「この土《つち》蜘蛛《ぐも》……」
 伊那丸は、くやしげに唇《くちびる》をかんで、にぎりしめていた小《こ》太刀《だち》の先をふるわせた。
「さッ、こなけりゃふんじばるぞ」
 と、野武士《のぶし》たちは、かれを少年とあなどって、不用意にすすみでたところを、伊那丸は、おどりあがって、
「おのれッ」
 といいざま、真眉間《まみけん》をわりつけた。野武士《のぶし》どもは、それッと、大刀《だいとう》をぬきつれて、前後からおッとりかこむ。
 武技《ぶぎ》にかけては、躑躅《つつじ》ケ崎の館《やかた》にいたころから、多くの達人やつわものたちに手をとられて、ふしぎな天才児《てんさいじ》とまで、おどろかれた伊那丸《いなまる》である。からだは小さいが、太刀《たち》は短いが、たちまちひとりふたりを斬《き》ってふせた早わざは飛鳥のようだった。
「この童《わつぱ》め、味《あじ》をやるぞ、ゆだんするな」
 と、野武士《のぶし》たちは白刃の鉄壁《てつぺき》をつくってせまる。その剣光のあいだに、小太刀ひとつを身のまもりとして、斬《き》りむすび、飛びかわしする伊那丸のすがたは、あたかも嵐《あらし》のなかにもまれる蝶《ちよう》か千鳥のようであった。しかし時のたつほど疲れはでてくる。息《いき》はきれる。——それに、多勢《たぜい》に無勢《ぶぜい》だ。
「そうだ、こんな名もない土賊《どぞく》どもと、斬《き》りむすぶのはあやまりだ。じぶんは武田家《たけだけ》の一粒としてのこった大せつな身だ。しかもおおきな使命のあるからだ——」
 と伊那丸は、乱刀のなかに立ちながらも、ふとこう思ったので、いっぽうの血路をやぶって、いっさんににげだした。
「のがすなッ」
 と野武士たちも風をついて追いまくってくる。伊那丸は芦《あし》の洲《す》からかけあがって、松並木へはしった。ピュッピュッという矢のうなりが、かれの耳をかすって飛んだ。
 夕闇《ゆうやみ》がせまってきたので、足もともほの暗くなったが松並木へでた伊那丸は、けんめいに二町ばかりかけだした。
 と、これはどうであろう、前面の道は八重十文字《やえじゆうもんじ》に、藤《ふじ》づるの縄《なわ》がはってあって、かれのちいさな身でもくぐりぬけるすきもない。
「しまった」と伊那丸《いなまる》はすぐ横の小道へそれていったが、そこにも茨《いばら》のふさぎができていたので、さらに道をまがると藤《ふじ》づるの縄《なわ》がある。折れてもまがっても抜けられる道はないのだ。万事休《ばんじきゆう》す——伊那丸は完全に、蜘蛛手《くもで》かがりという野武士《のぶし》の術中におちてしまったのだ。身に翼《つばさ》でもないかぎりは、この罠《わな》からのがれることはできない。
「そうだ、野武士らの手から、織田家《おだけ》へ売られて名をはずかしめるよりは、いさぎよく自害《じがい》しよう」
 と、かれは覚悟をきめたとみえて、うすぐらい林のなかにすわりこんで、脇差《わきざし》を右手にぬいた。
 切っさきを袂《たもと》にくるんで、あわや身につきたてようとしたときである。ブーンと、飛んできた分銅《ふんどう》が、カラッと刀の鍔《つば》へまきついた。や? とおどろくうちに、刀は手からうばわれて、スルスルと梢《こずえ》の空へまきあげられていく。
「ふしぎな」と立ちあがったとたん、伊那丸は、ドンとあおむけにたおれた。そしてそのからだはいつのまにか罠《わな》なわのなかにつつみこまれて、小鳥のようにもがいていた。
 すると、いままで鳴りをしずめていた野武士が、八ぽうからすがたをあらわして、たちまち伊那丸をまりのごとくにしばりあげて、そこから富士《ふじ》の裾野《すその》へさして追いたてていった。
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