一
客の頭数やら、手伝いの者やら、二人は即座にとり決めた。
その後で、思い出したように、半蔵が、不意に云った。
「忘れていたわい、庄次郎、そちも何としたことだ」
「は?」
「は、じゃない、昨日《きのう》、入江先生より頂戴《ちようだい》して参った免許の目録やら皆伝の巻《まき》があろう。なぜ、叔父《お じ》御《ご》に、お見せ申さぬ。父にも見せい」
「は」
「どこへ置いた。——重助、重助っ」
「あ、ちょっと、お待ちください。重助には、わかりません」
「では、持ってこい」
「は」
「何を猶予《ゆうよ》いたしておる」
「ええと? ……」
頭をかかえて、考えを絞《しぼ》るように、
「暫時《ざんじ》……暫時、お待ちを」
何か、まごまごしながら、立って行く庄次郎の牛みたいな鈍重さを振り向いて、
「いいところがある」
鉄之丞が、惚《ほ》れこむと、
「ははは、左様かな」
「晩成ものじゃ、大器という人物は、ああでなくては」
「いったいに、幼少から、八十三郎めの病弱で気の強いのとは反対に、喜怒哀楽をあらわさぬ奴での。変わっておったよ」
野呂間《のろま》な姿までが、にわかによく見えてきて、半蔵は、自慢らしく云った。
その庄次郎の顔が、やがて、ぬうと襖《ふすま》を開けて、
「父上。——ありません」
「皆伝の目録や巻《まき》がない?」
「ハ……。たしかに、小風呂敷《こぶろしき》に包んで、机の上に、おいたはずですが」
「では、あろうが」
「それが、いくら見ても——」
「どうした理《わけ》じゃ」
「猫が引いて行ったのかも知れません」