二
媒人《なこうど》やら、叔父の小林鉄之丞やら、婚家の定紋提灯《じようもんちようちん》をぶら下げて、麻裃《あさがみしも》の影を、ゆらゆら、藪に描きながら、だらだら坂を降りて行った。
宵《よい》の五刻《いつつ》に、江戸川上水の琵琶橋《びわばし》(今の石切橋)に着く——という嫁方との打ち合せなので、その輿《こし》を、出迎えるためだった。
九月の十三日。後《のち》の月だ。
手伝いに来ている、小林の中間《ちゆうげん》が、
「誰しも、吉《よ》い日を選ぶとみえましてな、今宵は、こちらへ参る途中で、四、五軒も高張提灯《た か は り》を見うけましたよ」
そんなことを、話しながら先に歩いて行く。
琵琶橋の袂《たもと》に、灯《あかり》を寄せて、佇立《たたず》みながら、花嫁の列を、待っていたが、なかなか来ない。
「どうしたのか?」
媒人は、そろそろ心配顔に、
「父《おや》も娘も、物堅いので有名な石川家のこと、間違いはあるまいが、それにしても……」
と、眉《まゆ》がくもる。
遅い。約束の時刻は、よほど過ぎている。媒人などはするものではないと悔いているらしいのである。鉄之丞も、焦々《いらいら》していた。
すると、
「や、見えました」
中間が、橋の袂で、どなる。
「ほ、来たか……」
愁眉《しゆうび》をひらいて、人々は、上水の川尻へ眼をやった。大曲《おおまがり》の方から、川端を、悠長《ゆうちよう》に練ってくる一列の提灯と駕《かご》とが、それらしく見える。
「なるほど、あれでは、暇どるはずじゃ」
「だが、紋は」
「鷹《たか》の羽《は》、丸に鷹の羽」