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技巧的生活44

时间: 2018-12-06    进入日语论坛
核心提示:   四十四 盛夏である。 道は白く乾いていた。 病院は、小さな白い洋館だったが、堅固な建物である。 診察室の中に白いカ
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    四十四
 
 
 盛夏である。
 道は白く乾いていた。
 病院は、小さな白い洋館だったが、堅固な建物である。
 診察室の中に白いカーテンの仕切りがあり、その奥に診察のためと手術のための椅子が一台置かれてある。
「あなた、そこにいてね」
 ゆみ子は油谷に声をかけ、カーテンの陰に姿を消した。油谷の顔が青くみえた。居心地わるそうに、浅く椅子に腰をおろしている。虐めている快感を覚えるよりも、そういう油谷には魅力が失われている。もっとふてぶてしく横着に振舞っている油谷のほうが、魅力的である。平凡な当り前の男として、いま油谷は椅子に坐っている。
 椅子の上のゆみ子の背が、深く倒れた。両方の足首と膝頭の下が固定され、両脚がしだいに大きく離されてゆく。まったく同じ姿勢を強いられた記憶が浮びかかったとき、鼻の先にピカピカ光る漏斗型の麻酔器具が迫ってきた。
 意識が戻ったときには、ゆみ子は病室のベッドにいた。眼の前の外界がしだいに明瞭な像を結び、そこに油谷の顔があった。それは、たしかに油谷の顔なのだが、別人のようにみえる。
「無事に、終ったよ」
 彼は、優しい声で言った。その言葉を、ゆみ子は躯の底で受取った。
 麻酔の名残がまったく躯から去ってからも、依然として油谷の顔は別人のようにみえる。
「もう、帰ろう」
「だいじょうぶかしら」
「そんなに、こわごわ起き上らなくても、心配はない」
 突然、自信に満ちた口調になり、その移りかわりにおもわずゆみ子は油谷の顔をみた。しかし、その顔には、いつものふてぶてしさは戻っていない。
 病院を出て、タクシーに乗った。蒸し暑い。白い乾いた道が、いつまでもフロントガラスの前にあらわれてくる。油谷の顳〓に汗の粒が浮んでいるが、その顔はおだやかだ。
「とにかく、無事に終った」
 念を押すように油谷は言い、ゆみ子は反射的に腹をおさえた。膨らみが掌に触れてきたとおもったとき、耳もとで油谷の小さな声が聞えた。
「すぐには引込みはしないさ。しだいに、元通りになる」
 また、沈黙に戻った。不意に油谷が運転手に声をかけ、車が停った。
「お茶でも飲むことにしよう」
「でも、はやく帰って、寝ていなくてはいけないのじゃなくって」
「大丈夫だ。ちょっと話がある」
 車を降りた。北欧風を模した建物が、道の傍にある。窓の傍の席に向い合って坐り、メニューを取上げた油谷は、
「腹がすいた。なにか食べよう、きみは」
「だって……」
 非難する眼で、油谷を見た。
「蝦《えび》が好きだったね。コールド・ロブスターを二つ貰うか。それに、冷たいコンソメとパンだ」
 給仕が立去ってから、ゆみ子は咎める口調で言った。
「どうしたの。いま、お食事なんかできないじゃないの」
「ともかく、無事に終って、安心しただろう」
「それはそうだけど」
「さっぱりしただろう」
「さっぱり、だなんて。あたしの気持が分っていないのね」
「いや、躯が軽くなったような気がするだろう、という意味なんだ」
「そういえば、そんな気持もするわ」
 油谷は、たしかめる眼で見詰めている。
「それなら、もう大丈夫だ。きみの躯には、傷は無い。麻酔をかけてから、すぐに分った。本ものの妊娠ではなかった。想像妊娠だったんだ」
「そんな……」
「掻爬をした、という感覚がいまきみの躯に行きわたっている。もう、大丈夫だ。その感覚がないと、まだ腹がふくれてゆくこともあるそうだ」
 一瞬、ゆみ子は呆気にとられた。呼吸が深くなり、腹部が大きく起伏した。たしかに、痛みはない。騙された心持に陥ったが、誰が誰を騙したのか、判断がつかなかった。
 想像妊娠という言葉は、聞いたことがある。子供が欲しいとおもい詰めると、受胎していなくても妊娠と同じ状態になる、と聞いたことがある。
「欲しかったの」
 と、ゆみ子は油谷に告げたが、それは嘘の言葉だ。言葉とは逆に、妊娠にたいする不安が強かったのだ。
 そのとき、油谷の声が聞えてきた。別人のような顔から出たその言葉は、生あたたかくゆみ子の耳に届いた。
「きみ、そんなにまで、ぼくの子供が欲しかったのか」
 ゆみ子は、半ば放心して坐っていた。テーブルクロスの白い拡がりが、眼にぼんやりと映っている。その拡がりの中に光る条《すじ》が混っているのは、並べられたナイフとフォークであろう。
 手術台に坐り、背が深く倒れ、麻酔がかけられた。それなのに、覚めたあとも躯の状態は前と同じだという。もともと妊娠などしていなかった、想像妊娠だったのだ、といま油谷は告げている。
 嘘をついている気配は、油谷から感じられなかった。なによりも、ゆみ子の躯がその言葉を嘘ではないと感じた。もう一度、椅子の上で躯を軽く揺すってみる。先刻、手術台の傍に並んでいた掻爬のための沢山の器具が眼に浮んだ。あの冷たく滑らかな光を放っている器具で、躯の中を探られた感覚は、すこしも残っていない。
 想像妊娠であったことを、信じないわけにはいかなかった。しかし、なぜそんなことが起ったのか。あらためて、ゆみ子は一つ一つその原因となる要素を頭の中で並べてみた。
一、躯の中に油谷の精液を感じ、その感じがながながと尾を曳いて残ったこと。それは、恐怖と呼べるほどの強い感情とはつながらなかったが、長く続く不安となって、体内に残った。
一、よう子が妊娠したということ。しかも、祝福されてその子を産むということに、刺戟を受けた。その事実が、躯の奥に応えた。
一、その事実に触発されて、はっきりした形をもって甦らないわけにいかなくなった過去。その過去は、いくつもの小さな黒い点となって、躯の底を刺した。断続して鳴りつづける、無人踏切の鐘の音。走り過ぎてゆく電車の轟音。こまかく揺れる木製のベッド。電車が躯の中を貫き通ってゆく錯覚。そして、宙吊りになっている、水を満たしたガラス瓶……。
一、ホテルのロビーで、よう子が流産したときの衝撃。
 結局、妊娠についての不安と嫌悪と恐怖感とが、想像妊娠を引起したことになる、とゆみ子はおもった。
 半ば放心した頭の片隅がゆっくりと回転して、その答を出したのだ。油谷の言葉は、ゆみ子の耳に届いていたが、その意味が心に伝わってくるのには時間がかかった。想像妊娠という事実について、納得がついたような心持になったあとで、ようやく油谷の言葉が心に伝わってきた。
「きみ、そんなにまで、ぼくの子供が欲しかったのか」
 ゆみ子は、声を上げて笑い出しそうになった。妊娠したいと思い詰めることと、妊娠への恐怖との差は、あまりにはなはだし過ぎる。しかし、油谷の誤解を滑稽なものとして笑って済せることができ難いものが残った。たしかに、想像妊娠は恐怖感を基盤として起ったものだ。しかし、油谷という人間にたいするはっきりした恐怖や嫌悪がゆみ子の心にあるわけではない。いま、油谷は、ゆみ子の恋情が自分に向けられていることを、確信したようだ。
 レストランのテーブルを挟んだ向う側の油谷は、頸筋がまっすぐに伸び、引締った顔に見えた。眼が平素より大きく、色が濃くなり、奥からの光があった。しかし、ゆみ子自身は……。
 自分にとって油谷は何者だろう、という問いかけを、ふたたびゆみ子は自分に向けた。しかし、依然として答は出てこない。曖昧な表情のまま、ゆみ子は彼と向い合っていた。油谷の顔には、はっきりした表情が刻み込まれている。その顔の前で、いつまでも曖昧な表情でいることに、ゆみ子はかすかな狼狽と居心地悪さを覚えた。それなのに、顔の曖昧さを消すことができない。同じ状態がつづくことは、苦痛だ。ゆみ子は焦りを覚え、口を開いた。ともかくも、なにか言葉を出そう。言葉を選ぶ暇《いとま》はなかった。
「想像妊娠なんて、話には聞いていたけど、まさか自分がそうなるとは思ってもみなかったわ。あ、そうそう、いつか隣の犬が想像妊娠をしたことがあったっけ」
 油谷は、慎重な口調で、
「きみ、犬には想像妊娠はない。動物には縁のない事柄だよ」
「でも、犬だって相手の好き嫌いがあるわ。いつも失恋している犬もいるわ。だから、想像妊娠をすることもあるわけでしょう」
「それは違う。動物は本能によって相手を選り好みするが、恋愛はしない。難しくいえば、動物には知情意の平衡感覚が備わっていないから、恋愛することはできない。したがって、想像妊娠は起り得ない」
「よく分らないけれど……、それでは、お隣の犬はどうしたのかしら。おなかが大きくなったのだけど、子供は入っていなかったのよ」
「それは、きっと病気だったのだ」
「病気……。それで、あたしのおなかの中には、いったい何が入っていたのかしら」
「入っていた、という言い方は、やはり違うね。なぜ大きくなるかというと、子宮筋層(つまり子宮の……、と彼は言葉をほぐして説明し)の肥大と、皮下脂肪の沈着のためだ。だから、つっぱった感じがしないで、だぶついた感じになる。いや、二、三ヵ月ではまだその感じは分らないだろう、臨月に近くなると、そういう具合になるそうだ」
 油谷の説明に、生硬な言葉がまじった。先刻、ゆみ子が麻酔で意識を無くしているあいだに、医師から得たばかりの知識にちがいあるまい。ということは、ゆみ子の想像妊娠の事実が、疑いをさしはさむ余地のないものである証明になる。
「ずいぶんくわしいのね」
「さっき、聞いたばかりだ」
 油谷は正直に言い、
「ただ、きみに手術が済んだという気持をもってもらうことが必要だった。それが曖昧だと、まだどんどんおなかが大きくなってゆくそうだ。臨月の大きさにまでなる。その場合は、入院して産室に運び入れ、麻酔をかけて架空のお産をさせる。もう出産した、という暗示をかけることで、元に戻るのだそうだ。しだいに、少しずつ元に戻る」
 料理が運ばれはじめ、ゆみ子は皿の上に俯いて食事をすることによって、表情の曖昧さを、彼の眼から隠せるようになった。食事が終ると、油谷はやさしく言った。
「きみの部屋へ、送ってゆくよ」
 そのやさしさに、ゆみ子は、やはり戸惑う。愛されているとおもう気持から、出てくるやさしさだろうか。それにしても、遊び人風の厚顔さをもった油谷としては、他人の愛を信じるその信じ方が、素朴すぎるとはいえないだろうか。
 これまでの人生で、油谷という男は愛に飢えていたのだろうか。はげしく愛されたことが、一度もなかったのだろうか。いったい、彼はどういう結婚をしたのだろう。たとえば、相手の女性が思い詰めて想像妊娠をするほどのはげしい心持をそそがれることが、彼の願望だったのだろうか。
 案外、油谷には初心なところがあるのかもしれない。いや、その願望が、彼の盲点に似たものを形づくっているのだろうか……、とゆみ子が考えたとき、油谷の声が聞えた。
「きみには、初心なところがある。最初会ったときに、すぐ分った。そこが、好きだ」
 その言葉を、どう解釈したらよいだろうか。どこかに罠があるのか。よう子を背後で操っている男と、よう子との結びつきは、いったいどういう形でおこなわれたのだろう、という考えさえ、心に浮んだ。ゆみ子は、疑い深くなっている自分の心を知る。そういう心のうしろには、いくつもの過去の場面が積み重なっている。
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