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贋食物誌27

时间: 2018-12-08    进入日语论坛
核心提示:    27 納豆(なっとう)㈰ 人間の声には、職業とその人の精神構造が滲《し》みこんでいる。 あるとき、ある病院の待合室
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     27 納豆(なっとう)㈰
 
 
 人間の声には、職業とその人の精神構造が滲《し》みこんでいる。
 あるとき、ある病院の待合室の椅子に腰かけて本を読んでいると、すこし離れたところから話し声が聞えてきた。
 その声音を聞いて、「あ、この人は自分と同じ職業だな」とおもい、眼を上げると中村光夫さんが立ち話をしていた。私は自分のカンに満足して、また本を読みはじめた。
「声柄」という言葉があるが、それによって人柄まで判断できるかどうか、私はできる気でいるのだが、はたしてどうか。
 七年ほど前のある日、男の声で電話がかかってきた。
「もしもし」
 という声だけで、これは同じ職業の人ではないな、と分かる。
「じつは、あたしは刑務所に二年入っていまして、今度出てきました。そのときに日記をつけていたので、それをセンセイに買っていただきたい」
 歓迎できる話ではない。
 刑務所のことはよく知らないが、おそらく日記をつける場合には検閲があるだろう。とすれば、その内容は期待できまい。
 ただ、その「声柄」がなかなか良い。生来の野次馬根性で、会ってみたくなった。
「私は材料を使って小説を書くことは、ほとんどないので、その日記を買う気はない。ただ、些少《さしよう》の拝見料だけなら差上げましょう」
 中年の男があらわれた。
 近県のヤクザの親分で、賭博の手入れをされて二年間ムショに入っていた、という。ロイド眼鏡をかけ、下町の商店主といった実直そうな風貌の人物で、きちんとネクタイを締めている。
 藁《わら》|づと《ヽヽ》に入った納豆とヨーカンを、土産にくれた。すっかり足を洗って、カレーライス屋でもささやかにやってゆきたい。一度バクチを開帳すれば、そのくらいのモトデはすぐ集まるが、それはもうやりたくない。なんとか金を集めて……、というようなことを言い、いかにも真実味のある表情なのだが、当然私は疑っている。
「約束どおり、拝見料は差上げますが、かりにその日記を材料につかうということで買うとしたって、カレーライス屋のモトデの何十分の一にもなりませんよ」
 と、念を押しておいた。
 その男は、十冊ほどの大学ノートにこまかく書きこんだ日記を持っていたが、予想どおり内容は平凡であった。
 半月ほどして、彼が突然訪れてきた。前と同じように納豆をもっている。あれは、藁に入っていないと、どうも感じが出ない。そこまでは有難いのだが、
「財布を入れといた上衣を盗まれて、帰りの汽車賃がなくなりました。すみませんが、貸してください」
 仕方がないので、世間話をして、金を渡した。三度目に訪れてきたときは、納豆は持ってきてくれたが、なにも要求しなかった。雑談のあげく、彼がこう言う。
「センセイ、ヤクザとつき合うときは、もうここまで、とピシャッとやらなくちゃいけませんよ。
キリがなくなります」
 それは、私も知っている。
 いったい彼の目的は何だったのか。小説家という種族を痛めつけてやろう、とでもおもっているうちに気が変ったのだろうか。
 その後、カレーライス屋開店のチラシを送ってきた。いまでも、年賀状がくる。
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