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今日からマ王3-3

时间: 2018-04-29    进入日语论坛
核心提示:     3 |眞魔《しんま》国国主である歴代魔王からの委任を受けてカーベルニコフ地方を治めるのは、フォンカーベルニコフ
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 |眞魔《しんま》国国主である歴代魔王からの委任を受けてカーベルニコフ地方を治めるのは、フォンカーベルニコフ卿デンシャムだ。彼は十貴族の中でも特異な存在で、武術よりも商才に長《た》けている。そつなく抜け目ない性格だが、意外にも王への忠誠心は厚く、国家財政のためにならと納税額も桁違《けたちが》いだ。第二十七代魔王の滞在《たいざい》を知り、ぜひにと目通りを願ったのだが、時すでに遅《おそ》くユーリは馬上の人となってしまっていた。どうにかしてご用邸《ようてい》以外の場所にお出ましいただき、その場を後々「魔王陛下|謁見《えっけん》の間」として公開、拝観料をとろうというデンシャムのもくろみは皮算用に終わった。こうなったら魔王陛下ご滞在記念|硬貨《こうか》でも造ろうかと、名物・カーベルニコフパイをかじりながら考えている。
 彼には妹が一人いるが共通点は髪《かみ》と瞳の色だけで、性格も言動も頭の中も、違いっぷりは魔族似てねえ三兄弟といい勝負だ。魔[#「魔」に傍点]族ながら神[#「神」に傍点]出鬼没のその女性にとって、金儲《かねもう》けなどは意味をなさない。彼女の興味の対象はただ一つ、魔術の日常への応用だ。彼女の持論《じろん》は、こんなに便利で面白《おもしろ》い能力が|戦闘《せんとう》時しか役に立たないなんてもったいなさすぎる。日常生活に生かしてこそ、魔力の真価が発揮される、というものだ。そのためには一に実験、二に実験、三四は内《ない》緒《しょ》で五に実験だ。
 三四が何なのか、これまでは隣接《りんせつ》するヴォルテール地方の幼馴染《おさななじ》みしか知らなかった。
 そして今、新たな標的が彼女の前に……。
「せっかくの陛下の|匂《にお》いが消えてしまうのは残念ですが、大切なお召《め》し物《もの》ですからきちんと洗濯《せんたく》してお手入れしなくては。最終工程のシワ取りは熱した鏝《こて》を使う危険なものですからね。他人《ひと》任せにするわけにはまいりません」
「でもギュンター、それは洗濯女のすることじゃなくて? お仕事を取り上げてしまったら、あの娘《むすめ》たちきっと悲しむわ」
「何をおっしゃいますかツェリ様。陛下のお世話はこのギュンターの務め。洗濯したお召し物を着心地《きごこち》よく仕上げることも、教育係の大切な義務です」
 大変な勘違《かんちが》いだ。
「今、着心地よく仕上げると言いましたね?」
 ギュンターとツェツィーリエの視線は、開け放たれた扉《とびら》の向こうに同時に注がれた。小柄《こがら》でほっそりとしたご婦人が、背筋を伸《の》ばして立っている。凜然《りんぜん》と響く声は自信にあふれ、やや吊《つ》り気味の水色の瞳は、意志の光に満ちて明るい。燃えるような赤毛をきりりとまとめて、高い位置から背中まで垂らしている。気の強そうな美人の登場に、教育係は超絶《ちょうぜつ》美形の顔色を変え、セクシークィーンは胸の前でぱんと手を打ち合わせた。
「アニシナ!」
 フォンヴォルテール卿グウェンダルの幼馴染みにして編み物の師匠《ししょう》、眞魔国の三大魔女としてツェリ様と並び称《しょう》される女性、フォンカーベルニコフ卿アニシナ、その人である。
「アニシナ、まぁあ、ほんとにお久しぶり! このところ息子《むすこ》とも会っていないようだから、あたくしとてもとても気にしていたの」
「ご無沙汰《ぶさた》しております、上王陛下。ご健勝そうでなによりです。フォンクライスト卿も」
「え、ええ、アニシナ殿《どの》も……」
「前置きはさておき!」
 他人の話を最後まで聞きやしない。
「居てくださって助かりました。グウェンダルを探していたのですが、どうやら領内には居ないらしくて。協力していただきたいことがあるのです。わたくし万民《ばんみん》のありとあらゆる衣類を着心地よく仕上げるために、一つの発明をしてみましたので、よろしければ実験にお付き合い願いたい」
「……じ、実験台?」
「失礼な。もにたあです。よろしいですか? よろしいですね!」
 一人時間差断定口調。
「ではご覧いただきましょうか。わたくしの最新自信作、ぜーん! じーどーォまーりょーくーせーんたーくきィー!」
 作品|紹介《しょうかい》部分だけ、何《なぜ》故か|奇妙《きみょう》なドラえもん調。
 
 
 あの時のおれの選択は、決して間違っていないはずだった。
 なのにどうして美女にレイを掛《か》けてももらえず、泥《どろ》のプールにダイブした気分なのだろう。運良く難を逃《のが》れた斑馬《ぶちうま》を見つけ、おれたちは二人きりで進み始めた。とにかく早く|砂丘《さきゅう》を抜《ぬ》けなくてはならない。夜は急激に温度が下がり、素人《しろうと》連れでやり過ごすには厳しすぎる。もっともおれにとっては昼だって地獄《じごく》で、酷暑《こくしょ》で今にも意識を失いそうだ。正気を保つためにも声を出し続けようと、たった一人の旅の仲間に言葉をかけるのだが、「ああ」「いや」以外の返事しかしてくれないし、長い問いには|黙秘《もくひ》権《けん》だ。意思の疎通《そつう》のなさからすれば、夫婦《ふうふ》ならとっくに家庭内別居。
 考えてみれば相手は眞魔国一おれを嫌《きら》ってる男で、公園の小便|小僧《こぞう》くらいにしか思われていない。貴重な水をチョロチョロ出す分だけ、あっちのほうがランキング上位だろう。いつものごとく不|機嫌《きげん》で無表情だから、何を考えているのかも読みとれない。想像しうる限りでは最悪のペアで、息苦しいことこの上なし。
 どういう態度で接したものだかよく判《わか》らずに、揺《ゆ》れる馬の背にタンデムしながら、腰《こし》に手を回してもいい? なんて初々《ういうい》しいことを|訊《き》いてしまった。中学生の初デートじゃないんだからさ……。こんなことなら安岡《やすおか》力也《りきや》と二人きりにされるほうがずっとましだ。だってとりあえず「おれも黒飴《くろあめ》マンだったんです」って告白すれば、会話のきっかけにはなるじゃないか。
 どうしておれにだけ|凶悪《きょうあく》パンダが見えたのかとか、どうしてあんただけ砂に飲み込まれずに済んだのかとか、コンラッドとヴォルフラムと兵の皆《みな》さんは、どのように蟻地獄《ありじごく》から|脱出《だっしゅつ》するのかとか、知りたいことは山ほどある。けど今はこの砂丘を抜けることが先決で、自分にできるのは落馬しないように踏《ふ》ん張ることだけだ。
「おい」
「はい?」
 グウェンダルが革《かわ》の水嚢《すいのう》を差し出していた。
「いいよ。おれさっき飲んだばっかだし」
 実をいうと、さっきがいつなのか思い出せない。でも確実におれのほうが|頻繁《ひんぱん》に飲んでいる。
 夏場の部活経験から、水分の大切さは身にしみて解《わか》っているし、熱中症《ねっちゅうしょう》や脱水症状《だっすいしょうじょう》の恐《おそ》ろしさも、一般《いっぱん》の人よりは知っているつもりだ。だけど残り僅《わず》かの水を独《ひと》り占《じ》めするわけには……。
「口をこじ開けられたいか?」
「……いただきます」
 そんな、脅《おど》しみたいに言われたら、毒と知ってても飲んでしまいそう。あっ、まさか本当に一服盛っていて、目撃者《もくげきしゃ》がいないのをいいことに、目の上のたんこぶのおれを消し去ろうなんて企《たくら》んでるんじゃないだろうな!? そんな面倒《めんどう》なことをしなくても、この場に一人で放り出されれば、十中八九、黄色い砂の餌食《えじき》だろう。大自然の前には人間一人の生命などこんなにも儚《はかな》いものなのです。生き物地球紀行の映像とナレーション。広大な|砂漠《さばく》の直中《ただなか》にポツンと転がる白骨化した自分。たとえコッヒーとして生き返れても、全身骨だけじゃ野球もできない。バッターボックスに立ったところで、デッドボール一球で文字どおり粉骨砕身《ふんこつさいしん》だ。まさに死球。てゆーか、お前はもう死んでいる。
 またしても幻覚《げんかく》が見えてきた。今度は砂風の向こうに|蜃気楼《しんきろう》の街だ。乾《かわ》いて痛む|瞼《まぶた》を擦《こす》っても、揺らぐ建造物はなくならない。しかもコンタクトが動いたのか、デリケートな眼球に異物感が。
「気のせいかな、街が見えるんだけど」
 グウェンダルは|黙《だま》ったままだったが、進行方向は一致《いっち》している。街並みは、近づくにつれてはっきりしてきた。黄土色で統一されているのは、砂丘の砂をセメントに混ぜたからだろう。初歩のコンクリート造りということだ。
 中央の|巨大《きょだい》な建築物だけは、石を積み上げた堅固《けんご》な造りだ。住民の心の拠《よ》り所なのか、それとも政治の中心なのか。暑さで朦朧《もうろう》とした頭では、細かい観察などとても無理だった。
 街は小規模だが縦に長く、いわゆる「どこそこ銀座商店街」一本分だった。といっても華《はな》やかな店などなく、売る物があるのかないのかも判らないような、埃《ほこり》っぽく汚《よご》れた間口が並ぶばかり。女性が何人か歩き回り、子供が地べたで遊んでいた。ぐるりと土地を囲む警備兵は異様に多いが、男の住民の姿はない。
「どういう街だろ」
 おれたちが馬のまま乗り入れようとすると、警備の責任者らしき兵が寄ってきた。袖《そで》のない簡素な軍服で、腰には長くて重そうな剣《けん》を帯びている。日に焼けきった赤銅《しゃくどう》色の顔をにやけさせ、焦《こ》げ茶《ちや》の髪《かみ》を独特の形にカットしている。脇《わさ》をすっかり刈《か》り上げて、丸く残した頭頂部の毛先だけを赤く染めているのだ。いわゆる軍人カットらしいが、頭にアレを載《の》せている状態。
「……イクラの軍艦《ぐんかん》巻き」
 皆で動くと回転|寿司《ずし》みたい。
「馬は入れねえ」
 グウェンダルは黙って鞍《くら》から降り、手を貸すふりで顔を隠《かく》すようにと囁《ささや》いた。回転寿司代表が訊いてくる。歯の間から息が漏《も》れてる喋《しゃべ》り方だ。
「砂丘からキたのか」
「ああ」
「ほう、そりゃすげえ! ヒねもすに遭《あ》わなかったのか」
 ひねもす!? それは砂地なんかじゃなくて、春の湖をのたりのたりと泳いでる|恐竜《きょうりゅう》だろう?
 グウェンダルの抑揚《よくよう》のない返事では、寿司ネタ達が笑っている理由は判らない。
「遭わなかったな」
「運がイイな!」
「馬を休ませたい、それに水と食糧《しょくりょう》も調達したい。宿はあるか?」
「さあ、シらねえ」
 集団はゲヒゲヒとやかましく笑う。命知らずな連中だ。この人にそんな失礼な態度をとるなんて、無礼|討《う》ちにされても文句は言えない。ところが、|冷徹《れいてつ》無比、絶対無敵、|魔族《まぞく》の中の魔族フォンヴォルテール|卿《きょう》グウェンダルは、じろりと相手を睨《にら》んだ後に、信じられないほど下手に出た。
「休める場所があればお教え願いたい。水と食糧も分けてもらえれば助かるのだが」
「金シだイってとこだ」
 おれはもうただただ驚《おどろ》いてしまって、黙ってついてゆくことしかできなかった。
 街は選挙が迫《せま》っているのか、至る所にポスターが貼《は》ってある。男女二人の候補者の顔は、幼稚園児《ようちえんじ》の|傑作《けっさく》レベルだった。マルかいてちょん、みたいな。下に書かれている文章はおれには読めない。
「ここにいろ、迂闊《うかつ》なことはするな」
 グウェンダルは一軒《いっけん》の店へと姿を消し、おれは通りに取り残された。乾いた地面にしゃがみこんでいた子供達が、三歩先の円めがけて何かを放った。遊び道具は錆《さ》びた|釘《くぎ》だ。
「大人になったら大工さんになりたいの?」
「大工? なにいってんのー、男はみんな兵士になるんだよーう。でないと食ってけないもんよーう。なー?」
 同意を求める「なー?」に彼等は即座《そくざ》に|頷《うなず》く。
 母親らしき女性が|緊張《きんちょう》した声で、家に入れと子供を叱《しか》った。髪も目も茶色にしているのに、それでもおれは|不吉《ふきつ》に見えるのだろうか。
「おい、これ……」
 円の中から遊び道具を拾っても、受け取りに来る男の子はもういない。右手首のデジアナGショックによると、数え慣れた二十四時間制では午後三時半。暑さはまだまだおさまらず、顎《あご》から|汗《あせ》が滴《したた》った。
「旅のひと」
 優《やさ》しい声に振《ふ》り向くと、巨大な建造物の扉《とびら》から|綺麗《きれい》なおねーさんが手招きしていた。あれだけ|睫毛《まつげ》が長ければ、砂から眼球を守れるだろう。
「そこは暑いでしょ。お連れさんを待つなら教会の中にいるといいよ」
 知らない土地で飲み食いしてはいけないと教育係に叩《たた》き込まれたが、|涼《すず》しい所に避難《ひなん》するくらいは問題ないだろう。石造りの建物はひんやりしていて、ホームから電車に乗ったみたいに汗が一気に引いていった。どうやらこの国の神様らしき存在が、|両脇《りょうわき》の壁《かべ》から正面の祭壇《さいだん》に達するまで、ずらりと横一列に並んでいる。その数およそ三百体の……。
「わ、|藁人形《わらにんぎょう》……?」
 別の意味でも涼しくなった。偶像崇拝《ぐうぞうすうはい》も甚《はなは》だしい。
「お前達も神に祈《いの》ることがあんのかイ?」
 さっきのイクラの軍艦巻きが、自分の背中で戸を閉めた。七、八人の仲間が一緒《いっしょ》で、プチ回転寿司状態だ。いやな予感がする。おれはイクラより鮭《さけ》のほうが好きなので。
「あんまし祈んないな。野球の神様くらいにしか」
 祈っても打てた例《ためし》がない。男達はおれを囲い込むように、剣に手をやりながら近づいてきた。
 まさか地元の教会で、人を斬《き》ったりはしないだろうね!?
「おとなシくシてりゃ殺シやシねえ」
 シのとこ喋りづらそうだ。
 扉を|蹴破《けやぶ》る音がして、グウェンダルが外から叫《さけ》ぶ。
「出ろ!」
「えっ!? で、出ろって」
 慌《あわ》てて走ろうと足を動かすが、服の裾《すそ》を掴《つか》まれて進めない。頭部の被《かぶ》り物を剥《は》ぎ取られ、首をホールドされてつま先立ちになる。
「やっぱりな」
「やっ、やっぱり、なにっ」
 |眞魔《しんま》国の技術の粋《すい》をあつめた変装で、おれの外見は|平凡《へいぼん》な人間のはず。高貴なる黒を身に宿した特殊《とくしゅ》な存在だとか、双黒の現人《あらひと》を手に入れると不老長寿《ふろうちょうじゅ》だとか、コーヒーには砂糖もミルクも入れないのとか、黒に関することとは無縁《むえん》のはずなのだ。なのにどうして拉致《らち》されそうになってるんだろう。
 男達に促《うなが》されて、グウェンダルが苦い顔で教会に入ってくる。ここ涼しいだろなんて軽口をきけるような雰囲気《ふんいき》ではない。何が悪かったんだか見当もつかないが、今すぐにでも謝ってしまいたい。
「イくら魔族の武人でも、教会内ジゃ魔術は使えねえだろ。神様のお力に満チてるからな」
「何が望みだ、金か?」
 眉間《みけん》のしわが深くなり、口元が|僅《わず》かに引きつった。明らかに頭にきている。
「もチろん金は手二入れるが、そっちの懐《ふところ》からジゃねえ。もっと大金を稼《かせ》ぐのさ。首都の役人に突《つ》キ出せば、賞金がごっそリ入ってくるからよ……お前等、これだろ?」
 イクラちゃんは先程のポスターを広げた。
「ええっ!? おれ立候補なんかしてないよっ!?」
 一瞬《いっしゅん》、妙《みょう》な間があった。どうも選挙ポスターではなかったらしい。
「シらばっくれんな! そっくりジゃねえか」
 ええっ!? 今度の驚きはグウェンダルも一緒だ。幼稚園で母の日に描《か》かされた、スプーンに毛の生えたような前衛的な人物像が、おれたち二人に似ているというのか。
「手配。背は高く髪が灰色の魔族の男と、少年を装《よそお》った人間の女。この者達、駆《か》け落ち者につき、捕《と》らえた者には金五万ペソ」
「ペソ!?」
 またしても驚くポイントを外した気がする。グウェンダルは聞き逃《のが》していなかった。
「駆け落ち者だと? 私がか?私と……これがか!?」
「これとはなんだよ、コレとはあ! じゃなくてっ、駆け落ち者って何? ひょっとして新しい丼物《どんぶりもの》のメニュー!? それとも親に結婚《けっこん》反対されて、手に手をとって逃《に》げましょうってラブあんど逃避行《とうひこう》のこと!? そんなバカな! グウェンとおれが? 第一おれたち……」
 男同士じゃん! というツッコミを入れる前に、イクラちゃん軍団の一人が何の断りもなく、おれの胸に手を突っ込んだ。
「ぎゃ」
「……|随分《ずいぶん》と乳《ちち》のない女だな。これから成長すんだとしても」
<img height=600 src="img/061.jpg">
 大|勘違《かんちが》いのセクハラ行為《こうい》をはたらいておいてからに、困ったような顔をするな。この先、成長する予定もないし、乳は一生そのままです。もっと鍛《きた》えてマッチョになれば、ぴくぴくさせるのは可能かもしれないけど。
「まあ顔が可愛《かわい》けりゃ、坊《ぼう》やミてえな女が好ミって奴《やつ》もイるんだろうさ」
「だから女じゃねーっつってんの! 胸だけじゃなくて下も触《さわ》ってみ、下も!」
 ギュンターが|号泣《ごうきゅう》しそうな品のなさに、軍団員は当惑《とうわく》している。ああもう、いっそのこと全部脱《ぬ》いでやりたい。|自慢《じまん》できるほどのものではないけれど。
 グウェンダルも腹に据えかねて、感情をあらわに叫んでいる。
「ふざけるな! その人相書きのどこが似ているというんだ!」
「そうだー! おれよりチャーリー・ブラウンに似てんじゃんそいつッ」
 軍団員がおれの右腕《みぎうで》を掴み、手の甲《こう》をイクラちゃんの方に向ける。女優が婚約《こんやく》指輪見せるポーズ。まるまる一日の|砂丘《さきゅう》の旅で、布に覆《おお》われていなかった手は赤くなっていた。だが真ん中にはぼんやりと白く、どこかで見たような焼け残りが。
「見ろ! 駆け落ち者の印《しるし》があるぞ。隣国《りんごく》ジャ婚姻《こんいん》に関する咎人《とがにん》は、手の甲に焼き印を押されるからな。おまえらそっチから逃げてキたんだろ。これで言い逃れでキねーぞ」
「待てよそれはシーワールドのスタンプだって! ほらワンデイフリーパスって書いてあるだろ、読めるだろ!?」
 読めるわけがない。特殊インクが裏目に出た。一日どころか一生の自由を左右しそうだ。
「さあ、こイつの首をヘシ折られたくなけりゃ、エモノを置イて互《たが》イの腕《うで》二これを填《は》めな」
 ヴォルフラムが言っていたように魔族に直接|触《ふ》れるのが怖《こわ》いのか、短く重そうな鉄鎖を足下《あしもと》に放る。金属のぶつかる鈍《にぶ》い音。グウェンダルは鋭《するど》い視線を男に向けたまま、おもむろにしゃがんで鎖《くさり》を拾った。おれって見かけに寄らず小市民的正義漢だから、いまだかつて警察のご厄介《やっかい》になったことはない。それがこんな異国の教会で、|手錠《てじょう》をかけられようとは思ってもみなかった。それも無実の罪どころか、性別を超《こ》えた人違いで。
「右手は、やめろ、おれ右投げ右打ち、だからっ」
 ホールドされて息が苦しい。長男はおれの左手首と自分の右手に鉄の輪を填めた。絶望的な音でロックされる。二人の間の太い鎖は約三十センチ。手錠と言うよりは手鎖だが、江戸《えど》時代の文人がつけられた物とは似ても似つかない。肩《かた》が傾《かたむ》くくらいに重かった。
 運が悪いにもほどがある。よりによって最悪の組み合わせで、二人三脚《ににんさんきゃく》状態にされるなんて。この場合どっちが刑事《けいじ》でどっちが犯人に見えるだろう。
 警察官のことを考えたら、先週の六時のニュースを思い出した。女性がストーカーに抱《だ》きつかれたら……。
「ふごッ」
 頭突《ずつ》きと急所|蹴《げ》りを同時にかますと、締め付けていた男は呻《うめ》いてうずくまる。自分でも舌を噛《か》んでしまい、お口の中は大|惨事《さんじ》だ。咄嗟《とっさ》に手近なご神体を掴み、頭部を掴んで突き出した。
「おまえら、動くなーっ! 動くと神様に|釘《くぎ》を刺《さ》ーす!」
 |藁人形《わらにんぎょう》には五《ご》寸《すん》|釘《くぎ》がよく似合うが、今日のところは子供用の錆《さ》び|釘《くぎ》で我慢しといてやらあ。ご神体を人質にとろうだなんて、おれもかなりの罰当《ばちあ》たりだ。だんだん|魔王《まおう》らしくなってきた。
 日本古来の|儀式《ぎしき》的作戦よりも、グウェンダルの|素早《すばや》い|攻撃《こうげき》の方が効果的だった。あの超《ちょう》長い脚《あし》で蹴り飛ばされ、あっという間に三人が吹《ふ》っ飛んだ。ハイキック、回し蹴り、うわ、真空|跳《と》び膝蹴《ひざげ》り! 技《わざ》のキレはキックの鬼《おに》だ。
「走れ!」
 言われるまでもない。教会の冷たい空気を振《ふ》り切って、埃《ほこり》っぽく明るい通りを駆け抜《ぬ》けた。足音と怒声《どせい》が追ってくる。耳のすぐ横を何かが掠《かす》めて、二歩先の地面に突き刺さった。
「やめてくれー! そんな投げ|槍《やり》にならないでくれよーっ!」
 街の入り口では斑馬《ぶちうま》が、顎《あご》に涎《よだれ》と草をつけて満ち足りた顔で待っていた。飛ぴ乗ったグウェンダルは腹を蹴り、おれを鎖ごと引きずり上げる。
 腕に腰《こし》を回していいか|訊《き》く|暇《ひま》もないが、どっちみち文法的に間違っている。
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