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今日からマ王3-12

时间: 2018-04-29    进入日语论坛
核心提示:     12「これはまた、えらく大胆《だいたん》な誘《さそ》い方だな」 意を決してヴォルフラムの部屋の扉《とびら》を叩《
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「これはまた、えらく大胆《だいたん》な誘《さそ》い方だな」
 意を決してヴォルフラムの部屋の扉《とびら》を叩《たた》いたおれに、美少年は複雑な表情で小首を傾《かし》げた。普段《ふだん》のおれからは想像もできないらしく、綺麗《きれい》な色の唇《くちびる》を噤《つぐ》んでいる。
 「一緒《いっしょ》に風呂《ふろ》に入ってくれるだけでいいんだって。恥ずかしけりゃ海パン穿《は》いたままでもいいからさ」
「二人きりなら別に恥ずかしくはないが……」
「じゃあ風呂、今すぐ! 急いでるんだ。おい何の準備してるんだよ、タオルと替えパンだけで|充分《じゅうぶん》だよっ」
 部屋の奥で妙《みょう》な道具まで用意している。いくらなんでもアヒルちゃんは要《い》らないだろう。
 頬《ほお》を緩める三男を引っ張って、勝手知ったる王城の風呂場に向かった。
 魔王《まおう》陛下のプライベートバスは相変わらず豪華《ごうか》で、クリーム色を基調とした巨大《きょだい》な浴槽《よくそう》は、公式記録が計れそうな規模だった。練習用のプールもない暑い国に、これを部屋ごと寄付してあげたい。
 本日はセクシークィーン・ツェリ様も、背中流しジョーズなシュバリエもいないが、角が五本の牛の口から、湯はごぼごぼと流れっぱなし。泳ぎ放題、飲み放題だ。
「いちにの」
 さん。
 呆気《あっけ》にとられるヴォルフラムの目の前で、服のまま鼻を摘《つま》んで浴槽に飛び込んだ。一瞬《いっしゅん》だけ沈《しず》んで底にぶつかりそうになるが、すぐに浮《う》かんできてしまう。
「ぷは」
「何をやっているんだ?」
「悪ィ、ちょっと背中押してみてくれる?」
 髪からもシャツからも水を滴《したた》らせながら、おれは再びプールサイドにしゃがみこんだ。
「押して」
「だから、どういう遊びだ?」
 むりやり押させて水面に落ちても、やっぱりすぐに浮いてしまう。おかしい。
「おっかしいんだよ……ぎゃ、なんだよッ飛び込むなって!」
 |輝《かがや》く|金髪《きんぱつ》をずぶ濡《ぬ》れにして、ヴォルフラムまで第一コースに入ってきた。天使の水浴びという光景だが、おれを真似《まね》て服は着たままだ。平泳ぎで二|掻《か》き進んでくる。
「お前がダイブしてどーすんだよっ! お前はいいの、おれを押してくれれば」
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 白い腕《うで》を首にからめてくる。
 かろうじて押し倒されずに済んだのは、浮力《ふりょく》のおかげに他《ほか》ならない。
「抱《だ》きつくなよっ」
「斬新《ざんしん》なやり方を試《たの》すんじゃないのか?」
「やり方ってどの……ヴォルフ、よからぬ期待をしていたな!?」
 おれがこんなに切羽《せっぱ》詰《つ》まっているのに、相手は何やら楽しげな想像を膨《ふく》らませていたのかと思うと、こみ上げる怒《いか》りを通り越《こ》して、情けなさに頭《こうべ》を垂れてしまう。風呂の底にしっかりと足の裏をつけて、ゆっくり膝《ひざ》を伸《の》ばしてみた。
 吸い込まれない。
「……帰れないんだよ」
「はあ? ちゃんと帰ってきただろう」
「そうじゃない。スヴェレラからコナンシアを抜《ぬ》けて、|眞魔《しんま》国には戻って来られたけど、今度は自分ちに行けなくなっちゃったんだよっ」
 ガキみたいに水を撥《は》ねさせて、|両腕《りょううで》を不規則に振《ふ》り回してみた。顔に湯がかかるのを避《さ》けようと、三男は軽く背伸びをする。
「帰れねーんだよ、家に、地球に、日本に! この前もその前も水関係だったから、今度も風呂からだろうと思ってやってみたけど、一人じゃどうしても駄目《だめ》なんだよッ! だからこの間みたいにお前に追い詰《つ》められれば、ピーンチってんでスターツアーズかかるかもって気が付いて……押してもらったけどやっぱ駄目なんだよっ」
「なんだとー?」
「……ヴォルフ、顔が森進一《もりしんいち》になってるぞ」
 眉間《みけん》と鼻に絶妙《ぜつみょう》な皺《しわ》を寄せて、魔族の元プリンスは顎《あご》を上げた。小刻みに肩を揺《ゆ》すっている。
「そんなことのためにぼくを使おうとしたのか?」
「そんなことって、あのなあ、おれにとってどれだけ重要なことか」
「だってお前はもうこの国の魔王なんだから、どこにも行く必要はないだろう? ユーリにとって帰るといえばこの城だ。ずっと、半永久的に、永遠にいるのが当たり前じゃないか」
 意地悪く強調する言葉をいくつも並べる。美形に正論を突《つ》きつけられると、通常の倍のダメージを受ける。彼の言い分は|恐《おそ》らく事実であり、おれの飛び込みは八割方、悪《わる》足掻《あが》きだ。
 でも、日本に戻《もど》れなくなるなんて、まったく考えていなかったんだ。
「だってそーだろ!? 前もこの前もそうだったじゃん。それなりに|一生《いっしょう》懸命《けんめい》、ベストを尽《つ》くして事件を解決すれば、ステージクリアで帰れただろ? 今度だって魔笛もゲットしたし、そっくりさんも……大して似てなかったけど、無事に保護したし、ノーマルモードレベルとはいえ、どうにか作戦成功だろ。なのになんで帰れねーの? セーブできねぇの? もう二度と向こうに戻れないんだとしたら、おれこのまま眞魔国でどうなっちゃうの!?」
「魔王として暮らすんだよ」
 耳にタコができるくらい聞き慣れた単語なのに、一瞬、息が止まるかと思った。
 そうだよ、おれはその地位に就《つ》くって宣言したよ。確かに皆《みな》の前で誓《ちか》ったさ。
「でも帰れないなんて……考えてもみなかったんだ。だって日本に戻れなかったら、西武が優勝できるかどうかも見届けられないじゃないか。伊東さんからインサイドワーク学ぶこともできないじゃないか。それどころか野球が二度と観《み》られないじゃないか」
「新しい球技団体を設立すればいい。国技にするって息巻いていただろう」
「おれまだそんな、上級者じゃねーもん」
 水を吸った布が、ひどく重い。なのに身体《からだ》は沈まない。
「それにチームも学校も、友人も……村田だっておれが沈んだきり浮かんでこなかったら、驚《おどろ》いて責任感じるだろうし」
 もしかして現代日本の渋谷有利は、シーワールドのイルカショーで死んだのだろうか。今ここで息をしているのは別の肉体で、準備体操もせずに入ったプールで心臓|麻痺《まひ》を起こし、苦しむ間もなく死んだのだろうか。
 だから帰れなくなったのか?
「だったら……どうしよう……家族に何て言おう……いやもう何一つ言えないのかも。おれにだって妻子が」
「妻子がいるのか!?」
「こんな時に揚《あ》げ足とるなよっ、親兄弟だよ、おれにだって親も兄貴もいるんだ、急に家族に会えなくなるなんて……そんなばかな、そんな理不尽《りふじん》なこと」
「解らないやつだな」
 濡れてはりつく|前髪《まえがみ》を掻きあげると、ヴォルフラムは二歳くらい年上に見えた。エメラルドグリーンの高慢《こうまん》そうな瞳《ひとみ》が|眇《すが》められる。彼は本当に天使の顔で、残酷《ざんこく》な現実を突きつける。
「お前はこの世界に属する者だ。|魂《たましい》の属する場所からは逃《に》げられない」
「誰《だれ》も教えてくれなかっただろ」
 語尾《ごび》が微《かす》かに震《ふる》えるのが、自分の耳でも聞き取れた。
「それくらいの覚悟《かくご》もなかったのか?」
 
 
 おれは安易に選びすぎたんだ。
 
 
 これ以上、沈黙《ちんもく》を続けると、みっともない姿を曝《さら》してしまいそうだ。
 おれは勢いよく湯に潜《もぐ》り、何度も底を押してみた。可能な限り水中で待ち、通い慣れた道が開かないかと目を凝《こ》らした。
 自棄《やけ》を起こしちゃいけない、冷静になれ。ピンチの後にはチャンスがあるって、昔から解説者が言ってるじゃないか。追い詰められた時こそ落ち着いて、周囲をゆっくり見回さなくては打破できない。
 どんな格言を並べても、非常識な水流は現れなかった。
「おいっ」
 ヴォルフラムに引き上げられるまで、息をするのも忘れていた。
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