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今日からマ王6-2

时间: 2018-04-29    进入日语论坛
核心提示:     2 雨を避ける気にもなれない。 濡《ぬ》れて黒と|見紛《みまが》う色になった長い髪《かみ》が、首筋に当たって|
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 雨を避ける気にもなれない。
 濡《ぬ》れて黒と|見紛《みまが》う色になった長い髪《かみ》が、首筋に当たって|鬱陶《うっとう》しい。不機嫌そうな青い瞳がいっそう暗くなる。
 |斥候《せっこう》に行かせた二人の兵士が、汚《よご》れきった王佐の身体《からだ》を抱えて戻《もど》ってきた。泥がこびりついた頬は蝋《ろう》のように白く、病で逝《い》った者を思わせる。
「……死んでいるのか」
「いえ、矢の毒が回らないように、ご自分で仮死状態になられたかと」
「そうか」
 屋根のある場所を顎《あご》で示し、フォンヴォルテール|卿《きょう》は教会の中に足を踏《ふ》み入れた。
 祭壇近くの長椅子《ながいす》には、末弟と少女が寄り掛《か》かっている。
「ギュンターが見つかった」
 近付けすぎた|松明《たいまつ》の火で、|金髪《きんぱつ》を銅色に輝かせながら、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムは|頷《うなず》いた。グレタは口をきゅっと引き結び、ヴォルフラムの腕を掴んでいる。
 グウェンダルはゆっくりと|膝《ひざ》を折り、遠巻きに見守る部下達には届かないように、低い声でグレタに|訊《き》いた。
「何があった」
「子供には無理です」
 ヴォルフラムが|憮然《ぶぜん》とした表情で、もう必要ない松明を無意味に揺《ゆ》らした。
「だが、他《ほか》に誰に訊けばいい?」
「でも、子供には……」
 さえぎって少女がきっぱりと言う。
「話せるよ」
「では教えてくれ」
 誰の顔も目も見ずに、グレタは|上擦《うわず》った声で話し始めた。息を継《つ》ぐ間も惜《お》しいとばかりに、つっかえもせずに|喋《しゃべ》り続ける。
「ギュンターもコンラッドも、国内にまで敵が来てるって考えなかったんだよ。だからグレタも連れてきてもらえたんだよ。大急ぎでユーリを迎《むか》えに来たの。誰も喚《よ》んでいないはずなのに、ユーリのタマシイがこっちに来てそうだって、一番|偉《えら》い巫女《みこ》さんが言ったから。方角も時刻もぴったりだったんだよ。お城に連れて戻ってるヨユウはないから、会いたいなら|一緒《いっしょ》に連れて行ってあげるって言われたの。グレタはどうしてか知らないけど、ユーリにはすぐに帰ってもらうヨテイなんだって……どうして?」
「この国が安全とは言えないからだ」
「箱のせい?」
「ああ」
 やっとグウェンダルの顔を見上げた。凜々《りり》しい眉《まゆ》と長い|睫毛《まつげ》を震《ふる》わせて、|怒《いか》りの対象を探している。グレタは吸い込んだ分よりもっと多く、感情を抑《おさ》える息を吐いた。
「……でね、裏口から馬に乗って、ギュンターの鼻が夜道で役に立ったの。そしたら誰かが、ユーリとギュンターを弓矢で狙《ねら》ったんだよ。それでギュンターが……馬から落ちたの。三人でここに逃《に》げ込んで、コンラッドはあの」
 中央だけ焼け爛《ただ》れた|額縁《がくぶち》を指差す。
「ヴォルフにそっくりな絵からイドウできるって言ったんだよ。巫女さん達の準備が整ってれば、ユーリがチキュウに戻れるって。でもね、あいつらが……コンラッドが半分以上、やっつけちゃったけど。あいつら、火を吐く筒《つつ》を持ってたの。それで|扉《とびら》を破ってきたんだよ。グレタは危ないから、隠《かく》れてなさいって、隠れてっ、|椅子《いす》の下に隠れて、たんだけどっ、ユーリがあっちの扉を蹴《け》ったの。そこから外へ出られたかもしれない。でも、ダメだっ……かも……あいつらが、っあのッ火で……撃《う》ったんだよ、ユーリとコンラッドを」
 まだ小さな掌《てのひら》で、グレタは|目尻《めじり》をごしごし|擦《こす》った。
「……睫毛が、目に入っちゃったよう」
「グレタ」
 松明を預けて、ヴォルフラムは子供の肩《かた》を引き寄せた。グウェンダルは赤茶の巻き毛に手を載《の》せる。
「死んじゃったの……? ユーリも、コンラッドも……お母様みたいに、ヒューブみたいに」
 少女は、昏々《こんこん》と眠り続ける知人の名を口にした。
「ゲーゲンヒューバーは、生きているだろう」
「でも目も開かないし、喋らないよ……グレタが悪いのかな、みんなグレタが悪いのかな」
 泣く寸前の涙声《なみだごえ》で、石の床《ゆか》を数回蹴った。問題の扉近くで兵士達が、鎮火《ちんか》したと大きく手を振《ふ》っている。雨のお陰《かげ》で大きくは広がらなかったが、少なくとも木の部分は燃え落ちてしまった。|恐《おそ》らく遺体や肉片も、無惨《むざん》な状態になっていることだろう。
 フォンヴォルテール卿は膝を伸《の》ばし、靴《くつ》を鳴らして立ち上がった。
「ユーリが此処《ここ》にいたら、お前が悪いと言うと思うか?」
「……ユーリはそんなこと、言わないよ」
「では、そういうことだ」
 裏口の先は崖だった。春前の少雨期が災いして、|地盤《じばん》はかなり脆《もろ》くなっている。実際、石材の|途切《とぎ》れるすぐ先は、|崩《くず》れた土砂《どしゃ》に埋《う》もれていた。
「使いをやりました。近隣《きんりん》の住民と全兵士を動員して、すぐに捜索《そうさく》を開始します」
「任せる」
 ここを掘《ほ》り返すくらいしか、今の自分達にできることはない。
 女性兵にグレタを任せたのか、末弟が無言で隣《となり》に立つ。死体の焼ける不快な|匂《にお》いに、眉を顰《ひそ》めることもしない。黒く焦《こ》げた布の塊《かたまり》を調べていた者が、下を向いたままで|呟《つぶや》いた。
「人間ですね……申し訳ありません閣下、人間であります」
「ああ」
「こちらもそのようです。となると……その……お探しの、いえ、ご心配の……」
「余計な気を回すな」
「はっ、背格好や|装飾《そうしょく》品から判断しまして……陛下のご遺体は……ない様子です。しかし小規模ながらも|爆発《ばくはつ》が起こったと推測しますと、確かなことは申し上げられません」
「生存の可能性はあるということか?」
 やっと口を開いたヴォルフラムの、彼らしくなく低い声に|驚《おどろ》いた。これではまるで……。
「自分には何とも……ただ……」
 兵士は気弱そうに言い淀《よど》み、半ば炭化した棒状の物体をそっと動かした。床側の、焼け残った部分が上を向いたことで、初めてそれが腕《うで》だと判《わか》る。
「この飾《かざ》り釦《ボタン》に見覚えはありませんか。貴族の方々が身に着けられる細工かと」
「……ウェラー卿のものだ」
「ということは、これはコンラートの腕ですか」
 また、冷たく平静な口調で確認《かくにん》する。|妙《みょう》な顔で自分を見詰《みつ》める兄に気づき、三男は眉を上げて聞き返した。
「兄上?」
「私に似るな」
「何ですかいきなり」
 いや、とゆっくり首を横に振ると、フォンヴォルテール卿は声高《こわだか》く兵に命じた。
「何もかも|全《すべ》て城へ運べ! 欠片《かけら》も灰も一塵《いちじん》たりとも残すな。だが、人間どもの燃えかすとは、決して一緒に扱《あつか》うなよ」
 それから、軽くなった異父弟の腕を取り、手首に残る釦を毟《むし》った。煤《すす》で黒ずんだ貝細工を、末弟の掌に落としてやる。
 数拍《すうはく》|黙《だま》り込んだ後、ヴォルフラムは堰《せき》を切ったように叫《さけ》びだした。最愛の王と、嫌《きら》っているはずの次兄《じけい》の名を繰《く》り返し、定まらぬ相手への悪態を吐いた。誰《だれ》にも顔を向けぬままあらん限りの力で壁《かべ》や燭台《しょくだい》を蹴り飛ばした。
 そうだ。お前くらいは、感情的でいろ。
 そうでなければ万が一「彼」を失ったときに、民《たみ》も城も国家も踏み止《とど》まれまい。
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