「毒女アニシナと本能のコルセット。
夜は墓場をさまよう毒女アニシナだが、昼間は仕事のできる女もーどだ。
このもーどにちぇんじしたときの毒女アニシナはすごい。音のはやさでけいさんし、光のはやさで話す。だれにも聞きとれない。むてきだ!
あぶない! 毒女アニシナの腰《こし》に、じょうしの男のあぶらぎった指が! これは、せくしゅあるはらすめんとだ!
ぎやああああーじょうしの男のひめいがひびきわたった。するどい歯をむきだしたこるせっとが、男の指に|襲《おそ》いかかったのだ」
読んでいた本をばたんと閉じて、グレタは細い顎《あご》を上げた。
「ねえアニシナぁ、こるせっとってなに?」
「貴婦人の下着の一部ですよ。もっとも我が国では下着としてではなく、腰や背骨の保護に使っていますが。それからグレタ、作品名は、本能ではなく煩悩《ぼんのう》です。毒女アニシナと煩悩のコルセット」
「ふーん。じゃあさあ、せくしゅあるはらすめんとってなに?」
「性的|嫌《いや》がらせのことですね。ハーレイ・ジョエル・オスメントとは微妙《びみょう》に違います」
「|誰《だれ》それー、オトコー!?」
身につけた突《つ》っ込み文句を使う機会を得て、子供は足をバタバタさせて喜んだ。
「陛下のお好きな役者の名前のようです。それよりも」
高い位置できっちりと結《ゆ》いあげた燃える赤毛をぶん、と振《ふ》り回し、フォンカーベルニコフ|卿《きょう》アニシナは机に両手をついた。水色の|瞳《ひとみ》は根拠のある自信に輝《かがや》いて、本目も実験する気満々である。
「陛下のご無事も確認《かくにん》されたのですから、あなたは学問の遅《おく》れを一刻も早く取り戻《もど》さなければいけませんよ。大好きな陛下がお戻りになったときに、グレタがすっかりグレていたらがっかりなさるでしょう」
「判《わか》ってるよぉ」
長い|睫毛《まつげ》を数回|瞬《しばたた》かせて、少女は再び分厚い本を開く。読み聞かせ用に書かれた作品なので内容は引き込まれるほど|面白《おもしろ》い。だが、十歳そこそこの子供には理解できない単語もいくつかあった。
「でも、せくしゅあるはらすめんとってどういうものなの?」
「どうと問われても……」
フォンカーベルニコフ卿は今、子育てにおける重大な局面に立たされていた。
初めての性教育だ。
女性にとって正しい性教育は非常に重要だ。できれば保護者と教育機関がうまく連携《れんけい》をとり、家庭と学校の両者で無理のないように進めるのが望ましい。この場合、アニシナはグレタの保護者でも教師でもなく、ここで懇切丁寧《こんせつていねい》に指導する義務はない。
だが、当事者である親(陛下とわがままプーの個性的夫婦)と教育者(この国にいる間は恐《おそ》らく、真ギュンター)があの調子では、真っ当な性教育など不可能だろう。それどころか、赤ん坊《ぼう》は骨飛族が運んできて玉菜畑に投げ捨てておくのだなどと、愉快《ゆかい》な伝説で|誤魔化《ごまか》しかねない。誤った知識を植えつけられてからでは遅《おそ》いのだ。
ここはひとつ、この赤い|悪魔《あくま》が一肌脱《ひとはだぬ》ぎましょう。
「ではまず、螺腐霊死唖《らふれしあ》のおしべとめしべから説明しましょう!」
先は長い。
「そんなの知ってるよー。どうやったら子供ができるかなんてピッカリくんさんとお嫁《よめ》さんに聞いたもん」
毒女アニシナ、ちょっと衝撃《しょうげき》を受ける。ヒスクライフ家はそういうとこ開放的だ。
「そうじゃなくて、性的嫌がらせって、どういうときに訴《うった》えられたりするのかってこと。ユーリがグレタをぎゅーってするのはせくはらなの? グレタは嬉《うれ》しいけど」
「それは愛情表現です。問題ありません」
「じゃあヴォルフがユーリをぎゅーってするのは?」
「それもある意味、愛情表現でしょう。問題ありません」
「じゃあヴォルフがユーリを、へなちょこっていじめるのは?」
「ヘニャチ、の先が、ョコなら|大丈夫《だいじょうぶ》」
ンだとアウト。
「じゃあさじゃあさ、アニシナがグウェンを後ろからがしーって羽交《はが》い締《じ》めにするのは?」
「あれは捕獲《ほかく》です。まったく問題ありません」
長い廊下《ろうか》の向こうから、尾《お》を引く叫《さけ》びと全速力の足音が近づいてくる。
「ああああああ」
腰まで届く髪《かみ》を床と平行になびかせて、フォンクライスト卿《きょう》真[#「真」に傍点]ギュンター閣下が駆《か》け抜《ぬ》けてゆく。長衣の裾《すそ》はすっかり捲《まく》れ上がり、太股《ふともも》まで丸出しだ。
「猊下《げいか》がっ、猊下がぁぁぁーっっ!」
開きっぱなしの|扉《とびら》の前を、風の如《ごと》く過ぎ去った。と思う間もなく血相を変えたフォンヴォルテール卿グウェンダル閣下が、同じく叫びながら突っ走っていく。
「触《ふ》れ回るなと。言っているだろうがぁぁぁー!」
……アニシナは魔動《まどう》湯沸《ゆわ》かし器を起動させた。
「春ですね」
「うん、春だねえ」
大シマロン本国最大の外洋港である東ニルゾンは、明るい色に占《し》められていた。
建築物の壁《かべ》はどれも鮮《あざ》やかな白と黄で、瓦《かわら》と敷石《しきいし》は暖かな黄土色だった。次々と帰港する船舶《せんぱく》も白系の塗装《とそう》が多く、それ以外は他国籍《たこくせき》とすぐに判る。
人々の髪も薄茶《うすちゃ》が|殆《ほとん》どで、稀《まれ》に金茶と栗毛《くりげ》が混ざるくらいだ。カロリアを|訪《おとず》れた使者と同じように、兵士は長い髪を風になびかせている。
おれは到着《とうちゃく》を知らせようと、フリン・ギルビットの船室に向かった。
フリンはシマロンの沿岸警備連中に、女性の貰任者では近海の航行を許可できないと性差別的発言をされて以来、ずっと部屋に籠《こ》もりきりだった。しかし彼女にとってもっとショックだったのは、おれ扮《ふん》するノーマン・ギルビット仮面が現れるやいなや事態が解決してしまったことだろう。
すごく短くまとめると、おれはこう言っただけだった。「あんたら、大シマロンよリカロリアに賭《か》けな。一生遊んで暮らせるくらい儲《もう》けさせてやるぜ」荒《あら》くれ者|揃《ぞろ》いという警備連中は、面白《おもしろ》がって船を通した。天下一|武闘会《ぶとうかい》では当然、大シマロンに賭けるだろうが、一枚くらいカロリア札も買うかもしれない。
国のことを真剣《しんけん》に考えている者が、女性だからというだけで突っぱねられ、逆にこんな愚《おろ》かな一言でも、男ならあっさり通過できる。
正直へこむよ。
「フリン、あんなアホ法律気にすんなよ。そろそろ降り……」
「あーっ!」
おばさんみたいな甲高《かんだか》い悲鳴をあげて、彼女はバサッとシーツを投げた。
「こ、断りもなく女の部屋を開けるなんて!」
「……今なんか隠《かく》した?」
「な、何も隠してなんかいないわよ。いいから早く出て。着替《きが》え中なの」
そうはいっても上着まできっちり身につけているし、荷物を広げている様子もない。満身の力をこめてドアを押し返すが、肩越《かたご》しにシーツを|被《かぶ》せた膨《ふく》らみが見える。
「ベッドの中に誰か|匿《かくま》ってるだろ!?」
「匿ってない、誰もいないわよっ」
「|嘘《うそ》つけ、ほらシーツが震《ふる》えてる。やっぱ誰か密航させてるな!? 何だよ彼氏ー? そうならそうと最初から言ってくれりゃ」
「きゃー、違《ちが》うわ彼氏なんかじゃないの」
「ま、まさか、|旦那《だんな》が生き返りますようにって、猿《さる》の手に願かける|恐怖《きょうふ》の急展開じゃねーだろなッ!?」
「誰が猿よっ」
その時、敷布は動いた。
松平《まつだいら》アナのナレーションと共に、洗いすぎて擦《す》り切れたシーツが派手に盛り上がる。
「ンモっ?」
「あれ」
ピンクの鼻がひょいと覗《のぞ》いた。
なんで羊!? なんでTぞう!?
「だから言ったでしょ、恋人《こいびと》でも夫でもないって」
おれを閉め出すのを諦《あきら》めて、フリンは渋々《しぶしぶ》ドアノブを離《はな》した。大人しくしているのも限界だったのか、ウール一〇〇%はベッドの上で飛び跳《は》ねた。目聡《めざと》くおれを見つけると、危険な角ごと突進《とっしん》してくる。
「うぐ。落ち着けTぞう、お座り、お座りだって! なんでまたこいつを連れてきたんだよ」
「だってカロリアに残してきて、もし食糧《しょくりょう》と|勘違《かんちが》いされたらどうしようと……」
「ええ? ラム肉……は、|普通《ふつう》に食べるか」
顔のTゾーンだけが茶色い羊は、おれの腹に角と頭を|擦《こす》りつけている。大興奮だ。
「それに」
「ンモっンモっンモっンモっンモシカシテェェェ」
「役に立つかもしれないし」
「そんなバカな。知・速・技・勝ち抜き! 天下一武闘会なんだろ? 羊の入り込む余地がどこにあるってんだよ。も」
「ンモシカシテェェェ」
「役に立つとしたら……そうだなぁ、野宿するとき暖かいってことくらいか?」
船にTぞうを残して行きたくないのか、フリンも|精一杯《せいいっぱい》食い下がる。
「でもも」
「アアモシカシテェェェ」
「の話だけど、決勝戦が羊の品評会だったらどうするつもり? こんなに勇ましくてモコモコな子は、そうそう見つかるものじゃないわ」
少なくとも副詞としては役に立っているようだ。
高級毛玉に指を突《つ》っ込んで、耳の後ろを掻《か》いてやる。四年に一度の国際大会の決勝戦が、家畜《かちく》の見せっこであるはずがない。不思議なのはカロリアの人間であるフリンが、武闘会の内容に詳しくないことだ。小シマロン領とはいえ参加資格のある土地なのだから、競技の種類くらい知っていてもいいのに。
「エントリーしたことないって言ってたけど、どんなことするかも知らないわけ? テレビやラジオで中継《ちゅうけい》……ないか。でも新聞みたいな媒体はあるんだろ? それにあんた一応、領主夫人なんだからさ、来賓《らいひん》扱《あつか》いで招待されたりするんじゃないの?」
「まさか! 女子供は闘技場に立ち入り禁止よ。見つかったら死罪は免《まぬか》れない。シマロン…土族でもない限り、決勝を観戦なんてできないわ」
「え?」
|途端《とたん》に想像図が|浮《う》かんできた。スタジアムを埋《う》め尽《つ》くす超《ちょう》満員の観衆、その|全《すべ》てが立派な成人男性。響《ひび》く野太い|歓声《かんせい》、|駄洒落《だじゃれ》混じりの下品なヤジ。勝者にはおっさんの祝福と|抱擁《ほうよう》が与《あた》えられ、敗者はおっさんに引きずられながら退場。道々で|怒号《どごう》を浴びせられ、腐《くさ》った卵が投げつけられる。
熱い、熱すぎる。そしてサム……ムサい、ムサすぎる!
「|噂《うわさ》によると決勝に残った者達は、己《おのれ》の肉体のみを武器にして全裸《ぜんら》で闘《たたか》うとか闘わないとか。|鍛《きた》え上げられた肉体が、ぶつかり合うとか合わないとか。|輝《かがや》く|汗《あせ》その他|諸々《もろもろ》の液体が、観客席まで飛び散るとか飛び散らないとか…」
「待てよそれ本格的に古代オリンピックじゃねえ!? その事実を早く聞きたかったよ!」
まずい。非常にまずい。
おれの|貧弱《ひんじゃく》な|胸板《むないた》で対抗《たいこう》しうるだろうか……ああ|駄目《だめ》だ、激しく|見劣《みおと》りしそうだ。
そもそも野球選手の身体つきは、他のスポーツ、特に格闘系とは根本的に違う。清原《きよはら》みたいな筋肉くんは例外で、意外とふんにゃり型の選手も多い。待てよ、顔のいいほうの松井《まつい》なら、あるいは勝てるかも。しかし自分が稼頭央《かずお》ボディになるまでには、少なくともあと五年はかかるだろう。
「……でたーくなくなーってきたなーぁ」
「|大丈夫《だいじょうぶ》? 今からでも腹筋する?」
そんなの体重測定の前日にダイエットを始めるようなものだ。どんなに危険なドーピングだって、一晩でマッスル化は不可能だ。
「お前たち二人きりで何して……どうしたユーリ、へなちょこ眉毛《まゆげ》になってるぞ」
駆《か》け込んできたヴォルフラムが、一瞬《いっしゅん》怒《おこ》るのを忘れてしまった。
「全裸だよ……ヴォルフ……満員のスタジアムで全裸なんだってさー……」
|呆然《ぼうぜん》と|呟《つぶや》くおれを前にして、美少年は頼《たの》もしげにうそぶいた。わがままで神経質だったはずなのに。
「なんだそんなことで落ち込んでいるのか、気にすることはない! 男なら誰《だれ》でも一度は通る道だ。観客も全員が全裸なら、単なる裸《はだか》祭りと同じじゃないか。会場中が一体になって、最高潮に盛り上がるかもしれないぞ」
会場中が……うぷ。
「細部まで想像するのはやめろー」
喉《のど》を鳴らすTぞうを撫《な》でながら、フリンが怖《お》ず怖ずと口を挟《はさ》んだ。
「あの、まさかとは思うんだけど、決勝まで残る気でいるの……?」
「何を今更《いまさら》、当たり前のことを」
オリンピックは参加することに意義があるが、テンカブは優勝することに意味がある。
混《こ》み合う港の中程《なかほど》にどうにか|充分《じゅうぶん》な|隙間《すきま》をみつけ、やっとのことで赤い海星は着岸した。海の者達のルールとして、この国の旗を目立つところに掲《かか》げてはいた。それでも真っ赤な船腹は|珍《めずら》しいらしく、おれたちはすぐに外国人だと知られてしまった。
下船しようとデッキに向かうと、音もなく寄ってきたサイズモア|艦長《かんちょう》が、小さな包みを差しだした。
「陛下、グウェンダル閣下が、これをお渡《わた》しするようにと……」
「グウェンがおれに? なんだろ、って毛糸の帽子《ぼうし》かよ」
マスコット付きのリボンを解《ほど》き、ばか丁寧《ていねい》なラッピングを開く。中からはウィンター競技仕様のゴーグルと、フォンヴォルテール卿《きょう》お手製のキャップが出てきた。絶対に手編みだ、絶対に。タグには短く「マイド」のみ。
「……略すなよ」
「恐《おそ》れながら申し上げますと、陛下の御髪《おぐし》は大変に高貴な色をされておりますのでっ」
「はいはい、それは先刻承知。|被《かぶ》りますよ、被ればいいんで……み、耳ついてるぞ!?」
どうりで見覚えがあると思った。赤茶のニットの両側には、可愛らしいくまみみが生えていた。抱《だ》いて寝《ね》たい|珍獣《ちんじゅう》第一位、クマハチの孵化《ふか》に必要なアイテムである。
「だからってこんなの、恥ずかしくて被って歩けないノギスーぅ」
だったらまだ仮面の男でいるほうがましだ。
「裏返しちゃえばいいんじゃない?」
おれの手から帽子を取って、村田はくるんとひっくり返した、ちょっと不格好に膨《ふく》れるが、耳は内側に残って目立たない。
「ほらね」
「ほんとだ、頭いいなムラケン! さすが大賢者様だ」
こんなところで賢者の知恵《ちえ》が役に立とうとは。いや寧《むし》ろ、こんなところ以外でも役立ちますように。
裏耳キャップを眉《まゆ》まで引き下げて、ウィンター競技用ゴーグルで目を隠《かく》す。これで口元を覆《おお》うマスクがあれば、冬季オリンピック気分も盛り上がろうってもんだ。
「いいねえ、渋谷。コンビニ|強盗《ごうとう》みたい」
台無しだ。
高速艇《こうそくてい》からタラップを降ろすと、ひっきりなしに行き交《か》っていた人々が、たちまち船の脇《わき》に集まってきた。制服の警備隊が止めなければ、通路さえ確保できなかったろう。民衆は聞き取りにくい言葉で何事か叫《さけ》び、おれたちに向けて拳《こぶし》を突き上げた。
「こんなにインターナショナルな港なんだから、外国人くらい珍しくもないだろうに」
「だって天下一|武闘会《ぶとうかい》の最終登録日よ。来る客といえば出場者でしょう」
狂《くる》ったように叫ぶ者達を見渡《みわた》して、フリンはわずかに目を眇《すが》めた。
「あの人達にとっては、みんな敵」
憎《にく》しみも嘲《あざけ》りもこめられている。同時に、属国への蔑視《べっし》ものぞかせている。
「……もっと爽《さわ》やかにできないもんかね。スポーツマンシップに則《のっと》って」
「ほんとに、あらゆる国際大会が爽やかだったらいいのにな。さ、早いとこエントリー済ませちゃおうか。あんまり大人数で動くのも|怪《あや》しまれるから、ボディーガードはグリエとサイズモア艦長でいいかな」
六人と一頭がタラップを下り、大シマロンの本拠地《ほんきょち》に降り立った。
警備の制止にもかかわらず、人々の|怒声《どせい》はやむことがない。ご当地特有の悪口なのか、意味はさっぱり不明だが。というより、単語を理解しようと意識を集甲しても、耳鳴りみたいにしか聞こえないのだ。鼓膜《こまく》が破れたときに似ている。確かに人間の声なのに、脳の中で何万|匹《びき》もの|蜜蜂《みつばち》が、群れをなして飛び回っているようにしか感じない。
船酔《ふなよ》いで三半規管がいかれているのか、気分も悪く足取りも重い。揺《ゆ》れない平地に足を踏《ふ》み出しても、治るどころむかつきが増すばかりだった。
不自然に生唾《なまつば》を飲み込んで、一時でも不快感を誤魔化《ごまか》そうとする。
とりあえず気を紛《まぎ》らわせようと、隣《となり》にいた村田に話しかけた。
「すげーな、ホントにビジターって感じ。カロリアの応援《おうえん》してくれる小学生はどこだ」
「一国一校制は素晴《すば》らしい案だったね。でも本来ならアウェーのチームは、どこでもこんな風に迎《むか》えられるもんだよ。あ、ほら、グーの形にも何種類かあるんだねー。右側の団体さんは小指立ててる」
言われてみれば、突《つ》き上げた拳の小指だけをぴんと立てている。
「イェーイ、オレたち全員彼女いるんだぜー、ってとこ?」
「ある意味、おれらに喧嘩《けんか》売ってるな」
「こっちは可愛く親指と小指。電話して電話してーって感じだね」
後ろで小さな悲鳴が上がった。プラチナブロンドが掴《つか》まれたのだ。
「フリン!?」
「平気、平気よ、彼がとめてくれたから」
育ちのいい三男|坊《ぼう》は|憮然《ぶぜん》としている。敵とはいえご婦人の髪《かみ》を引っ張るなんて、同じ男として許せなかったに違《ちが》いない。おれと村田にも嫌《いや》がらせの手は伸《の》びたが、仰《の》け反ったり身を屈《かが》めたりマトリックスしたりして、二人ともどうにか避《よ》けられた。
さすがにヨザックとサイズモアには、大シマロン国民も手を出せなかったようだ。意外なことにTぞうも、荒《あら》い鼻息と唸《うな》りで威嚇《いかく》に成功している。とりあえずおれも、鼻息を荒くしてみたら……変質者みたいで落ち込んだ。
港を抜《ぬ》け、東ニルゾンの市街地に入り、|到着《とうちゃく》したばかりの出場者だという|認識《にんしき》が薄《うす》れると、次第《しだい》におれたちへの注目はなくなった。入国の洗礼を受けてしまえば、それなりに自由に動けるようだ。
「もう午後いっぱいしか残っていないから、とにかく先に登録しないと。ねえ」
声を細めておれの袖《そで》に触《ふ》れる、カロリアの気丈《きじょう》な女主人が嘘《うそ》のようだ。
「……もしかしたらまたノーマン・ギルビットが必要になるかもしれないわ。そうしたら」
「結構ですよ被りますよ。ご用とあればいつでもマスクマンに変身するよ」
「ありがとう」
建造物はやはり黄色と白で彩《いろど》られていて、屋根と地面だけが明るい黄土色だった。二階建ての商店が殆《ほとん》どだが、中には三階四階までレモンイエローの壁《かべ》を広げた家もある。あらゆる年齢《ねんれい》の人々が通りを歩き、それぞれが思うままに過ごしていた。
道端《みちばた》に立って話をする主婦のグループ、嬌声《きょうせい》をあげて走り回る子供、カフェらしき店先で新聞を広げる老人、酒場でたむろして笑い合う男達。
一見して男は兵士が多く、女は働き手が多いようだった。買った食材を抱《かか》えているのもご婦人ならば、それを売る店番も女将《おかみ》さんたちだ。皆《みんな》、ブラウン系の柔《やわ》らかそうな髪をしており、|瞳《ひとみ》の色も濃《こ》さは違えど茶系だった。
広場の中央にある噴水《ふんすい》には、装飾過剰《そうしょくかじょう》なシマロン文字のプレートがあった。
「お誕生日おめで……」
「違う。そんなこと一言も書かれていない」
「我等は与《あた》える、偉大《いだい》なるシマロンの名にかけて。民《たみ》は王の御許《みもと》に。王は神の御許に」
「よくあんなゴテゴテした文字読めるなあ、村田」
フリンとサイズモアが登録書類を提出している間、せめてマイナスイオンでも浴びとこうと、おれたちは水しぶきがかかる近くまで寄った。上陸したときからの耳鳴りと軽い吐き気が、少しでも治まるといいのだが。すると反対側の東屋《あずまや》に、子供が二人座っているのが見えた。
白っぽい子達だ。
「……さむ」
「どうした?」
体を震《ふる》わせた相棒に気づき、ヴォルフラムがすかさず言葉をかける。大事な試合前に風邪《かぜ》じゃないだろうな、と続きそうだ。
「熱はどうだ? 額を出してみろ」
でもおれは|窓枠《まどわく》も壁もない東屋から、ずっと視線が外せない。二人の子供の周りには、純白でとても薄い光の幕が広がっていた。冬の薄日の戯《たわむ》れなのか、それとも彼等あるいは彼女達自身の髪や身体《からだ》から、燐光《りんこう》のようなものが発せられているのか。こんな遠くからでは判《わか》らない。
でも、近くによって目を凝《こ》らしても、きっと判らないだろうという気はした。
二人が同時に右手首を上げて、こちらに向かって手招きをした。脳の疑問を生じるべき部分が、正常に働こうとしない。なんで呼んでるんだとか、この胸苦しさは恋《こい》? とか疑いもしなくなっている。
抗《あらが》えない。抗えないことを不思議に思わない。
|途端《とたん》にけたたましい電子音が鳴り響《ひび》き、おれは我に返って足を止めた。
「おいおい、おれ。ケータイ切っとけよ……って持ってないし」
照れ隠しがわりの一人ノリツッコミ。
携帯《けいたい》電話の受信音ではなく、おれの旅の友・健気《けなげ》なデジアナGショックだった。使い始めてそう経《た》つわけではないが、こんな時間にアラームが鳴る誤作動は初めてだ。
「渋谷ッ」
「……うん……はっ!? え、うん、何!?」
「どこ行くつもりだ?」
「どこって、あの|双子《ふたご》の……」
|随分《ずいぶん》近くまで来ていたことにやっと気づく。改めて見ると左右|対称《たいしょう》に座った二人は双子の姉妹《しまい》で、十一、二歳だということが判った。髪の色も腰《こし》まで届く髪型も、服も顔つきも|微笑《ほほえ》む唇《くちびる》の角度も剥《む》き出《だ》しの足も|爪先《つまさき》を揺らすリズムももう何もかも、まだ耳にしていない声以外は|全《すべ》てがそっくりだ。おれに手を振《ふ》るタイミングから、|瞬《またた》きをする|睫毛《まつげ》の長さまで。
「……関《かか》わり合いにならないほうがいい」
ヴォルフラムが、手の甲《こう》で額を拭《ぬぐ》いながら言った。この寒空に|汗《あせ》をかいている。そういえばおれも背骨の溝《みぞ》に沿って、冷たい嫌な汗でじっとりしていた。思わず村田の顔を振り返るが、彼もまた深刻な表情だ。
「僕も彼と同意見だ。あの子達には|接触《せっしょく》しないほうがいい」
「な、なんでー? グレタよりちょっと年上なだけの、ごくごく|普通《ふつう》のお嬢《じょう》さんじゃ……ないかも……」
彼女達の髪はほとんど白に近い。フリンのプラチナブロンドと違うのは、銀ではなく限りなく白に近いという点だ。細く長い|金髪《きんぱつ》を何度も|脱色《だっしょく》したら、この淡《あわ》いクリーム色になるかもしれない。それとも生まれたときからその色で、周囲に光を振りまいているのか。
|両脇《りょうわき》よりも中央が長いという、ミスタースポック風の前髪の下で、やや離《はな》れ気味の大きな瞳が、子供らしい可愛《かわい》さを強調している。よく見ると|虹彩《こうさい》は濃い金色で、細かい緑が散っていた。黒なんかよりずっと|珍《めずら》しい。
ほんのり桜色の頬《ほお》はともかく、喉《のど》や顎《あご》の病的なまでの白さなどは、お袋《ふくろ》が日曜ジョークで言うように「味噌汁《みそしる》の具のワカメが透《す》き通って見えそう」だった。
あらゆる意味で人間離れしている。
四肢《しし》は細くしなやかそうで、大きめの不似合いな靴《くつ》を履《は》いていた。
「可愛い……というより、美しい、よなあ」
だからといってフェロモン美女ツェツィーリエ様を代表とする|魔族《まぞく》の美しさとも質が違う。超絶《ちょうぜつ》美形ギュンターを前にしても、平均的容姿のおれが冷や汗をかくことはない。だがこの娘《むすめ》さんたちを見ているだけで、知らず知らず喉が詰《つ》まってくる。
双子の美少女に手招きされたくらいで、何を|緊張《きんちょう》しているんだか。おれは彼女達に背を向けて、村田とヴォルフラムに小声で訊《き》いた。
「生まれて初めて見るんだけど、もしかしてあれがエルフですか?」
「エルフー? なんだそれは」
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「渋谷それはゲームのやりすぎだよ。エルフは架空《かくう》の種族だって」
「はあ?」
|河童《かっぱ》や魚人《ぎょじん》が実在する世界なのに、エルフが架空の存在だなんて!
おれの|間抜《まぬ》け顔に苦笑《くしょう》しつつ、村田も声を低くする。
「よく見ろよ、耳とがってないし。ちょっと考えればすぐ判るだろ、ファンタジーやRPGに出てくるようなエルフって、あらゆる面で人間より優《すぐ》れてるんだぞ? そんな種族が本当にいたら、世界は彼等に支配されちゃうよ」
「失礼なことを言うな。そのエー、エー、エロフがどういう奴《やつ》かは知らないが、我々魔族がそいつに劣《おと》るはずがないだろう!」
|眞魔《しんま》国の超エリート家系出身者としては、聞き捨てならない話だったようだ。
「じゃああの双子は普通の人間? それにしちゃウツクシサの方向性が違《ちが》うような」
「うん、確かにあの娘たちは人間じゃなさそうだ。どっちかというと神……」
知識人・村田が新しい単語を教えようとしたときだ。
「おにーちゃん」
振り返ると、件《くだん》のふたりっこが、手を繋《つな》いでにっこり微笑んでいる。
三秒くらい視線を合わせてから、|大慌《おおあわ》てで相談体勢に戻《もど》った。
「い、いま、おにーちゃんって言ったぞ!?」
しかも語尾にハートマークまでつきそうだった。誰《だれ》だ、誰がおにーちゃんだ!? まず村田家の長男がのんびり確認する。
「僕は一人っ子だよー」
「うちだって兄一人しかいないって」
「ぼくは兄二人だ……まさかユーリ! お前、今度は隠《かく》し妹か!?」
「恐《おそ》ろしいこと言うなようっ! 第一、おれはコンビニ|強盗《ごうとう》コスプレだぞ、ゴーグル越《ご》しに生き別れの兄妹《きょうだい》が判るもんか。そっちこそツェリ様が新しい恋人《こいびと》と……ほら、女の子が欲しかったって言ってたし」
「まさか母上、神族にまで手を……っ」
末っ子が絶句しかけた。中腰のまま怯《おび》えたように話し合うおれたちに、双子は再び呼びかける。
「おにーちゃんたち」
にっこり。
にーっこり。
「い、いま、おにーちゃんたちって言ったぞ!?」
「三人ともおにーちゃんということか!?」
「ある日いきなり見知らぬ土地で、美少女に|突然《とつぜん》おにーちゃんと呼ばれる……」
聞き覚えのあるそのシチュエーション。
「判《わか》ったぞ! 妹キャラだな!? でもあれは妹がたくさんできるんであって、おにーちゃんが急に三人もできるって設定じゃないような……え」
押し掛《か》け|婚約者《こんやくしゃ》の白い目と、同級生の脱力笑い。しまった、兄貴のゲームを拝借したのがバレたか?
「脳味噌の沸騰《ふっとう》しそうなことを言うな。そんな非現実的なことがあるわけがない」
「僕はむしろ巫女《みこ》さんキャラのほうが好きだなー」
「……すみませんデシタ……」
「どーでもいいですけどね、|坊《ぼっ》ちゃんがた。オレは多分、ちょっとそこの人って呼びかけただけだと思いますよ」
一番冷静だったのは、どうやら妹に夢を持っていないらしいヨザックだった。辛抱強《しんぼうづよ》い性格なのか、ふたりっこはまだおれたちに手を振っている。
「こんにちは、おにーちゃんたち」
タイミソグも声質もぴったりなので、まるで一人しか|喋《しゃべ》っていないようだ。
「ど、どーも」
ヴォルフラムがおれの耳元で|囁《ささや》く。よせ、あいつらは神族だぞ、関わり合いにならないほうがいい。
神族とは神様の一族ってことだろうか。じゃああの子達は神様なのか? 大シマロンという土地は、少女の姿の神様が広場で一休みしているらしい。きっと近くの寿司屋《すしや》に行けば、|小僧《こぞう》の神様もいるのだろう。信仰心《しんこうしん》など欠片《かけら》もない野球小僧だが、神前ともなれば言葉も改まる。
「正月くらいしかお会いできませんのに、賽銭《さいせん》ケチって申し訳ありません」
|双子《ふたご》の神族はクスクス笑った。それから独特の喋り方で言った。
「占《うらな》いを?」
「ん? 信じるかってことですか」
右神様が問答無用でおれの手をとる。手相をみるのかと思ったら、|掌《てのひら》ではなく親指をぎゅっと|握《にぎ》られた。胸のむかつきが強まって、そこに心臓でもあるみたいに後頭部の血管が脈打った。反射的に腕《うで》を戻そうとするが、関節が外れそうで引っ張れない。
「いてっ」
喉まで出かかった悲鳴を堪《こら》える。か細い割りには|驚異《きょうい》的な握力《あくりょく》だ。こちらの苦痛など思い量りもせず、彼女は単刀直入に訊いてきた。
「テンカブに?」
「出場するのかってこと? ああ、そのつもりですよ、もちろん出ますよ」
その先もハモリすらしない異口同音で、優勝を? 可能性が? 希望を? と続く。最後まで喋ってくれないものか。映画の字幕みたいで苛々《いらいら》する。
「残念ね」
「いきなりお告げかよ!? 縁起悪《えんぎわり》ィなあ」
「おにーちゃんたち、怪我《けが》する」
もっと悪いじゃん。
双子はとても楽しげに、顔を見合わせて笑い続ける。確かに神々《こうごう》しくて美しいけれど。……。うまく表現できる言葉がみつからない。眉間《みけん》に皺《しわ》を寄せて悩《なや》んでも、語彙《ごい》の不足は補えなかった。他人の不幸を面白《おもしろ》がっているというか、人を人とも思っていなさそうというか。
左神様の濃金の瞳《ひとみ》が、ゴーグル越しにおれの眼《め》を覗《のぞ》き込む。
ばれた、と思った。事実、見抜かれていた。
「王?」
「おっ、おっ、王ってそんな、おれホームランバッターじゃ全然ないしッ! 顔と親指見ただけで|打撃《だげき》成績が判るなら、是非《ぜひ》ともバッティングコーチになってもらいたいですけどッ」
「顔じゃない。|魂《たましい》が」
慌てて指を取り戻そうとするが、思いのほか強い力で掴《つか》まれていた。抜けない。
「おい!」
ヴォルフが脇《わき》からおれの腕を掴み、兄譲《あにゆず》りの冷たい視線を向けた。
「放せ」
「あなた」
「あなた、この人に、従属を?」
もう一人の神族に見つめられて、元王子|殿下《でんか》は|一瞬《いっしゅん》ひるむ。誰かに従うようなやつじゃないよと、おれは口を開きかけた。
「本当は、王にもなれる資質なのに」
「前もその前も、魂はとても尊いのに」
「そりゃそうだ、元々彼は王子、いたた、なんだよヴォルフラム、乱暴……」
彼の血の気の引いた頬《ほお》に気付いた。前王の息子《むすこ》で名門出の純血|魔族《まぞく》は、相手を射殺しそうな眼で睨《にら》んでいた。でもその整った横顔に、怒《いか》りとは別の感情も|浮《う》かんでいる。最悪だったおれとの出会いを思いだしちゃったのだろうか。
少女達は笑っていた。喉《のど》の奥で、楽しげに。
|先程《さきほど》からかいていた嫌《いや》な|汗《あせ》が、一筋だけ背中を流れ落ちる。
どうやらこの、寒気がするほど美しい双子は、神様なんかじゃなさそうだ。
「ほんとよ。あなたには、そろってる。ね?」
「うん。ほんとよ、魂の前世が、見えるのよ」
「なんだよ君ら、見ただけで判るんなら、おれはどうして指とか掴まれてたんですか。ひょっとして逆ハラスメントとかいうやつですか……ヴォルフ、こんなセクハラ少女に耳を貸すこたないぞ。こんなの占いでも何でもないよ、誰が見たってお前は白馬の王子様だもん。スキーが得意かどうかは別として」
基本的に|脳《のう》味噌《みそ》筋肉族なので、説得力などこれっぽっちもない。そういうときにこそ双黒《そうこく》の大賢者さまの出番だ。一件落着させてください。
「へーえ、そうなんだー」
オリーブの首飾《くびかざ》りを鼻歌で一節やってから、村田は二、三歩前に進んだ。しまった、東京マジックロビンソンモードだ。
「顔見ただけでタマシイだのゼンセだの判っちゃうんだー。そりゃすごいや、マジックロビンソン、ジェラシーだよ」
BGMが止《や》まないと思ったら、ヨザックが口笛で続けている。うろ覚えらしく調子外れで、|妙《みょう》に明るい曲になっていた。
「同業者の僕としては、是非とも体験しておかないと。さ」
二人に向けてぐっと顎《あご》を突《つ》きだす。
「僕の前世も教えてくれる?」
「……あなた」
長くて重い沈黙《ちんもく》があった。少女達は僅《わず》かに動揺《どうよう》して、互《たが》いの手を握り合ったりしている。やがて右側が口を開くが、もう楽しげな笑《え》みは浮かべていない。
「学問を?」
「ブー、外れ。前世は『修道女クリスティンの甘い罠《わな》』ってシリーズで、AV女優をやってました。じゃあその前は?」
「……記録者を?」
「ブーまた外れ。その前は第一次世界大戦で軍医をやってて酷《ひど》い目に遭《あ》いました。なんだ全然当たらないねー。でも美人双子|姉妹《しまい》占い師って、それだけで|充分《じゅうぶん》客は呼べるけど」
少女達の透《す》き通るように白い肌《はだ》が、絵の具でも落としたみたいに朱《しゅ》に染まった。繋《つな》いだ手が小刻みに震《ふる》えている。味わったばかりの敗北が、相当、悔《くや》しいのだろう。
ていうか村田、お前って前世でも何者? 甘い罠って何だよ、甘い罠って。
美しい双子が両手を握り締《し》め、およそ似合わない悪態を今にも吐《つ》こうとしたときだった。|噴水《ふんすい》の飛沫《しぶき》の向こうから、他国の軍服姿の男が姿を現した。
「ジェイソソ、フレディ、何かあったか」
忘れようとしても忘れられない、|年齢《ねんれい》より枯《か》れた渋《しぶ》い声だ。
名前を呼ばれた少女達は、ぴったり同じタイミングで腰《こし》を浮かせた。
「マキシーン!」
ナイジェル・ワイズ・マキシーン。
小シマロンの最悪の男だ。
「双子なのにジェイソンとフレディって……おすぎとピーコくらいにしとけばいいのに」
村田の突っ込みポイントは、今回も|微妙《びみょう》にずれている。