ある時、あぜ道を歩いていると、立派な茶釜が落ちていました。
「これはいい茶釜だ。うまくすると売れるかもな」
古道具屋さんは家に茶釜を持って帰ります。だいぶすすけているので、水で流し、砂でゴシゴシ洗います。
すると、どこからか声がします。
「あ、いててて…」
気のせいか、茶釜が喋ったような気がするのです。
試しに水を入れて、火にくべました。
「あつっ、あつっ」
茶釜は飛び上がって、床の上にゴロゴロと転がります。見ていると、にょきっにょきっと手足が生えてきます。
「な、なんじゃあ!?」
最後にヌッと狸の顔が出てきました。ちょうどタヌキが背中に茶釜をひっつけたような感じです。
「ひっ…タヌキ!」
「はい。私はぶんぶくという名のタヌキです。あなたすみませんがね、何か食わしてもらえませんか。私はどうももう腹が減ってしまいまして」
その声があまり哀れだったので、古道具屋さんは麦雑炊を作ってあげました。大根も二切れ入れました。よほどお腹がすいていたと見えてタヌキはむしゃむしゃ食べました。
お腹いっぱいになると、ぶんぶくはわけを話します。
「いや、助かりました。実は情けないことになっちまって。山で仲間と化け比べをしたんですが、私はそこで茶釜に化けたんですが、戻れなくなっちまって…。大変なことですよ。だからあなた、ここに置いてくれませんか?」
古道具屋さんはきいているうちに要領が悪くて損ばかりしている自分の姿が重なります。とても他人事とは思えません。似たもの同士という感じです。
とはいっても貧乏暮らしで生き物を飼う余裕なんてありません。ところがぶんぶくは「お金なら私が稼ぎますよ」と言うのです。
「お前が金を稼ぐって?」
「はい。私は綱渡りが得意ですから、あなたに見世物小屋を作ってもらって、お客さんをワッと呼んで、二人で稼ぎましょうや」
ぶんぶくの言うままに古道具屋さんは一週間かけて見世物小屋を作ります。
さあさ寄ってらっしゃい
見てらっしゃい
世にもめずらしい狸の綱渡り
うまくできたらご喝采
ぶんぶく茶釜の綱渡り
二人でビラをまいたりポスターを貼ったりいっしょうけんめい宣伝したかいがあって、初日からすごい人だかりです。
会場の端から端へぴゃーーっと張られた綱の上を傘を持ったぶんぶくが歩いていきます。ドコドコドゴドコ…古道具屋さんは太鼓を叩きます。
たくさんのお客さんがちゅうもくする中、ぶんぶくはゆっくり歩いていきます。
すると、古道具屋さんの太鼓がドコン、ドコン、ドンドン、ドコン、激しいリズムを刻み始めます。
それに合わせてぶんぶくは跳んだり跳ねたり、傘をパッと閉じたり開いたり、またくるくる回したり。綱がびよんびよん揺れて危なっかしい感じですが、うまくバランスをとって踊ります。
「いよっ、ぶんぶく」
「ぶんぶくサイコー」
お客さんたちは大喜び。ワーッと惜しみない拍手を送ります。
こうしてぶんぶくの綱渡りは大当たり。たぬきまんじゅうやたぬきせんべいも売り出して大ヒットとなり、古道具屋さんは貧乏生活とおさらばできたということです。