ある時、お城の若殿さまが狩りに行って、にわか雨に降られたので、おじいさんとおばあさんの家で雨やどりをしたのですが、その時、若殿さまは娘を見染めて(みそめ→気に入り)、
「近い内に、娘を嫁にもらいに来るぞ」
と、いって帰って行きました。
それから二、三日後、おじいさんの家で法事(ほうじ)があり、和尚(おしょう)さんを呼んだところ、和尚さんまでが娘を気に入ってしまいました。
でも和尚さんは仏(ほとけ)につかえる身で、女性と結婚する事ができません。
娘はほしいが、嫁にくれというわけにも行かず、そこでおじいさんとおばあさんをだます事にしたのです。
「じいさま、ばあさま、お前さまの娘は私の見たところ、近々ウシになりそうだ。仏さまの前でお経を読んでやるから、二、三日寺によこしなさい」
翌朝、おじいさんとおばあさんは、カゴ屋を呼んで娘をお寺へやりました。
ところが酒好きのカゴ屋が、カゴを道に置きっぱなしで酒屋に酒を飲みに行ったのです。
そこへお城の若殿さまが通りかかり、娘をみつけて城へ連れて行ってしまいました。
そのあと娘の下りたカゴへ、どこから逃げて来たのか、一匹の小ウシが逃げ込みました。
ちょうどそこへ帰って来たカゴ屋は、何も知らずに寺へ行きましたが、いつのまにか娘が小ウシになっていたので、和尚さんもカゴ屋もビックリ。
和尚さんは、おじいさんとおばあさんに、
「娘はお経を読む前にウシになってしまった。もう、わたしのお経では人間にもどす事は出来ません」
と、おじいさんとおばあさんに、ウシを取りに来させました。
おじいさんとおばあさんは泣く泣く小ウシを家に連れて帰り、大切に育てました。
そのうちウシは大きくなり、おじいさんとおばあさんを乗せて田んぼに行くようになりましたが、ある日の事、突然ウシは二人を乗せて走り出して、とうとう城の中へ飛込んだのです。
突然のあばれウシに、城の中は大騒ぎになりました。
そこへ、娘が出て来て、
「おや? 父さんに母さん、よく来てくれましたね」
と、むかえられて、おじいさんとおばあさんと娘と、それにウシは、お城の中で幸せに暮らしたという事です。