こんぶ がい

　むかしむかし　あるところに　おとこのこが　いました。

　あるひのこと　おかあさんが　おとこのこに　いいました。

「おみそしるに　いれるから　こんぶを　かってきておくれ」

「うん　いいよ。こんぶだね」

　おとこのこは　わすれないように　くちのなかで　 

「こんぶ　こんぶ」

と　いいながら　あるいて　いきました。

　すると　ちいさな　みぞが　ありました。 

　おとこのこは　 

「ぴんとこしょ」

と　いって　みぞを　とびこえました。

　そのとたん　こんぶが　ぴんとこしょに　かわって　しまいました。 

「ぴんとこしょ　ぴんとこしょ」

と　いいながら　おとこのこは　こんぶを　うっている　おみせへ　いきました。

「ぴんとこしょおくれ」

「なに　ぴんとこしょだって？　さて　そんなもの　きいたことが　ないな。　いいこだから　もういちど　おうちに　かえって　きいて　おいで」

　おとこのこは　また　 

「ぴんとこしょ　ぴんとこしょ」

と　いいながら　うちへ　かえって　きました。

「おかあさん　ぴんとこしょ　ないよ」

「ばかだね　このこは。　そんなもの　あるわけが　ないだろう。　ぴんとこしょ　じゃなくて　こんぶだよ。　こんぶ」

「そうか　こんぶ　だったのか」

　おとこのこは　くちの　なかで　 

「こんぶ　こんぶ」

と　いいながら　おみせの　ほうへ　あるいて　いきました。

　ところが　また　みぞを　とびこえるとき　 

「ぴんとこしょ」

と　いって　しまいました。

「ぴんとこしょ　おくれ」

　それを　きいた　おみせの　ひとは　あきれたかおで　いいました。 

「さっきも　いったが　ぴんとこしょじゃ　わからんだろう」

　おとこのこは　またまた　 

「ぴんとこしょ　ぴんとこしょ」

と　いいながら　うちへ　かえってきました。

「やっぱり　ぴんとこしょは　ないよ」

「ああ　ほんとうに　だめな　こだねえ。　こんぶぐらい　いえなくて　どうするの！」

　おかあさんは　はらをたてて　おとこのこの　あたまを　げんこつで　なぐりつけました。 

　すると　ぽこんと　たんこぶが　できました。 

「こんぶ！　こんぶ！　こんぶ！　さあ　いってみな！」

「こんぶ　こんぶ　こんぶ」

　おとこのこは　あたまの　こぶを　おさえながら　いいました。 

「ちゃんと　いえるじゃないの。　さあ　もういちど　いっておいで」

　おとこのこは　 

「こんぶ　こんぶ」

と　いいながら　さっきの　みぞのところまで　きました。

「そうだ　ここを　とぶときに　ぴんとこしょと　いうから　いけないんだ」

　そして　みぞを　とばずに　ゆっくりと　わたると　 

「やったー。　ぴんとこしょ　と　いわなかったぞ」

と　いったとたん　またまた　こんぶが　ぴんとこしょに　かわって　しまいました。

「ぴんとこしょ　ぴんとこしょ」

　おとこのこは　おみせに　やってくると　いいました。 

「ぴんとこしょ　おくれ」

「ああ　やっぱり　だめだ。　こっちは　いそがしくて　とても　おまえの　あいては　しておれん。　とっとと　かえっておくれ」

　そういって　おみせの　ひとが　ふと　おとこのこの　あたまを　みると　おおきな　たんこぶが　できています。 

「どうした　そのこぶは？」

　すると　おとこのこは　にっこり　わらって　 

「ああ　そのこぶ(こんぶ)を　かいにきた」

と　いいました。