この大金持ちの屋敷(やしき)には、先祖代々の宝として一枚の皿が伝えられています。
この皿は青磁(せいじ)といって、青みがかったみどり色の、とてもめずらしいものでした。
家の主はこの皿をなによりの自慢にし、桐(きり)の箱におさめてふくさで包んで、それはそれは大切にしています。
ある時の事、この大金持のだんなは、友だちを二、三人つれて大阪でも有名な料理屋へいきました。
「さあ、食ってくれ。たんと食ってくれ」
山のような料理が目の前にならべられましたが、その出された皿の中に、自分が宝としている青磁の皿とそっくりの皿がありました。
だんなはその皿を手にとって、つくづくとながめていましたが、
(なんと不思議な。わしの物と少しもかわらんではないか)
一緒にいた友だちもなかなかの目利きで、次々とその皿を手にとっては、
「いやあ、まことに見事なものよ」
「これは天下に二つとない、立派な皿じゃ」
などと、ほめたのです。
そのようすをだまって見ていただんなは、料理屋の主人を呼びました。
「主人、この皿をぜひゆずってもらいたい」
これを聞いた料理屋の主人は、ビックリです。
「そ、それだけは。この皿は大切なお客さまがいらした時だけ、もちいております家宝の皿ゆえ、なにとぞお許しくださいませ」
それを聞くと、金持ちのだんなは、
「それならなおのこと、ゆずってもらいたい。三十両(さんじゅうりょう→約二百十万円)で買い受けましょう」
金持ちのだんなは大判三枚をほうり出すと、その皿を手にとって粉々に打ちくだいてしまったのです。
「ああっ・・・」
店の主人は、くだけた皿を見つめていましたが、やがて座を立っていってしまいました。
このなりゆきを見ていた友人たちが、
「どうしてまた、そのようなもったいないことを」
と、たずねると、大金持のだんなは、
「わしの持っておる青磁の皿は家の宝。世間にそれと同じ物が二つあっては、家の名がすたるわ」
と、答えたのです。
その夜の事、いつものようにだんなは、青磁の皿をながめて楽しもうと桐箱のふたをしずかに開けました。
「あーっ!」
さけぶと一緒に、その場にのけぞるように倒れました。
なんとその中にあった青磁の皿は、粉々に打ちくだかれているではありませんか。
しかもかけらの下には、大判が三枚、ちゃんと入っていたという事です。