ある日、おかあさんが重い病気になりましたが、医者にかかりたくてもお金がありません。
(このままでは、おかあさんが死んでしまう。お金持ちのごんぞうおじさんに、お金をかりよう)
と、さすけは出かけていきました。
ごんぞうおじさんは、
「金をかせというのか? それなら、おらの家のひろい畑を、一日でたがやすんだ!」
と、どなりました。
さすけは早くお金をもらって、おかあさんを助けようとがんばり、一日で畑をたがやしました。
でも、ごんぞうおじさんは、
「まだ金はかせん。大おけに水をいっぱい入れろ!」
と、またどなりました。
つぎの日、さすけは水をはこびました。
ところが、おけには小さな穴があけてあって、いくらはこんでもいっぱいになりません。
「なまけ者! 金はかせん、帰れっ!」
さすけは追い返されました。
トボトボ歩いていくと、とあるお宮の前にきました。
(おなかがへったなあ。もう歩けない。どうしたらいいんだろう)
さすけは、ウトウトと、いねむりをしてしまいました。
カラーン カラーン カラーン カラーン
ゆめの中でしょうか。
ゲタの音が近づいてきます。
あらわれたのは、やさしい顔のおじいさんでした。
「母親思いのさすけよ。おまえに一本のはのゲタをさずけよう。このゲタをはいてころぶと、そのたびに小判が出る。だが、ころぶたびに背が低うなる。やたらと、ころぶではないぞ」
「は、は、はい。ありがとうございます」
おじいさんのすがたは、パッと消えてしまいました。
「ありゃ? 夢か? でも、ほんとうにゲタがあるぞ」
さすけは、おっかなびっくり、ゲタをはいてみましたが、なにしろ一本はのゲタです。
立つか立たないうちに、スッテン!
「あっ、いてててえ」
と、いったとたん、チャリーン。
「ああ、小判だ!」
さすけは、大よろこびです。
その小判を持って、すぐに医者のところへいきました。
医者にみてもらったおかあさんは、みるみる元気になりました。
それで、あのゲタは大事にしまって、さすけは、おかあさんといっしょに、毎日よくはたらきました。
そこへ、ごんぞうおじさんが、さすけのようすを見にやってきました。
そっとのぞくと、ごちそうを食ベています。
「やいやい。このごちそうはどうした! ごちそうを買う金があるくせに、おらのところに金をかりに来たのか!」
「まあまあ、気をしずめてください。これには深いわけが」
さすけは、あのゲタの話をしました。
「なに、小判の出るゲタだと。こいつはいい。これは、びんぼう人のおまえたちより、金持ちのおらがもつべきだ。もらっていくぞ」
ごんぞうおじさんは、ゲタを持って帰っていきました。
家に帰ったごんぞうおじさんは、さっそく大きなふろしきを広げました。
そしてゲタをはいて、ふろしきの上にのると、
「へっヘっへ、まずは、ひところび」
と、言って、スッテンと、ころびました。
すると、小判がチャリリリーン。
「おおっ! 本物の小判じゃ!」
さあ、それからというもの、
♪ころんでころんで、小判がほしい。
♪チャリンコ、チャリンコ、小判がほしい。
ごんぞうおじさんは、夢中になってころびました。
「おおっ! 小判がだんだんでっかくなるぞ! おらよりでっかくなっていくぞ! おら、日本一の大金持ちじゃあー!」
ごんぞうおじさんは、ころぶたびに自分が小さくなっていくことに、ぜんぜん気づいていません。
そのころさすけは、ゲタをはいてころぶと、背が低くなることを言いわすれたのを思い出して、あわてて、ごんぞうおじさんに会いにいきました。
家に行ってみますと、しめきった家の中で、チャリーン、チャリーンと、音がします。
「おじさーん、おじさーん!」
と、呼んでみましたが、へんじがありません。
さすけは、とびらを力まかせにあけました。
すると、中から小判が、ジャラジャラと出てきます。
「うああっ! ごんぞうおじさん。どこだあー!」
ごんぞうおじさんは、山のようにつまれた小判のすみで、バッタのように小さくなっていました。
それでも、ころんでは起き、ころんでは起きして、小判を出しています。
そのうちに、とうとう小さな虫になって、どこかへ飛んでいってしまいました。
その後、さすけはごんぞうおじさんの家をひきとって、長者(ちょうじゃ)さまになり、おかあさんとしあわせに暮らしました。