吉四六さんの村では、秋になると椎茸(しいたけ)がたくさん採れました。
椎茸は人気があるキノコなので、村人はこの椎茸を売ってお正月の準備をするのでした。
ところが今年の秋は椎茸が不作な上に、殿さまから、
《一軒から千本ずつ、キノコを献上せよ》
と、いうおたっしがありましたので、村人は大変困って吉四六さんに相談しました。
すると、吉四六さんは、
「なあに。何も心配する事はない。山で、この春に芽生えた木の苗を採ってくればいいんだよ。それが木の子(キノコ)じゃ」
と、言いました。
確かに木の苗も木の子どもなので、『キノコ』に違いありません。
「なるほど、吉四六さんの言う通りだ」
そこで村人たちは千本ずつ木の苗を採ってきて、それを吉四六さんがたわらに詰めて、お城へ持って行きました。
さて、吉四六さんが持って来たたわらを開けた役人は、中身を見て怒り出しました。
「吉四六! 何だこれは?!」
「はい。おたっし通りの、木の子でございます」
「木の子? きのこ、キノコ、木の子???。バカ者! キノコと言えば、椎茸の事に決まっているだろう」
「あっ、なるほど、キノコとは、椎茸の事でしたか。その椎茸なら、残念ながら村人たちが、もうみんな売ってしまった後です」
それを聞いた役人は、ちゃんと説明しなかったこちらも悪かったと思ったのか、
「まあ、では仕方がない。ただし、来年は間違わぬようにいたせよ」
と、許してくれました。
すると吉四六さんは、恐る恐る聞き返しました。
「お役人さま。もう一度確認しますが、キノコと言えば、椎茸の事。椎茸と言えば、キノコの事。でございますな」
「その通りじゃ」
「わかりました。では、来年は間違えません」
吉四六さんはそう言って、村へ帰って行きました。
さて、次の年の秋になりました。
お城の役人は去年の事があったので、今度は間違えない様に、
《一軒から千本ずつ、椎茸を献上せよ》
と、おふれを出しました。
ところが今年も椎茸が不作だったので、吉四六さんはまた山から木の苗を集めさせて、それをお城へ持って行きました。
それを見た役人は、まっ赤になって怒りました。
「こら、吉四六! 今年もやはり、キノコではないじゃないか!」
すると吉四六さんは、何で怒っているのかが分からないと言う様に聞き返しました。
「あの、去年、キノコと言えば、椎茸の事。椎茸と言えば、キノコの事かとお伺いしましたら、『さよう』と、おっしゃいましたねえ」
「いかにも、その通りだ」
「だから今年は、椎茸を献上せよとのおたっしなので、キノコを持って来たのですが。何か間違っていましたか?」
「???あっ、なるほど」
確かに、吉四六さんの言う事は間違ってはいません。
「しかし、それはだな。???よし、少し待っておれ」
困った役人は、この事を殿さまに伝えました。
すると、それを聞いた殿さまは、
「それは、面白い男だな。よし、会ってみるから連れて参れ」
と、言って、吉四六さんを庭先に呼んだのです。
そこで吉四六さんは村人が椎茸を売って正月の準備をする事と、椎茸が不作で困っている事を殿さまに説明したのです。
「うむ。そう言う事か。よし分かった。今後、お主の村は椎茸の献上は無しにしよう」
こうして吉四六さんの村はその年から、椎茸を献上しなくともいい事になったそうです。