ある日の事。
吉四六さんは村に、奇妙な立て札を立てました。
《明日の正午、畑にて、吉四六が天昇りをいたします》
さあ、それを知った村人たちは大騒ぎです。
「おい聞いたか? あの吉四六さんが、天昇りをするそうだぞ」
「まさか、いくら吉四六さんでも、天に昇ることなんか」
「いいや、吉四六さんなら、本当にやりかねんぞ」
そして、いよいよ次の日。
吉四六さんの畑に、村中の人が集まって来ました。
するとそこへ現れた吉四六さんが、村人たちにこう言いました。
「みなさん。
わたしもいよいよ、天に昇る事になりました。
つきましては、お願いがござります。
天へは、このはしごを伝わって昇りますので、誰か下で押さえていて下さい。
それからわたしも最後は賑やかに行きたいので、他の方々は下で踊(おど)りながら、『天昇りは危ないぞ』と、言って下さい。
それではみなさま、どうかおたっしゃで」
こうして吉四六さんは、少しずつはしごを登って行きました。
下では村人が、天を見上げながら、
「天昇りは、危ないぞ。天昇りは、危ないぞ」
と、言いながら、畑の中を踊りまわります。
吉四六さんは、はしごのてっぺんから下の様子を見ていましたが、やがてどうしたわけか、スルスルと下りて来て、みんなに向かってこう言いました。
「せっかく決心して登りましたが、こうみんなに『危ない、危ない』と言われると、やっぱり恐ろしくなりました。そんな訳で、今回は止めにします」
「はあ? ・・・・・・」
それを聞いた村人たちは、しばらくあっけにとられていましたが、急に馬鹿馬鹿しくなって家に帰って行きました。
そして一人残された吉四六さんは、しめしめとばかりに十分にならされた畑をながめて、
「よし、これで今年は、畑を耕さなくてもいいな」
と、ニッコリ笑いました。
吉四六さんは村人たちに踊りを踊らせて、自分の畑を耕したのでした。