特に川内(せんだい)のあたりがひどく、奉平寺(たいへいじ)というお寺でも和尚さんや小僧が、毎日、朝から晩まで塩探しに走り回っていました。
そんなある日です。
本堂を掃除していた小僧は、本堂でどっかりと座っている大黒さんを見ながら、うらめしそうにつぶやきました。
「大黒さんは、よかね。
みんなが塩不足で困っとるのに、いつものんびりとひまそうに。
だいたい大黒さんは、福を持って来るのが仕事じゃろう。
それが何もせんで、座っちょるだけか?
そうじゃろ?
なあ、黙っとらんで、何か言うてみい」
しかし相手は木彫りの大黒さんなので、いくら文句を言っても返事をするわけがありません。
「けっ、こげん言っても、返事もなかか」
腹が立った小僧は大黒さんを足でけりつけると、本堂を出て行きました。
さて次の日、大変な事が起こりました。
大黒さんの姿が、どこにもないのです。
お寺のみんなはあちこち探しましたが、やっぱりどこにもありません。
「もしかして、泥棒にでも盗られたんじゃろか?」
「そうかもしれんな。何せ、これだけ探しても見つからんのじゃから」
「まあ、今は大黒さんよりも塩の方が大事じゃ」
「そうじゃな」
やがてみんなは、大黒さんを探すのをあきらめてしまいました。
それから、間もなくの事です。
川内の港に、塩を山の様に積んだ船がやって来ました。
川内の人々は大喜びで迎えましたが、誰が船を頼んだのか分かりません。
そこで船頭に聞いてみると、
「それが四、五日前に、『川内に塩を届けてくれ』ちゅうて、どっさり金を置いて行った人がおったのです。
何とも変わった格好の客でな。
大きな袋かついで、頭巾をかぶっとったよ」
と、首をかしげて答えるのです。
それを聞いた小僧は、びっくりです。
「そっ、その格好は、大黒さんじゃ。まさかうちの大黒さんが」
そしてあわてて寺に戻った小僧は、本堂を見てびっくり。
何と大黒さんが、ちゃんと元の場所に座っているではありませんか。
しかも大黒さんの足が砂で汚れており、おまけにその砂が本堂の縁側からずっと続いているのです。
さらによく見ると、大黒さんのかついでいる大きな袋が、前よりも少し小さくなっているのです。
小僧はその場にひれ伏すと、
「大黒さん、この前は失礼しました! そして塩を、ありがとごわした」
と、手を合わせて謝ったそうです。