この日は朝から村人たちが野菜やおみそなどを持ちよって、男たちが川でとったカジカと一緒に煮て、おいしい『カジカ汁』をつくって食べるのです。
料理は簡単で、包丁の先でカジカのお腹をすこし裂き、そこから腹わたを取り出して野菜と一緒にみそ汁にするのです。
みんなが楽しそうに料理をしていると、一人の旅人が通りかかりました。
「お前たち、何をしておるんだ? 今日が何の日か、知らんのか?」
「何の日って、今日は村の春祭りの日じゃ。
春祭りには、毎年こうして村中でカジカ汁を食うことになっとるんじゃ。
体が温まって、おいしいぞ。
もうすぐ出来るから、あんたも一杯、食っていったらどうじゃ」
何匹ものカジカのお腹を包丁の先で裂いていた男が言うと、旅人が声高に言いました。
「馬鹿者! 今日は二十八日。親鶯上人(しんらんしょうにん)という、偉いお坊さんの月のご命日ぞ。その日に生き物を殺すとは何事か!」
男はびっくりして、包丁から手をはなしました。
するとお腹を裂かれてまな板の上にのっていたカジカがみんな生き返って、ピチピチとはねだしたのです。
「大変だ。はやくカジカを川へ戻すんだ!」
村人たちは、急いでカジカを川へ逃がしました。
この事があってから、この村の川に住むカジカは、みんなお腹に切られたようなくぼみがあるそうです。