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過熟の実20

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:20 熱 気「希代子さん!」 と、太田が声をかける。「今日戻りますか」 編集部を出ようとしていた希代子は振り返って、「向う
(单词翻译:双击或拖选)
 20 熱 気
 
「希代子さん!」
 と、太田が声をかける。「今日戻りますか」
 編集部を出ようとしていた希代子は振り返って、
「向うの状況次第ね。撮影に手間どるかもしれない。帰れるかどうか、電話入れるわ」
 と言った。
「分りました。行ってらっしゃい」
 カズちゃん、こと太田和也は、必ずこうして声をかけてくれる。希代子にとって、ありがたい後輩である。
 希代子は足早に廊下へ出た。顔見知りの編集者に会って、
「やあ、どう?」
「相変らず」
 と、誰にでも通用しそうな言葉を交わして、お互い、それで別れる。
 どっちも忙しい。のんびりと立ち話をしている暇はないのである。
 エレベーターの中で手帳をめくり、予定と行先を確認する。いくつもの仕事を並行してこなしていると、間違って 憶《おぼ》えていることがあるのだ。必ず書きとめたものを見て確かめる。
 エレベーターの扉がガラガラと開く。希代子は 大《おお》股《また》に外へ踏み出して行った。
 ビルを出ると、一瞬まぶしい 日《ひ》射《ざ》しに顔をしかめた。
 暑いというわけではないが、もう日射しの強さはすっかり「初夏」。 梅雨《つゆ》が、今年は短くあけて、夏の盛りの水不足が、もう話題になっていた。
 急ぐ仕事だ。タクシーは使えなかった。地下鉄を乗りこなした方が早くて確実。
 仕事柄、希代子は都内の地下鉄路線図をほとんど正確に頭の中に思い浮かべることができる。
「 ——やれやれ」
 と、 空《す》いた地下鉄の座席に腰をおろして息をつく。
 仕事に追われて、毎日が飛ぶように過ぎて行く。一週間がアッという間。そして次の月も、ひと息つく間もなくやってくる。
 これで一年がたちまち過ぎ、二年三年とたつと ——もう希代子は三十を過ぎる。
 人の一生なんて 儚《はかな》いもんだわ、などとこのところしばしば考えるのはどうしてだろう……。
 地下鉄って良くないな、と思ったりもする。何も見えない、閉ざされた空間の中で、人はつい色んなことを考えてしまう。
 考えるのは悪いことではないだろうが、でも、考えたくないことも考えてしまうという点が問題なのである。
 考えたくないこと……。今の希代子にとって、それは「考えていたいこと」と分ちがたく一つに合さっていた。
 でも ——今はともかく仕事! 仕事だ。
 希代子は手帳を出して眺めた。
 毎日毎日、手帳の欄が狭苦しく見えるくらい、予定がびっしりと詰っている。それはうんざりさせられると同時に、どこかホッとする光景でもあった。
 自分が必要とされている、という幻想を、その細かい文字のつらなりは与えてくれる。本当は ——厳密な意味で希代子でなくてはならない仕事は一つもない。
 でも、そう考えることは、ひどく恐ろしいことだった。
 私は必要とされている。そう思わなければ、こんな忙しい仕事をこなしてはいけない。
 そう。私は必要とされている。 ——それとも、必要としているのか? 誰を……。
 希代子はパタッと音をたてて手帳を閉じた。
 
「あと、もうワンカット」
 と、カメラマンが言った。
「くたびれちゃった」
 と、モデルが文句を言う。
 半分素人の女の子だ、カメラマンの注文に 応《こた》えるのは確かにハードだろう。
「少し休めない?」
 と、希代子が声をかけると、カメラマンは渋い顔をしたが、
「ま、いいか」
 と、肩をすくめた。「おい、バック、変えてとろう」
 助手に言って、ポジションをいじる。 ——これで何分かは休める。
「大丈夫?」
 と、希代子はモデルの子に声をかけた。「もうちょっとだからね」
「大変なんですね」
 と、その子はペタッと 椅《い》子《す》にかけて、「ずっと立ってると、めまい起すの」
「そうね。プロになって、お金を稼ぐのって大変よ」
「本当! モデルなんて、とってもつとまんない」
 と、ため息と共に言ったので、希代子は笑ってしまった。
 スタジオの中は、そう暑いという温度ではなかったが、やはり「閉じこめられている」感じがあって、疲れる。
 希代子は、スタジオから出ると、外の公衆電話へと急いだ。
「 ——もしもし」
 と、すぐに向うが出た。
「いたの」
 と、希代子はびっくりして、「留守電に入れようと思ってた」
「オケのリハーサルがなくなって。指揮者の都合なんですけど」
 と、水浜邦法は言った。「希代子さん、今日は ——」
「原稿入るのが明日になって……。直接帰れる。今、スタジオでカメラマンと一緒」
「希代子さんをとってるんですか?」
「まさか」
 と、希代子は笑った。「出て……来られる?」
「ええ。どこに行けばいいですか」
「じゃあ……何か食べるものは買って帰るわ、私の所で食べましょ」
「分りました。何時ごろ?」
「そうね……。八時には帰れると思う」
「待ってますよ、下で」
 希代子は、つい、
「悪いわね」
 と言っている。
 別に悪いことをしているわけではない、と……。そう。水浜に対しては、少なくとも。
「じゃ、後で」
 と、水浜が言った。
 本当なら、自分の方で切らなくてはいけなかった、と希代子は思った。いつもそう思うのに、切ってくれるのは、彼の方である。
 スタジオへ戻ると、新しいポジションにカメラを据えて、カメラマンがモデルにポーズをつけている。さっきは、相当にうんざりしているのが、はた目にも分ったが、今はもう 諦《あきら》め顔。
「 ——そう! いいぞ」
 カメラマンがファインダーを 覗《のぞ》いて、声を上げた。「それだ!——もう少し目を上に。——そう!」
 カメラマンが、本気で のって来ているのが分った。珍しいことだ。
 しかし、見ている内に希代子にも分った。たぶん、くたびれてしまって、モデルの女の子に「気取る」だけの余裕がなくなったのだろう。それが 却《かえ》って自然な魅力を見せる結果になったのだ。
「 ——いいな! 初めからその表情がほしかった」
 と、カメラマンが言って、「 ——とり直してもいいかい?」
 希代子は、モデルの子が絶対に拒否するだろうと思った。ところが、
「はい」
 と 肯《うなず》いたのだ。「良くなりますか?」
「ああ、絶対になる! コツをつかんだな。それでいいんだ」
「はい! じゃ、お願いします」
 さっきブツブツ言っていたのとは別人のよう。
 くたびれて、うんざりして、それを通り抜けたところで、彼女はプロの味わう興奮に触れたのだ。
「よし! スタイリストに言って、前の 衣《い》裳《しよう》をもう一回着させてくれ」
「はい」
 と、希代子は肯いた。
 カメラマンもモデルも、のって仕事をしている。こんなときはきっといい出来栄えになるのだ。やらせておくに限る。
 時間がオーバーするのでいやな顔をしているスタイリストに頼み込んで、初めからやり直し。
「途中でモデルが発作起して死んじゃった、と思えば」
 と言ってやると、スタイリストの女性はふき出して、
「希代子さんにはかなわないなあ」
 と、てきぱき動いてくれる。
  ——おかげで、撮影が終るのが大分遅れた。
 しかし、 真《まつ》直《す》ぐ帰れば充分八時には間に合うだろう。念のため編集部へ電話を入れる。
「 ——カズちゃん? 私よ。何か伝言とかある?」
「はい。三つあります。いいですか?」
 太田は全くむだのない話し方のできる男なのである。
 二つの用件は明日連絡すれば充分だった。
「それから三つめは……。津山さんから、ぜひ家に電話を、とのことです」
「津山?」
 津山隆一かと思った。「男の人?」
「女の人です。津山……静子さん」
「叔母だわ。ありがとう」
「じゃ、今日はもうご帰宅ですか?」
「とんでもない。打ち合せ。二日酔いになりそうな、ね」
「分りました。飲み過ぎないで下さい」
 と、太田が笑って言った。
 希代子は、少し迷ってから津山家へ電話を入れた。
「 ——希代子ちゃん、ごめんなさいね、忙しいのに」
 すぐに叔母が出て、そう言った。
「いいえ。何か用?」
「それが……。奈保のことで」
 希代子はドキッとした。
「奈保ちゃん、どうかしたの?」
「何だか変なの。二、三日前からふさぎ込んで、あんまり食事もしないし、どうしたらいいか分らなくて。 ——ね、例のボーイフレンドのことで悩んでるんじゃないかしら」
「何か、それらしいこと、言ってるの?」
「そうじゃないけど……。他に思い当らないもの。ね、悪いんだけど、奈保と話してみてくれない?」
 希代子は少し間を置いた。何くわぬ調子でしゃべるには、多少の準備が必要だった。
「じゃ、帰りに寄るわ。 ——叔父さんは?」
「うちの人? さあ……。このところ、帰って来たり来なかったり」
 と、静子は言って、「何してるんだか分らないわ」
 諦めているというより、こんなことのために気をつかうのがいやだ、と思っているらしい。叔母のその気持も、希代子には良く分った。
「じゃあ……。後、用事があるの。あんまり長くいられないかもしれないけど」
「ええ、もちろん分ってるわ。ごめんなさいね。お食事は外で?」
「ええ。ご心配なく。それじゃ、三、四十分で行くわ」
 と言って、電話を切る。
 正直、気は重い。
 しかし、行くと言った以上、行かなくては。 ——希代子はタクシーを使うことにした。
 タクシーで落ちつくと、目をつぶってしまう。眠いわけではないが、余計なものを見たくないという気分だった。
 昼の長い季節に入っている。冬ならもう真暗な六時半過ぎだが、まだずいぶん明るい。 ——水浜を自分のマンションへ初めて泊めてからもうひと月近くになる。
 自分が何をしているのか、よく分っていた。自分と水浜と二人だけのことならいい。しかし、そこに奈保が絡んでくると、そう単純にはすまなくなる。
 奈保に対して、自分がどんなに残酷なことをしているか、希代子はよく承知していた。しかし、水浜との仲はまだ始まったばかりで、希代子はその「終り」を想像することさえできない。
  ——奈保は、何かを感じている。当然のことだ。
 恋している人間は、相手の裏切りに敏感である。それに水浜は、希代子と奈保と、両方とうまく遊べるような男ではない。
 奈保に何と言えばいいのだろう?
 希代子は、何度か教えに行っているから、奈保に会っていないわけではない。しかし、奈保の方が、水浜との仲がどこまで行っているか知られたくないからだろう、水浜のことを話題にするのをあえて避けていた。
 それは希代子にとっても都合のいいことだったのだが……。
 タクシーの中でじっと目を閉じている内、希代子はふっと浅い眠りに落ちていたらしい。
 ついさっき、スタジオで見た撮影の風景が、フラッシュバックのように次々に目の前を横切って行った。
 スタジオの中の熱気さえ感じられて、希代子は汗をかきそうだった。
 現実に、あのモデルの女の子は、 頬《ほお》を上気させて、輝いていた。
 あの熱気。 ——「仕事に打ち込む」ということを初めて肌で感じたときの、あの興奮は、若いときにしか訪れないものだ。
 今の希代子にとって、それは「青春」をかえりみるようなものだった。
 今の仕事に愛着はあっても、あの「熱気」が自分を 捉《とら》えることは、もうあるまい、と……。少し寂しい気持で、希代子は呟《つぶや》くのだった。
  ——タクシーが停《とま》って、ふっと目を開くと、もうそこは津山家のすぐ近くの信号で、希代子は何だかSFに出てくる「瞬間移動」でもして来たような気がして、面食らったのだった。
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