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過熟の実30

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:30 隠す心「希代子ちゃん」 と、叔母が玄関へ出て来た。「ごめんなさい、遅くなって」 と、希代子は息をついた。「忙しくって
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 30 隠す心
 
「希代子ちゃん」
 と、叔母が玄関へ出て来た。
「ごめんなさい、遅くなって」
 と、希代子は息をついた。「忙しくって。もういいんだけど。 ——どうかしたの?」
 ただごとではなかった。
 津山家の玄関に立って、希代子は、上っていいものかどうか、迷っていた。
 今日は木曜日で、奈保に勉強を教える日である。ちゃんといつもの時間に来るつもりだったが、急に打ち合せが入って、遅れてしまったのだ。
「会社へ電話したんだけど、もう出た後で……」
 と、静子は言った。
「そう。 ——今夜は帰ろうか?」
 と、希代子は訊いた。
「上ってよ」
 と、奈保が出て来た。「希代子さんにも、聞いてもらった方がいいよ」
「でも……」
「ね、上って!」
 奈保は、母親のためらいを無視して、希代子の手をつかんで引張った。
「分ったわ。上るから待って」
 と、やっと靴を脱ぎ、「上に行く?」
 奈保が、居間のドアへと希代子を引張って行った。
 津山隆一が顔を向けて、
「やあ」
 と言った。「ご苦労さん。 ——出世したって?」
 女が一人、ソファに堅い表情で座っていた。
 そうか。 ——希代子には、分った。
「奈保。あなたは希代子ちゃんと上に行ってて」
 と、静子が言った。
「いやだ」
 と、奈保は言った。「私だって、聞く権利あるでしょ」
 津山は、そっと希代子を見た。苦笑いを浮かべながら。
「奈保ちゃん」
 と、希代子は言った。「お母さんの言う通りにして。後でゆっくり聞けばいいわ」
 奈保は、しばらくためらっていたが、希代子が、もう一度、
「さあ」
 と促すと、二階へと上り出した。
「希代子ちゃん、お願いね」
 と、静子が小声で言う。
「大丈夫。心配しないで」
 希代子は階段を上って行った。
  ——奈保の部屋へ入ると、ベッドの上に引っくり返った奈保が、
「お父さん……子供作ってたんだって」
 と言った。「あの女の人がね、子供をちゃんと認知してくれって」
「大変ね」
 後ろ手にドアを閉めて、「お母さん、そっとしといてあげて。奈保ちゃん以上にショックよ、きっと」
「うん……」
 奈保は、じっと天井を見上げて、「お父さんに女の人がいることは分ってた。お母さんも知ってた。でも、子供がいるなんて思わなかった」
「そうでしょうね。 ——急に訪ねて来たの?」
「うん。お父さんがいやにあわてて帰って来て……。どうしたのかな、と思ってたら、すぐあの女の人が……」
 彼女を止められないと分って、津山はあわてたのだろう。 ——希代子は、前に津山から聞いているので、びっくりはしないが、静子や奈保がどう思うか、気になった。
「ね、いつも通り勉強しよう」
 と、希代子は言った。「それが一番いいのよ」
 奈保は、ゆっくりと起き上った。
「 ——そうかもしれないね」
「そうよ」
「じゃ……。やろう!」
 奈保は、パッとはね起きて、机の前に座った。
「その調子!」
 希代子は、いつものように奈保の机のそばへ 椅《い》子《す》を寄せて、勉強を始めた。
 むしろ、いつもより熱中しているという気分だった。
「 ——はい、ここはもう分ったわね」
 と、希代子は 肯《うなず》いた。
 奈保は、ふと手を止めて、
「子供がね、もう三つなんだって」
 と、言った。「幼稚園に入れなきゃいけないって。それであの女の人も必死なんだよね」
「そうでしょうね」
「気持、分るな。 ——お母さんは怒るかもしれないけど。もし自分に子供がいて、学校に行かせるのに困るんだったら……。押しかけてくな、私も」
 そう。 ——結局、津山もその子を認知せざるを得まい。叔母は、きっとそんなことがなかったかのように自分に言い聞かせて、変りなく暮して行くだろう……。
「別れちゃえばいいのに」
 と、奈保は言った。「お母さんと二人で、ちっとも困んない。どうせ年中いないんだもの」
「 ——さ、勉強の続き」
「うん」
 奈保は、ボールペンを握り直して、「 ——ね、彼、今日帰って来る」
「え?」
「旅行だったんだ。私、ずっと祈ってた。飲み過ぎて湖へ落っこちませんように、って」
 希代子は笑ってしまった。笑っていてはいけないのかもしれないが、今は自然にふるまうのが一番大切なのである。
「 ——明日、会えるんだ」
 と、奈保が言ったので、希代子はハッとした。
「明日?」
「そう。帰りに会って、お茶飲むだけよ。いいよね?」
「ええ。もちろん」
 と、希代子は言って、「さ、次は社会科。教科書は?」
 と促した……。
 
「ごめんなさい、何も出さなくて」
 と、叔母が玄関で言った。
「いいの。何だか 却《かえ》って迷惑かけたみたいで」
 と、靴をはいて、「じゃあ……」
「奈保、何か言ってた?」
 と、静子は声をひそめる。
「奈保ちゃんも子供じゃないわ。色々分ってるわよ。 ——叔父さん、いないの?」
「 あの人を送って行ったわ」
「そう……。元気出して」
「ありがとう」
 静子は、少しホッとした様子で、「怖い注射をしたときみたいね」
「注射?」
「前から、どんなに痛いかって想像してたから、いざとなるとそうひどくは痛く感じない。でも、後になって、きっとひどく痛むのね」
 希代子は、叔母の手を軽くとって、それから玄関を出た。
 叔父に会いたくないと思って、急いで歩いた。今の希代子には、あまりに 辛《つら》い話題だった——。
 
「もしもし」
 眠ってはいなかった。電話が鳴って、すぐに出ると、
「帰りました」
 と、水浜が言った。
「お帰りなさい。 ——無事だった?」
「何とか。二日酔だけは避けられませんでしたけど」
 と、水浜は笑って言った。「こんな時間になってすみません」
「まだ十二時よ。私には早いわ」
「仕事ですか」
「本を読んでたの。書評のね」
 と、希代子はソファに寝そべって、「 ——忙しい?」
「学生ですから、ちっともお金にならない忙しさですけど」
「今度は……来週ね」
「ええ。 ——いいですか?」
「大丈夫。明日、ちゃんと起きられそう?」
「何とか起きないと。朝の内にやっとかなきゃいけないレポートがあるんです」
「ご苦労様。少し早く帰って寝た方がいいわよ」
「先輩と会うんで。また飲まなきゃいけないかもしれない」
「無理しないで」
 と、希代子は言った。「若くても、体はこわすのよ」
「ええ。 ——じゃ、週末に電話します」
「待ってるわ」
 電話を切って、本のページに目をやる。しかし、少しも集中できなかった。
 明日、彼と会う。そう言った奈保の表情は 嘘《うそ》ではなかった。
 それならなぜ水浜もそう言ってくれなかったのだろう。
 いや、水浜としては希代子に気をつかっているのかもしれない。 ——希代子だって、奈保がああして落ちついたのは、水浜と時々話しているからだと分っていたのではないか。
 ただ、それを口に出して訊きはしなかった。水浜の方から言い出さなかったといって、不平は言えない。
 でも ——と、つい考えてしまう。奈保と会うのだということぐらい、言ってくれてもいいのに。
 それを聞いて、やきもちをやくとでも思っているのだろうか。
 もちろん……もちろん、会ったとしても、二人はもう……。
 パタッと本を閉じる。
 奈保は、水浜とお茶を飲むだけだと言った。でも、それが本当かどうか。
 自ら、嘘をついている身で、希代子は奈保や水浜に正直であることを要求はできなかった。
 自分は大人で、奈保は子供だという言いわけも、通じない。水浜に対しては、自分も奈保も一人の女であって、何の変りもないということに、希代子は気付いたのである……。
 
「 ——もしもし?——どなたですか?」
「カズちゃん? 私」
 と、希代子は言った。
「あ、デスク。どうしたんですか。遅いんで、心配してたんですよ」
 太田の言い方は自然で、その 真《まつ》直《す》ぐな言葉が希代子の胸に痛かった。
「ごめん。ちょっと ——風《か》邪《ぜ》ひいたみたいなの。気分が良くないから、このまま帰るわ、今日は」
「大丈夫ですか?」
 太田がびっくりしている。当然だろう。いくら具合が悪いといっても、会社へ戻らずに帰るということはない。
「悪いけど、机の上、片付けといて」
「いいですけど、そんなこと……。迎えに行きましょうか?」
 太田は本当に心配そうだった。
「ううん、そんな必要ないわ。心配かけてごめん。本当に大丈夫だから」
「そうですか……」
 大丈夫なら、直接家へ帰るなんてことはないだろう。太田の方も、ただの「風邪」ではないことを察したのかもしれなかった。
「じゃ、編集長にそう言っときます。お大事に」
 と、太田は言った。
「ありがとう」
 ごめんね、カズちゃん。 ——電話を切って、電話ボックスから出ると、希代子は空を見上げた。
 皮肉なくらい、きれいに晴れ上っていた。
 電話を切ったとたんに、後悔していた。ちゃんと仕事に行くべきだ。外出先から回って来てしまったが、こんなこと、 大人のすることじゃない。
 今から編集部へ戻ろうか? 太田は面食らうかもしれないが、それでも何かあったんだな、と思ってくれるだろう……。
 しかし、結局希代子は動かなかった。 ——どこか、そのホテルを見ていられる場所があれば、と思ったが、そう都合良くドラマのようにはいかない。
 それに、大体が細いくねくねと入りくんだ道の両側に、同様のホテルが固まっているのだ。ホテルを出てから、どっちの道へ出るかも分らない。
 仕方ない。 ——少し離れた場所で、置いてあるのか捨ててあるのかよく分らない鉢植えのそばに、希代子は立っていた。
 今、奈保と水浜があのホテルに入っている。
 奈保が学校を出るのを、希代子は待っていて、後をつけて来たのだ。尾行? そんな風に呼ぶのは何だかいやだった。自分がひどく 惨《みじ》めな気がして。
 そう。 ——ただ、奈保を見守っているだけだ。心配だから、離れて見ているだけ……。決して、決して嫉《しつ》妬《と》ではない。そんなものじゃない。私は大人で、あの子は子供なんだから。
 水浜と奈保は、待ち合せた場所で会うと、お茶の一杯を飲むでもなく、真直ぐにここへやって来た。迷いもためらいもなしに。
 それを責められる身ではない。分っていても、希代子の中には血をにじませるような痛みがあった。
 二人は、もう何度もここへ来ている。慣れていて、そこを選ぶのも決っているのだ。一度や二度でないことは、二人の様子で分る。
 希代子は笑いたい気分だった。奈保が「落ちついて」思えたのは、こうして定期的に水浜と会っていたからだった!
 考えてみれば分りそうなものだったが、しかし、あえて考えようともしていなかったのである。
 日が当ると、少し肌に暑く感じるくらいで、希代子は日かげを捜したが、手近な所には見当らなかった。
 猫にでもなれたら、どこかその辺の隅の日かげで丸くなっていても、誰も目を止めないのに……。
 人通りは、決して少なくなかった。
 みんながみんな、ホテルを捜しているわけではなかったろうが、しかし半分以上はカップルで、二つ三つのホテルを 覗《のぞ》いてから、そのどれかに入って行くとか、初めからこ《ヽ》こ《ヽ》と決めてあって、足早に入って行くとか——。
 明るい太陽の下では、その姿はいかにも屈託がなく、少しも暗さは感じられなかった。
 希代子は、こんな明るい時間に水浜とホテルへ入ることはそうなかったが、それでもたまにそうしたときにはあんな風に見えたのだろうか、と思った。
 一人で立っているのは、辛かった。通って行く男女は、希代子のことなど目も向けない。何の関心もないのだろう。もちろんそうだ。
 これから愛し合おうという恋人たちにとって、他人の痛みなんか、知ったことではない……。
 腕時計を、ほとんど五分おきに見ていた。電話ボックスへ行って、大して急ぎでもない電話を何本もかけ、やっと一時間半ほどが過ぎた。
  ——奈保が先に出て来た。たぶん、二人で別々に歩いて行くのだろう。
 だが、そうではなかった。すぐに水浜も出て来て、二人は一緒に歩き出した。腕さえ組んで。
 二人の後ろ姿を見送って、希代子は立ち尽くしていた。
 駆け寄って、 叱《しか》ってやるか。それとも——。
 それとも?
「私の彼を盗らないで!」
 とでも言ってやるか?
 とんでもない! 盗ったのは自分の方ではないか。
 そう。奈保には、堂々と水浜の腕をとって歩く権利があるのだ。
 そう考えると、希代子は軽くめまいさえ覚えた。 ——水浜と奈保が並んで歩く姿は、自分が一緒にいるのよりもずっと自然に見えるだろうと思ったのである。
 二人の後をついて行く気にもなれず、希代子はしばらく待ってから歩き出した。
 どうしても同じ方向へ行くことになるのだが、追いついてしまう心配はないだろう……。
 だが ——。曲りくねった道を辿《たど》って、希代子は足を止めた。
 二人が ——水浜と奈保が立ち止っている。
 希代子を待っていたわけではなかった。
 二人の背中越しに、希代子は見知った顔を見付けた。 ——白石だ。
「分ったか」
 と、白石は冷笑していた。「ちゃんと見てるんだぜ、俺は。な、色男。女二人、手玉にとっていい気分だろ?」
 希代子は青ざめた。 ——白石は、希代子と水浜のことも知っているのだ。
「放っといて下さい」
 と、水浜は言った。「あなたの知ったことじゃないでしょ」
「おお、放っといてやるとも。お前はその小娘といい女と、うまく使い分けて楽しみゃいい。邪魔はしないさ」
 と、白石が笑った。
 希代子は、出て行こうとしてためらった。今自分が出て行っても、これ以上 悪《ヽ》く《ヽ》なることはないと分っていたが、二人を「見張って」いたと知られるのは、辛かった。
 すると、奈保の方が口を開いたのだ。
「消えてよ」
 と、少しも 怯《おび》えた様子もなく、「この人を殴ったんだからね、いつか。警察へ届けてやってもいいんだから」
「気の強い奴だな」
 と、白石は愉快そうに、「そういう女が好みか、お前? 希代子もよく似てたぜ、若いころにゃ」
「行こう」
 と、水浜が促して、「こんな奴、放っとこう」
「うん」
 二人が歩き出すと、白石が前をふさぐ。希代子は心配になって、出て行かざるを得なくなった。何をするか分らないのだ。
「もう充分でしょ」
 と声をかけると、白石が目をパチクリさせた。
「 ——いたのか」
 奈保と水浜は、希代子を見ても何も言わなかった。
「用があるのは私でしょ。この子たちとは関係ないわ」
「ああ……。俺にはお前のことが ——」
「希代子さん」
 と、奈保が言った。「行こうよ、一緒に」
 白石は、チラッと奈保たちの方を見た。 ——どういう気分だったのか、ちょっと肩を揺すって、
「今度は電話に出ろよ」
 と希代子の方へ言い捨てると、足早に歩き去った。
 希代子は、何ごともなかったことでホッとしていたが、残った三人にとっては「何ごともない」ではすまないことも分っていた。
「 ——今、こんな所で話もできないわ」
 と、希代子は言った。「仕事があるの。またね」
 小走りに、広い通りへと、二人のわきをすり抜け、靴をカタカタ鳴らしながら駆け出して行く。
 二人とも何も言わず、黙って見送っていた。
 三人三様に、言いたいこと、言わなくてはならないこと、そして聞かなくてはならないことを、抱いていたのだ。
 タクシーを止め、自分のマンションへと向いながら、希代子は冷房の入ったタクシーの中、額の冷たい感触で、初めて自分が汗をかいていたことを知ったのだった。
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