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過熟の実32

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:32 傷「デスク、電話です」 と、太田が言った。「はい。どこから?」「津山さんです」 津山。 叔母か奈保か。「もしもし」 
(单词翻译:双击或拖选)
 32 傷
 
「デスク、電話です」
 と、太田が言った。
「はい。どこから?」
「津山さんです」
 津山。 ——叔母か奈保か。
「もしもし」
 と、希代子は言った。「篠原です」
「やあ、この前は」
 津山隆一だった。
「あ……。どうも」
 と、希代子は少し声を小さくして、「ごめんなさい。忙しいの。急ぐの?」
「忙しいのは分ってる」
 と、津山隆一は言った。「簡単に言うよ、面白い話じゃないが。 ——白石が会いたいと言って来てね」
 希代子は座り直した。
「叔父さんに?」
「金を出してくれと言うんだ。こっちも、君の知っての通り、大変でね。とてもそんな余裕はない」
「だったら、そう言ってやれば?」
「言ったよ。それに、どうせ子供のこともばれてる」
「それで?」
「ともかく会いたいの一点張りでね。来なきゃ家へ押しかけてくると言うんだ。やりかねないからな」
「そう……」
 希代子としても、白石のこととなると知らん顔をしてはいられない。
「で、結局、今日会うことにした。君、一緒に会ってくれないか」
「私?」
 もちろん会いたくはない。しかし、自分は関係ない、と言って澄ましてもいられない立場である。特に水浜のこともある。
「いつ、どこで?」
 と、メモ用紙を手もとに持って来る。
「今夜の七時に、Fホテル。そこに泊ると言ってた」
「Fホテルね。 ——七時はちょっと無理かもしれないわ」
「ああ、少し遅れても、来てくれるのなら話がしやすい」
 と、津山はホッとしている様子。
「できるだけ間に合うように行くわ。外から回るので、予測が立たないの」
「うん、分った。部屋はフロントで 訊《き》いてくれ」
「ええ。それじゃ ——」
 と言いかけて、「叔父さん、どうしたの、彼女の子供のこと?」
「ああ、女房も同情して、認知してあげなさいと言ってくれた」
 叔母はやさしい人である。それに、悪いのは夫の方、という気持なのだろう。
「子供には責任ないんだから」
「分ってる。ま、これでおとなしくするさ」
 と、津山は苦笑いしている様子。
「それがいいと思うわよ。 ——あ、仕事だから、切るわね」
「ああ、忙しいとこ、すまん」
 津山が切って、すぐに希代子は回されて来た電話に出る。
「はい、いつもお世話になっております」
 決ったセリフは、全く別のことを考えていてもスラスラ出てくる。仕事というのは、そんなものだ。
「 ——カズちゃん、これ、OK。進めて」
 と、色校正をポンと投げる。
 太田がパッと受け取ってニヤリと笑った。
 テンポ。 ——仕事は、テンポにうまくのせれば、気持よく運ぶのである。
 忙しさが、日を追って、 溢《あふ》れる川のように増してくる。堤防は決壊寸前ってとこか、と希代子は思った。
「インタビュー記事、どうなってるの!」
「ライターが捕まらないんです」
「ともかく早く入稿しないと! 何とか見付けて!」
 と、希代子は言って、「待って。 ——〈R〉の編集部に訊いてごらんなさい」
「〈R〉でやってました?」
「記事は書いてないけど、 彼女があの編集部にいる」
「へえ! よく知ってますね」
「同じ飲み屋に来てたのよ。電話入れてみて」
 希代子は、席を立って編集部を出た。
 廊下を急いで歩いて行くと、
「篠原君」
 と呼び止められた。
「あ、専務」
 西山である。
「幸子のことでは色々ありがとう」
 と、西山は言った。
「いいえ」
「知ってるかね。どうしてあれが ——」
「もう、そっとしておいてあげた方が」
 と、希代子は言った。「せっかく、子供さんと 会えたんですから」
「 ——うん、そうだな」
 西山は肯いた。「君の言う通りかもしれん」
「失礼します」
 希代子は、走るような勢いで廊下を進んで行った……。
 用をすまして編集部へ戻ると、
「デスク! いましたよ。あのライター! 凄い勘ですね」
「 だてに長くやってない」
 と、希代子は言ってやった。「カズちゃん、きりがついたら、ちょっと」
「つきません」
 と、太田は振り向いて、「ですから、いつでも同じです。 ——何ですか?」
 希代子は、七時にFホテルへ行くことを、簡単に説明した。
「大丈夫ですか?」
「一人じゃないもの。でも、何しろ向うはまともじゃないし。カズちゃんにも迷惑かけてるからね」
「そんなこと、いいんですけど」
「もし ——あんまり帰らないようだったら、Fホテルへ連絡して、部屋を覗《のぞ》いてもらってちょうだい」
「デスク……」
 太田は、ため息をついて、「素直に、『一緒に来て』と言って下さいよ!」
 と言った。
 
 結局、三十分ほど遅れてFホテルに着いたのは、希代子が不意の来客でどうしても出られなかったせいであった。
 フロントでルームナンバーを聞き、太田と二人で急ぐ。
「でも、デスク」
 と、エレベーターの中で太田が言った。「世の中、色んな人間がいますよね」
「急に何?」
「いや、あの白石って男にしても……。まだデスクに 惚《ほ》れてるわけでしょ」
「さあ、それはどうかしら」
 と、希代子は首を振った。
 二人はエレベーターを出た。
「白石のような男はね、自分のことが好きなだけ。だから、一度自分に惚れた女は、ずっと自分のものだと思うの。別れたって平気よ。ただ、自分のプライドが傷つくだけなのよ」
「そうかな……。あ、この部屋ですね」
 太田が足を止め、「僕が前にいますから。デスク、後ろにいて下さい」
「だけど ——」
「いいから」
 チャイムを鳴らして待ったが、返事がない。
「 ——出ちゃったのかしら」
「さあ」
 と、太田がもう一度チャイムを鳴らしたとたん、ドアが開いた。
「希代子……」
「叔父さん。 ——どうしたの!」
 希代子は、津山の右手が真赤になっているのを見て、息を 呑《の》んだ。
「入ってくれ! 大丈夫だ」
 と、津山は首を振って、「白石はいない」
 二人は中へ入り、ドアを閉めた。
「叔父さん……」
「いきなり……切りつけて来た」
 津山は右の腕を押えて、顔をしかめた。
「手当しないと」
 と、太田は言った。「警察へ連絡しましょう」
「いや、待ってくれ」
 と、津山は止めた。「大丈夫だ。大した傷じゃない」
「でも、白石がやって逃げたんでしょ」
「ああ。しかし ——誤って傷つけたということにしてくれ。警察は困る」
 津山はくり返して、「頼む。右の腕のつけねを縛ってくれないか。出血を止める」
「やりましょう」
 太田が、バスルームのタオルを持って来て、一旦津山の上着を脱がし、右腕を縛った。
「 ——すまん」
 と、息をついて、「病院へは自分で行く。大丈夫だ」
「叔父さん……」
「な、こんなことが警察 沙《ざ》汰《た》になったら、会社に知れる。うまくないんだ」
「そりゃ分るけど……」
「会社を辞めたら、奈保も 可哀《かわい》そうだし、もう一方の子供の面倒もみてやれなくなる」
 と、津山は早口に言った。「な、分ってくれ」
 切られてけがをした本人がそう言っているのだから、希代子としても無視して行動するわけにいかない。
「ともかく病院までは行くわ」
 と、促して、「カズちゃん、付合ってくれる?」
「ええ、もちろん。 ——でも、白石は戻って来ますかね」
「ここには戻らんだろう」
 と、津山は言った。「手間かけて、すまない」
「何があったの?」
「何も。ただ、金を出してくれという白石の頼みを断った。それでカッとなったらしい。いや、例の子供のことがまだ知れてないと思ってたのに、 あてが外れたんでカッと来たんだろう」
「気を付けて。 ——痛む?」
「大丈夫……。痛くないとは言わないがね」
 と、津山は少し情ない笑顔を作って見せた。
「 ——でも、警察へ届けないとまずいんじゃないですか」
 と、エレベーターの中で、太田が言った。「本人はやけになってるかもしれないし。他の誰かを傷つけでもしたら……」
 確かに太田の言う通りである。しかし、津山としては、ことが表沙汰になるのは何としても避けたいだろう。
「カズちゃん、ごめん。私に任せてくれる?」
「いいですけど……。デスクが一番危いんですよ」
「分ってるわ」
 希代子は、心配していた。むろん。 ——水浜のことを、である。
 今の希代子を傷つけるには(心を、ということだが)、水浜を 狙《ねら》うのが一番いいということを、白石はよく分っている。
「カズちゃん、この人をお願い。私、ちょっと行きたい所があるの」
 太田も察したらしい。
「分りました。こっちは任せて下さい」
 と肯いたのだった……。
 
〈楽屋口〉と書かれたドアから、ゾロゾロと楽器を手にした若者たちが出てくる。
 希代子は首をのばして、その中に水浜の姿を捜した。 ——夜といっても、その辺りは明るく、一応何とか見分けられる。
 今夜は大学のオーケストラの演奏会。大学へ問い合せてそうと知った希代子は、何とかコンサートの終る前にここへやって来た。
 そして、ちょうど〈楽屋口〉を見られるスナックへ入って、じっと出てくるのを待っていたのである。
「あ……」
 水浜の姿が見えた。
 希代子は、急いで席を立とうとしたが ——。何と水浜が、他の数人の子たちと一緒にこっちへやって来たのである。
 またあわてて座る。どう見ても、この店に来るのだ。
「 ——いらっしゃいませ」
 ドアの開く音。がやがやと入って来た数人は、空いたテーブルを二つくっつけて作った席に落ちついた。
 希代子は、ちょうどそのテーブルへ背中を向けている格好だったが、チラッと振り向いてみると、水浜も希代子の方へ半ば背を向けている。
 どうしよう? 希代子は迷った。
 しかし、ここにいる間は安全だし、出ればみんな別れ別れになるのだろうから……。
「ジンフィズ」
 と、水浜の声が聞こえて来た。「くたびれたよな」
「もう手が上んないよ」
 と、苦情が出る。
「テンポ、コロコロ変るんだもん、リハーサルのときと」
「ねえ」
 男の子が三人と女の子二人。 ——みんな弦楽器のメンバーらしい。
「アンコールまでに、もうちょっと間がほしいわ」
「言っとくよ」
 と、水浜が言った。
 飲物が来て、乾杯している。 ——希代子は、その笑い声の勢い、その若々しさに感動した。いや、圧倒されたと言う方が近いかもしれない。
「 ——今日の指揮のT先生。めぐみとこの間デートしたって」
 と、女の子の一人が言い出した。
「え? 本当? 趣味悪いのね」
「どっちが?」
 ワッと笑いが起って、
「指揮者っていいよなあ。何もひかなくていいし」
「怒鳴ってりゃいいんだもんね」
「そのくせ、もてる、か」
  ——誰しも、指揮者がそんなに気楽な立場でないことは分っているのである。しかし話の種としては、格好の素材でもある。
「でも、指揮者って、いやだな」
 と、女の子の一人が言った。「恋人にしたらさ、何でも自分の言う通りにさせようってタイプなんじゃない?」
「それは単純でしょ」
「悪かったわね、単純で」
「何でも、か? ベッドにいるときも指揮してるのかな」
「ワルツのテンポで、とか?」
 女の子の 甲《かん》高《だか》い笑い声。
「コンマスだってもてるさ。なあ、水浜」
「ちっとも」
 と、水浜はあんまり関心のなさそうな声を出した。
「ちっとも、ってことないだろ」
 と、他の男の子がからかって、「聞いたぜ。この前、事務所の陽子さんと泊ったんだって?」
「よせよ」
「へえ! ——だって、水浜さん、他にいたんじゃないの?」
「いたって構わないのさ、こいつは。何人だって同時進行だもん。そうだろ」
「気軽に言うなよ」
 と、水浜は言い返した。
「陽子さんかあ……。意外な取り合せ」
 女の子の一人は、どうやら水浜に惚れているという雰囲気。
「この間の人、どうしたの?」
 と、女の子が訊く。
「年上の女か。 ——何しろ、七つ八つも年上のと、高校生と両方だもん、水浜も忙しいよな。それに加えて、陽子さん、と」
「よせって。 ——陽子さんとは一回きりだ」
 と、水浜は言った。「遊びって割り切ってたんだ」
「遊びで割り切っても、割り切れないことの方が多いじゃないの。水浜君って凄い」
「ベテランさ」
 と、からかう一人。「その二十八……だっけ? キャリアウーマンの彼女から恋の手ほどきを受けてんだろ? 楽しそうだよな、畜生!」
「編集者だっけ? 私、雇ってくれないかなあ。何でもするのに」
 と、女の子の一人が言って、「その人とも 遊び?」
 と訊く。
「さあ……。どうかな。少なくとも向うは違うと思うよ」
「真剣か。でも、困るんじゃないの、その内」
「かもね。だけど、今さらいやだとも言えないさ」
「高校生の子は?」
「もうよそう」
 と、水浜は言った。「先に帰るよ、まだみんないるのなら」
「分った。陽子さんとデート」
 水浜は、答えずに苦笑いしているだけだった。
  ——二十八……。遊び。
 希代子は、じっと座っていた。
 水浜が散々冷やかされながらレジへ行き、自分の分だけを精算しているのがガラスに映って分った。
 しかし、ここで声をかけるわけにはいかなかった。いや、かけたくなかった。
 今、水浜に見られるのは辛かった。たぶん、そうと知ったら水浜の方も困るだろう。
「 彼女によろしくな!」
 と、席に残った男の子が、出て行く水浜に声をかける。
「どの 彼女?」
「畜生、一人回せって」
「文句言ってるような人の所には、女は寄って来ないのよ」
 と、女の子が言って、「ね、ビールもう一本」
  ——希代子は、ゆっくりと立ち上って、レジの方へ行った。
 もう水浜には追いつけないかもしれない。
 でも ——希代子は、店にいて、それ以上自分の話が出るのに堪えられなかった。
 外へ出ると、少し風が強くなっていた……。
 
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