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過熟の実33

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:33 三 人「ともかく、何とか間に合せて!」 希代子の声が編集部に響き渡って、一瞬、みんな仕事の手を止めてしまった。 言う
(单词翻译:双击或拖选)
 33 三 人
 
「ともかく、何とか間に合せて!」
 希代子の声が編集部に響き渡って、一瞬、みんな仕事の手を止めてしまった。
 言うと同時に、「しまった」という気持になる。怒鳴ったところで、できないものはできないのだ。
「夕方の五時がデッドライン。いいわね?」
 そう言って、パッと電話を切る。
 電話の向うでは、さぞかし、
「勝手ばっかり言いやがって! あの女!」
 と悪口を言っているだろう。
 それでいいのだ。聞こえない所でなら、いくらでも悪口を言っていい。仕事というのはそんなものだ。
 仕事をしていて、誰からも好かれるなんてことは、しょせん無理なのである。
「 ——デスク」
 と、太田が振り向いて、「ちょっと打ち合せに出たいんですが、いいですか。三十分で戻ります」
 本当なら、それどころじゃない。後にして、と言うところだが……。
「いいわよ。行先、残しといて」
「はい」
 太田も、きっと必ずしも今でなくていいのだろう。ただ、外出の許可を出すことで、希代子が自分のいつものペースを取り戻すと分っているのだ。
「 ——篠原君。大丈夫か」
 と、久保田はストレートに 訊《き》いてくる。「疲れてるんじゃないか?」
 間で太田と話していなければ、久保田に、
「疲れてるに決ってるじゃないですか!」
 と食ってかかっていたろう。
 疲れてたら休みでもくれるんですか、と。 ——しかし、希代子はもう自分を取り戻していた。
「何とか校了まではもたせます」
 と言って、「その後、編集長のワラ人形に五寸 釘《くぎ》を打ち込みます」
「おいおい」
 久保田は苦笑しているが、同時にホッとしているのが分る。実際、希代子が「切れて」しまったら、収拾がつかなくなる。
「 ——デスク、お電話です」
 と、ていねいに「お」をつけるのはまだ新人の女の子。
「はい。 ——もしもし」
 これだけ忙しいと、当然仕事の電話だと思ってしまう。他の世界の出来事など、入りこむ余地がないのである。
「もしもし?」
 と呼んで、初めて〈もしかして白石?〉と思った。
 結局、水浜とも会わずに帰ったのがおとといの夜だ。昨日は、奈保の所へも行かなかった。
「私……」
 と、奈保の声。
「何だ。誰かと思った」
 希代子は座り直した。「昨日はごめんね。忙しくって、今 ——」
「写真が来たの」
 と、奈保が言った。
「え?」
「あの人……白石っていったっけ。たぶん、あの人よ。私と……彼の写真を、うちへ送って来たの」
 希代子は、机の上の校正刷に目を落とした。手が赤字を入れている。
「で……お母さんが見て……」
「今、どこ?」
「家よ。 ——今、彼に連絡したとこ」
「水浜さんに?」
「こっちへ来るわ。お母さんに言われたら……来ないわけにいかないでしょ」
 希代子は、来るべきものが来たと知った。 ——奈保と男の子のことは自分に任せてくれと叔母に言った手前、責任は自分にある。
「私も行くわ」
 と、希代子は言った。「たぶん ——三十分したら出られると思う」
「希代子さん」
 と、奈保は言った。「それだけじゃないの」
「まだ何かあるの?」
「写真……。それだけじゃないの」
 聞かなくても分った。 ——白石は、希代子と水浜の写真をとっていたのだ。
「ともかく、行くわ」
 希代子は、腕時計に目をやった。「どうなっても、逃げるわけにはいかないから」
「 ——待ってる」
 と奈保は言って、「ごめんなさい、希代子さん」
 電話が切れて、希代子は何秒間か受話器を戻さなかった。
 奈保は、何を謝ったのだろう? ——希代子には、答えられなかったが、同時に、自分が奈保の立場だったら、やはり謝っていたような気がしていた。
 しかし、叔母に対して何と説明しよう?
 もう 嘘《うそ》をついているときではない。奈保も、もう知っているのだ。それだけが、希代子にしてみれば救いだった。
 三十分、と言ったのは出まかせである。今の状況なら、三十分も三時間も同じだ。
 しかし、ともかく 一《いつ》旦《たん》はここを出て、津山家へ行かなくてはならない。
 希代子は一心に手もとの校正刷を見ていた。これを戻して、それから対談のテープ起しを見て、ページにうまく納まるように削って……。それだけで、二時間はかかる。
「 ——篠原君」
 いつの間にか久保田がそばに来ていて、びっくりした。
「何か?」
「出かけて来い」
「え?」
「それ、 俺《おれ》がやっとく。大丈夫だ。俺だって、一応は編集長だ。誰かに訊きながら、やるさ」
「でも ——」
 と言いかけて、希代子はフッと息をついた。
「すみません。お願いします。できるだけ早く戻ります。この赤字、戻しがあと三十分ですから。それとこの対談の原稿、四ページに削っといて下さい」
「四ページ?」
「カズちゃんに訊いて下さい。字数でやって行けばいいんです」
「分った。勉強するよ」
「ちゃんとやって下さいね」
 ありがたいと思いつつ、ついそう言ってしまう自分が、少し情なかった。
 
「 ——どうも」
 タクシーを降りて、おつりを受け取ると、希代子は、津山家の門の前で一旦足を止めた。
 叔母から何と言われても仕方ない立場である。 ——忙しくて疲れていても、こればかりは人に任せて逃げるというわけにはいかないのだ。
 希代子は、津山家の玄関へ歩いて行こうとして……。ふと人の気配を感じた。
 振り向いて、周囲を見回したが、もう暗くなっているせいもあって、誰も見えない。 ——気のせいだろうか?
 玄関のドアの方に向いて、チャイムを鳴らしかけたとき、
「希代子さん」
 と、呼ばれて振り返った。
「 ——今、来たの?」
 と、希代子は水浜に訊いた。
「ええ。タクシーから降りるのが見えて……。走って来ました」
 水浜は、実際少し息を切らしていた。
 希代子は、何とか 微笑《ほほえ》んで見せた。
「ともかく……奈保ちゃんのことを第一に考えなきゃ」
「ええ……」
 水浜は目を伏せて、「僕が悪いんです。 ——奈保ちゃんとのことも、希代子さんとのことも」
 それに、もう一人の「遊び相手」は? 希代子は、そうは訊かなかった。
 水浜に、自分にだけ誠実であってくれと要求するのが無理なことだったのだ。
 今、玄関の明りの下で見ると、水浜が、急に子供のように見えてドキッとした。
 ずっと、私は対等な恋の相手だと思っていた。それなのに……。私が恋していたのは、こんな男の子だったのか。
「やめて」
 と、希代子は首を振って、「私は大人で、あなたは学生よ。あなたのせいにして逃げるなんてこと、できないわ」
 そう。 ——当然のことだ。
 水浜が友人たちに、「二十八の女と付合ってるんだ」としゃべったとしても、それを 咎《とが》めることはできない。水浜にとって、希代子は「珍しい体験」の相手だった。それは当然の受け止め方だ。
「僕らのことも ——」
「ええ。すべて分ってるらしいから。もう今さら隠すこともないわけね」
「そうですね」
「話は私がするから。 ——任せて」
 水浜は何も言わなかった。
 希代子は玄関のチャイムを鳴らした。
 しばらく、何の応答もなかった。 ——いやに長い気がしたのは、希代子の気のせいだったろうか。
「はい」
 叔母の声がした。
「希代子です」
「あ、待ってね。すぐ行くわ」
 叔母の口調は、いつもの通りに聞こえた。あまり感情的に激することのない人である。それだけに、希代子としては顔を合せるのが 辛《つら》い。
 カチャリと音がして、玄関のドアが開いた。
「忙しいのに……。ごめんなさい」
 と、静子は言って、水浜に気付いた。
「今 ——ここで一緒になって」
 と、希代子が言うと、
「そう。 ——じゃ、どうぞ」
 と、静子はさすがに水浜から目をそらしている。
 希代子は、玄関へ入ろうとして、男ものの靴がいくつも並んでいるのを見て当惑した。
「お客様?」
 と訊くと、
「うちの人のことで。けがしてたでしょ」
「ええ」
「警察の人がみえてるの。ホテルから届が出たらしくて」
 静子の顔が、初めて 歪《ゆが》んだ。「見っともない! 警察沙《ざ》汰《た》なんて」
 それは、めったに聞くことのない、叔母の本音の腹立たしさだった。
「ともかく、上って」
「ええ……」
 希代子が玄関へ入ると、奈保が出て来た。
「奈保ちゃん、自分の部屋で待ってなさい」
 と、静子が言ったが、奈保の目は水浜の方を見ている。
「やあ」
 と、まだ表に立っている水浜が 肯《うなず》いた。
「やあ」
 と、奈保が精一杯微笑んで見せる。
「じゃ、失礼して ——」
 希代子がスリッパを 揃《そろ》え、靴を脱いで上ると、奈保が、突然、
「え?」
 と、声を上げるのが耳に入った。
「どうしたの?」
 希代子は奈保の視線を追って、水浜の方を振り返った。
 水浜が、半ば振り向こうと身体をねじって、
「こいつ!」
 と、叫ぶように言った。
  ——白石が立っていた。
 希代子はそのとき、さっき感じた気配が白石のものだったと知った。どうして分らなかったのだろう!
「俺の女だ」
 と、白石は言った。「希代子は俺の女だ」
 コトンと音がして、玄関の前のみかげ石の上にナイフが落ちた。
「水浜君!」
 希代子は駆け寄った。水浜が苦痛に顔を歪めて、玄関の内側へよろけて来る。
 血がナイフについているのに、希代子は気付いていた。
「どこ? どこを ——」
「背中が……」
 奈保が悲鳴を上げた。
「いや! ——いやよ!」
 と、飛び下りて来る。
「叔母さん! 救急車を!」
 立ち上った希代子は、水浜を支えた右手に血がついているのに気付いた。
「 ——どうした!」
 津山が出て来た。
 津山に続いて、がっしりした体つきの男が二人出てきた。刑事だろう、と希代子は思った。
「刺されたんです! その人が ——」
 希代子は玄関の開いたドアから、白石がよろけるように歩いて行く後ろ姿を見た。
「分りました」
 と、刑事らしい男たちの一人が素早く外へ出て行き、「おい! ナイフだ!」
 と、もう一人の方へ声をかけた。
「叔母さん ——」
 と振り返って、希代子は静子が、まだ上り口にぼんやりと立っているのに気付いた。「叔母さん! 救急車を呼んで」
「あ。 ——ええ、そうね」
 静子が居間へ入って行く。
「大丈夫かな、あいつ」
 津山が、その後からついて行った。本当に妻のことを心配もしたのだろうが、この場にいたくなかったのかもしれない。
「死なないで!」
 奈保が、水浜の体を自分の 膝《ひざ》で支えながら、ぎこちなく両腕に彼の頭を抱いていた。
「奈保ちゃん ——」
 と、希代子は言いかけたが、サッと自分を見上げた奈保の視線に、体が止った。
「触らないで」
 と、奈保は言った。「放っといて。 あんたのせいで、こんなことになったんだからね。もうこの人に構わないで」
 叫んでいたわけではなかった。怒鳴られたのなら、まだ楽だったろう。
 そうではなかった。奈保は、「大人の女」として「大人の女」に言ったのだった。
 希代子は体を起し、玄関から外へ出た。
 白石が二人の刑事に両腕を取られて、何かブツブツ言いながら連れ戻されて来るところだった。
「 ——大丈夫ですか」
 と、刑事が希代子に言った。
「その人を……」
「ちゃんと捕まえています。すぐパトカーも来させますから」
「はい……」
 希代子は、白石がもう自分のことを見ようともしないのに気付いた。白石の目は、ただ 虚《うつ》ろに宙を見ているばかりだった……。
 
 体を揺られて、希代子はハッと目を覚ました。
「叔母さん?」
  ——静子が自分の方を覗《のぞ》き込んでいる。
 一瞬、自分がどこにいるのか分らなくなった。
「ここ……会社よね」
 と、薄暗い部屋の中を見回す。
 そうだ。会議室の一つに、ソファを持ち込んで仮眠していたのだった。
「起こしてごめんなさい」
 と、静子は言った。「編集部の太田さんって方に訊いて」
「カズちゃんか……。いいのよ、もう起きないと」
 体を丸めて眠っていたせいで、腰や背中が痛い。「 ——今、何時?」
「そろそろ三時」
「三時? ——夜の?」
「午後よ」
「そうか……」
 希代子は、ソファに座り直して、深呼吸した。そして、ふっと ——。
「叔母さん」
「知りたいだろうと思って」
 と、静子は言った。「あの水浜って人、命には別状ないって」
「 ——そう」
 たぶん、そうだろうと……。傷の位置から見当はついていたが、やはりそう聞くと安心する。
「奈保が、そばにくっついて離れないの。主人もお説教できる身じゃないし」
 と、静子は苦笑した。「ゆっくり話すわ。あの人のお母様も出てみえるそうだし。学校まで休んでそばにいさせるわけにいかないわ」
「叔母さん。私のせいなの。ごめんなさい」
 と、希代子は言った。「白石のことまで……。まさかあんなことになるなんて」
 奈保と水浜のこと、そして水浜を白石が刺してしまったこと。 ——もとはと言えばすべて希代子が原因を作ったようなものである。
「希代ちゃん。 ——謝らなくてもいいわ」
 と静子は言った。「あなたは疲れすぎてる。今は何も考えないで。あなたは大人なんだから、したいようにしていいのよ」
「叔母さん ——」
 と言いかけたとき、会議室のドアが開いて、太田が顔を出した。
「すみません、デスク」
「いいわよ。何?」
「印刷所から、カラーページのことで」
「分った。すぐ行くわ」
 希代子は、立ち上ると、「叔母さん。もう心配かけないようにするわ。ただ ——奈保ちゃんのことは、もう私には手伝えない。悪いけど。よく話し合って」
「ええ、そうするわ」
 希代子は、会議室を出ようとして、「 ——叔母さん」
 と、振り向いた。
「え?」
「水浜君って、いい子よ。ちゃんと話せば、分ってくれる」
 静子も肯いて、
「そうだといいと思うわ」
 と言った。
 希代子は、急いで編集部へ戻ると、自分の机の電話を取った。
「 ——あ、もしもし。ごめんなさい。——ええ、会議室で居眠りしてたの。——え? そうね。とても人には見せられたもんじゃないわよ」
 印刷所のなじみの営業マンと話している内、ボーッとしていた頭も、少しずつはっきりして来た。
 電話しながら編集部の中を見渡すと、女の子が二人、自分の机に突っ伏して眠ってしまっている。あの二人も、ゆうべは家に帰っていないのだろう。
  ——よくやってるわ。
 希代子は、小さく首を振って思った。
 ともかく、みんな必死でやっているのだ。誰もが恋をしたり、家族の中に問題を抱えたりしながら、それでも机の上で眠って、頑張っている。
 私が失ったのは何だろう? ——そもそも真《ま》面《じ》目《め》に相手にしてくれないのが当り前の若い恋人一人。
 そう。 ——私は、元に戻っただけだ。
 それだけなのだ……。
 電話を切ると、
「カズちゃん! 進行表見せて!」
 と呼びかける。
 その声で、居眠りしていた女の子が一人目を覚まし、
「もうご飯?」
 と、寝ぼけた声を出したので、次の瞬間、編集部は爆笑の渦に包まれたのだった。
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