顧みれば『食物ことわざ事典』がポケット文春の一冊として呱々《ここ》の声を上げたのは、今から一七年前の昭和四十四年の春でした。それから九年後の昭和五十三年のこれまた春に、粧いも新たに文春文庫に収められ、再刊されました。ちょうど日本文化見直し気運が生まれつつある時代だったせいか、ことわざ関係の本がいろいろ出版され、また、テレビのクイズ番組流行も手伝ってか、この種の本が歓迎され、拙著も、幸い好評のうちに、毎年版を重ねることができました。
物書きにとって、処女作はその後の著述のだいたいの方向を決めるもののようで、以後、折に触れ、食物ことわざ関連の原稿依頼が相継ぐようになり、本書の土台となったのも、『味の味』・『淡交』・『ベターホーム』(いずれも月刊誌)に連載されたものです。将来、本にまとめる心づもりで、これらの連載原稿は『食物ことわざ事典』に収載されたことわざは避け、極力ダブらないように努めました。本書にまとめるに際し、新たに若干の項目を書き下ろし、文体や用語を統一し、いささか補筆したものもあります。ただ、ことわざの性質上、同じことわざが重複するのはさけられませんでした。
前掲連載誌の編集担当の方々をはじめ、一冊にまとめてくださった阿部達児出版部長(文春文庫)、前著同様装幀のお力添えを得た丹阿弥丹波子さん、挿画を描いてくださった小川正明さん、以上のみなさんの心からなるご協力がなかったら、『食物ことわざ事典』の続編とも言うべき本書は、公刊される運びにならなかったでしょう。末尾ながら、ここに衷心より御礼の言葉を述べさせて頂きます。ありがとうございました。