アワビの貝は片方ばかりのように見えるところから、アワビはもどかしい片思いの代表にされています。アワビの貝殻は皿のような形をしているので、ハマグリなどのように二枚貝の片側のように見えますが、実はサザエなどと同じ巻貝《まきがい》の仲間ですから、一枚の殻からできているのはいたし方ありません。卵からかえったばかりのころは、ほかの巻貝と同じように、巻いた殻をもっていますが、大きくなるにしたがって殻の口がひろがり、お皿のような形に変化します。アワビの種類にはマダカ・メガイ・オガイなどがあります。
わが国のほとんどいたるところに棲《す》んでいますが、特に多く産するのは、東海地方および青森・岩手県などです。アワビは水深約五〇メートル以内の浅い場所で、水が澄み、潮の流れのよいところに居を定め、内湾や内海にはあまりおりません。ほかの貝類は、冬から春にかけてがしゅんなのに、アワビは産卵期が十一月ごろなので、産卵前の夏がしゅんです。アワビといえば海女《あま》がつきもので、石川県輪島の舳倉島《へくらじま》や鳥羽市|国崎《くにざき》、房州白浜の海女が有名です。その獲《と》り方については『日本山海名産図会《にほんさんかいめいさんずえ》』という江戸期の本に、詳しく記されていますが、現在もこれとほとんど変わりない方法でアワビを獲っています。ご参考までに紹介しますと、
「鮑《あわび》を取るには必ず女海人《おんなあま》を以てす。是れ女は能く久しく呼吸を止《や》めてたもてるが故《ゆえ》なり。船にて沖ふかく出るにかならず親属《しんぞく》を具《ぐ》して船をやらせ縄を引《ひか》せなどす、海に入るには腰に小き蒲簀《かます》を附て鮑三四つを納れ、又大なるを得ては二つ許《ばかり》にしても泛《うか》めり、浅き所にては竿を入るるに附て泛む、是を友竿《ともさお》といふ。深き所にては腰に縄を附て泛んとする時是を動し示せば船より引あぐるなり。若き者は五尋《いつひろ》丗以上は十尋《とひろ》十五尋を際限《かぎり》とす。皆|逆《さかさま》に入りて立游《たちおよ》ぎし海底の岩に着《つき》たるをおこし篦《へら》をもって不意に乗じてはなち取り蒲簀《かます》に納《おさ》む。その間|息《いき》をとどむること暫時《ざんじ》、もっとも朝な夕なに馴《なれ》たるわざなりとはいへども、出《いで》て息を吹くに其声遠く|ひびき《ヽヽヽ》聞えてまことに悲《かな》し」
日本でアワビを食用とした歴史はずっとむかしに遡《さかのぼ》ります。伝説によれば秦の始皇帝の命を受けてはるばる蓬莱《ほうらい》の島——日本に、不老不死の仙薬《せんやく》をさがしにきた徐福《じよふく》が、ついに見つけ出したのがアワビだったと言われます。古くは朝廷の貢物にしたり、お祝いの食べものとして用いられ、室町時代になると、アワビの肉をたたいて、薄くのし、干物にしたものを末広に切って幾枚も重ねて添えました。それが「熨斗《のし》」の起こりであるとされています。現在は贈答品の包み紙の上に熨斗アワビを添えますが、食料品を贈る際には重複を避け添えないのが約束です。
アワビは生《なま》のまま、薄く切って刺身にするとおいしいものですが、新鮮なものでしたら、厚さ二センチぐらいに横に切り、時を移さず金網にのせ、両面を強火で手早く焼き、中心部はまだ生だと思えるぐらいの焼きかげんで器に移し、両面に塩を軽くふって、|ゆず《ヽヽ》か|すだち《ヽヽヽ》のしぼり汁を少量|滴《た》らして食べると、仙薬も|さこそ《ヽヽヽ》と思わせるうまさです。
わが国のほとんどいたるところに棲《す》んでいますが、特に多く産するのは、東海地方および青森・岩手県などです。アワビは水深約五〇メートル以内の浅い場所で、水が澄み、潮の流れのよいところに居を定め、内湾や内海にはあまりおりません。ほかの貝類は、冬から春にかけてがしゅんなのに、アワビは産卵期が十一月ごろなので、産卵前の夏がしゅんです。アワビといえば海女《あま》がつきもので、石川県輪島の舳倉島《へくらじま》や鳥羽市|国崎《くにざき》、房州白浜の海女が有名です。その獲《と》り方については『日本山海名産図会《にほんさんかいめいさんずえ》』という江戸期の本に、詳しく記されていますが、現在もこれとほとんど変わりない方法でアワビを獲っています。ご参考までに紹介しますと、
「鮑《あわび》を取るには必ず女海人《おんなあま》を以てす。是れ女は能く久しく呼吸を止《や》めてたもてるが故《ゆえ》なり。船にて沖ふかく出るにかならず親属《しんぞく》を具《ぐ》して船をやらせ縄を引《ひか》せなどす、海に入るには腰に小き蒲簀《かます》を附て鮑三四つを納れ、又大なるを得ては二つ許《ばかり》にしても泛《うか》めり、浅き所にては竿を入るるに附て泛む、是を友竿《ともさお》といふ。深き所にては腰に縄を附て泛んとする時是を動し示せば船より引あぐるなり。若き者は五尋《いつひろ》丗以上は十尋《とひろ》十五尋を際限《かぎり》とす。皆|逆《さかさま》に入りて立游《たちおよ》ぎし海底の岩に着《つき》たるをおこし篦《へら》をもって不意に乗じてはなち取り蒲簀《かます》に納《おさ》む。その間|息《いき》をとどむること暫時《ざんじ》、もっとも朝な夕なに馴《なれ》たるわざなりとはいへども、出《いで》て息を吹くに其声遠く|ひびき《ヽヽヽ》聞えてまことに悲《かな》し」
日本でアワビを食用とした歴史はずっとむかしに遡《さかのぼ》ります。伝説によれば秦の始皇帝の命を受けてはるばる蓬莱《ほうらい》の島——日本に、不老不死の仙薬《せんやく》をさがしにきた徐福《じよふく》が、ついに見つけ出したのがアワビだったと言われます。古くは朝廷の貢物にしたり、お祝いの食べものとして用いられ、室町時代になると、アワビの肉をたたいて、薄くのし、干物にしたものを末広に切って幾枚も重ねて添えました。それが「熨斗《のし》」の起こりであるとされています。現在は贈答品の包み紙の上に熨斗アワビを添えますが、食料品を贈る際には重複を避け添えないのが約束です。
アワビは生《なま》のまま、薄く切って刺身にするとおいしいものですが、新鮮なものでしたら、厚さ二センチぐらいに横に切り、時を移さず金網にのせ、両面を強火で手早く焼き、中心部はまだ生だと思えるぐらいの焼きかげんで器に移し、両面に塩を軽くふって、|ゆず《ヽヽ》か|すだち《ヽヽヽ》のしぼり汁を少量|滴《た》らして食べると、仙薬も|さこそ《ヽヽヽ》と思わせるうまさです。