このことわざは、関東の一部に伝わる郷土料理「すむつかり」のことだろうといわれます。藤井乙男博士の『諺語大辞典』には「按ずるに炒豆《いりまめ》の酢交《すまじ》りという意なるべし……、されば煎豆ニ酢ノ交リタルヤウといふ喩《たと》へなるべし」と記されています。
もし「すむつかり」のことだったら、今日、栃木県宇都宮周辺の農家を中心に、埼玉・群馬・千葉の各県の一部に伝わる郷土料理です。漢字で「酢憤」と書きますが、もちろんアテ字で、語源もあきらかではなく、呼び方も土地によって、さまざまです。たとえば——栃木県では「しもつかり」、「しもつかれ」、群馬・埼玉県あたりでは「すみつかり」または、「しみつかり」といったぐあいに。おもにこの料理を作る栃木県では「下野嘉例《しもつけがれい》」のなまったものだ、という言い伝えがありますが、どうもこじつけのように思えます。ただ古い料理であることだけは確かで、平安朝のころ、すでに行なわれていたらしく、栃木あたりでは、農家の稲荷信仰に結びついた行事食の一つとなっていて、初午《はつうま》の日にかぎって食べることになっています。
作り方は、大根、にんじんを粗《あら》い目の|おろし《ヽヽヽ》(俗にガリガリおろしとか、鬼おろしというもので、肉の厚い孟宗竹に、大きくギザギザの歯をつけ六センチほどの長さのもの五、六本を、一センチぐらいの間隔で横にならべたもので、小形梯子状のもの)にかけて、おろします。これに塩ザケの頭や切り身を入れ、炒った大豆の皮を除いたものといっしょに、大きめの鉄釜に入れ、弱火《とろび》で半日から一日ぐらい、時間をかけて煮ます。塩かしょうゆで味つけしますが、煮出し汁や水を使ってはいけません。あくまでも、大根とにんじんのおろし汁で煮るというふうにします。
好みによって、途中で酒粕、油揚げを入れ、さらに煮込んだりします。すむつかりのいちばんの問題点は大根おろしの上手下手で、大根のおろし汁をたいせつに扱うこと、細かくおろしつぶさないことがコツ。粗目のおろしのない場合は、小さく乱切りにして作っても結構です。
ほうろくで炒った大豆は、なるべく枡《ます》の底でおさえて、豆を半分に割り、皮と身を離し、あおいで皮を飛ばし、身だけにして使うと、味がしみて、味わいがいっそう深まります。
材料といい手間といい、別にとりたてていうほどのこともないシチュー式の料理ですが、土地の人たちは、|ぬくもり《ヽヽヽヽ》が残っているうちに食べるより、十分煮てから、釜ごと一晩外の寒気にさらし、歯に凍《し》みるほど冷えきったとき食べたほうが、妙味が味わえるといいます。「しみつかり」という呼び名も、凍みつくほどの冷たさを味わうところからきた——と説く人もあるくらいで、コタツでぬくもりながら一杯やるときの相手にもよく、ひやっと冷たいなかに、野菜の持ち味の甘味や大根のほろ苦さが生きていて、郷土料理のよさをしのばせてくれます。
栄養的にも、大根のジアスターゼ、にんじんのカロチンA、大豆のたんぱく質……とよく整い、混然とした味の出合いを考えた調理法もさすがは年季もの。胸やけを防ぐ効きめもあり、冬のおそうざいとして、もっと日常の食卓に採《と》り入れたい料理です。
もし「すむつかり」のことだったら、今日、栃木県宇都宮周辺の農家を中心に、埼玉・群馬・千葉の各県の一部に伝わる郷土料理です。漢字で「酢憤」と書きますが、もちろんアテ字で、語源もあきらかではなく、呼び方も土地によって、さまざまです。たとえば——栃木県では「しもつかり」、「しもつかれ」、群馬・埼玉県あたりでは「すみつかり」または、「しみつかり」といったぐあいに。おもにこの料理を作る栃木県では「下野嘉例《しもつけがれい》」のなまったものだ、という言い伝えがありますが、どうもこじつけのように思えます。ただ古い料理であることだけは確かで、平安朝のころ、すでに行なわれていたらしく、栃木あたりでは、農家の稲荷信仰に結びついた行事食の一つとなっていて、初午《はつうま》の日にかぎって食べることになっています。
作り方は、大根、にんじんを粗《あら》い目の|おろし《ヽヽヽ》(俗にガリガリおろしとか、鬼おろしというもので、肉の厚い孟宗竹に、大きくギザギザの歯をつけ六センチほどの長さのもの五、六本を、一センチぐらいの間隔で横にならべたもので、小形梯子状のもの)にかけて、おろします。これに塩ザケの頭や切り身を入れ、炒った大豆の皮を除いたものといっしょに、大きめの鉄釜に入れ、弱火《とろび》で半日から一日ぐらい、時間をかけて煮ます。塩かしょうゆで味つけしますが、煮出し汁や水を使ってはいけません。あくまでも、大根とにんじんのおろし汁で煮るというふうにします。
好みによって、途中で酒粕、油揚げを入れ、さらに煮込んだりします。すむつかりのいちばんの問題点は大根おろしの上手下手で、大根のおろし汁をたいせつに扱うこと、細かくおろしつぶさないことがコツ。粗目のおろしのない場合は、小さく乱切りにして作っても結構です。
ほうろくで炒った大豆は、なるべく枡《ます》の底でおさえて、豆を半分に割り、皮と身を離し、あおいで皮を飛ばし、身だけにして使うと、味がしみて、味わいがいっそう深まります。
材料といい手間といい、別にとりたてていうほどのこともないシチュー式の料理ですが、土地の人たちは、|ぬくもり《ヽヽヽヽ》が残っているうちに食べるより、十分煮てから、釜ごと一晩外の寒気にさらし、歯に凍《し》みるほど冷えきったとき食べたほうが、妙味が味わえるといいます。「しみつかり」という呼び名も、凍みつくほどの冷たさを味わうところからきた——と説く人もあるくらいで、コタツでぬくもりながら一杯やるときの相手にもよく、ひやっと冷たいなかに、野菜の持ち味の甘味や大根のほろ苦さが生きていて、郷土料理のよさをしのばせてくれます。
栄養的にも、大根のジアスターゼ、にんじんのカロチンA、大豆のたんぱく質……とよく整い、混然とした味の出合いを考えた調理法もさすがは年季もの。胸やけを防ぐ効きめもあり、冬のおそうざいとして、もっと日常の食卓に採《と》り入れたい料理です。