土用の丑の日にウナギを食べると薬になると言い、どこのウナギ屋も繁昌しますが、この|ならわし《ヽヽヽヽ》はそう古いものではありません。
丑ウナギと言うと、きまって平賀源内と大田南畝(蜀山人)が駆り出されますが、このふたりのうちいずれかが、あまりはやらないウナギ屋の宣伝に一肌ぬいだと伝えられるからです。もしこの言い伝えがほんとうだとすると、今からざっと一九〇年前の安永のころということになります。
丑ウナギの、もう一つ有力な説としては、江戸は神田、和泉橋通りのウナギ屋春木屋善兵衛の話が伝わっています。文政年間(一八一八—三〇)の、ある夏のこと、お出入りの藤堂さまという大名家から、旅行をするので——ということで、蒲焼きの大量注文を受けました。店をあげて、土用の子、丑、寅の三日にわたり、焼きつづけ、日ごとに土がめに分けて貯蔵しておきました。さて、約束の当日、取り出してみると、子の日と寅の日に焼いたウナギは、色・味ともに変わっていたのに、丑の日に焼いたものは、色・味・香りとも変わっていません。ひとまずそれを藤堂さまに納め、御用を済ませたといわれます。それ以来、ウナギの蒲焼きは丑の日にかぎるということになり、この日がウナギ屋の書入れ時になったというのです。いずれにしても、丑の日のウナギは、ウナギ屋の営業政策に端を発しています。
土用丑のろのろされぬ蒲焼屋 古川柳
それはそれとして、夏のさかりのスタミナ食として、ウナギの効用はあっぱれなもので、ビタミンAをたっぷり内蔵しています。ビタミンAは欠乏すると視力の調節がきかなくなる——いわゆるトリ目になるといわれ、伝染病に対する抵抗力も弱くなり、肌アレになるとか、子どもの場合は、発育不良になるといわれるビタミンです。魚の場合は、おもに内臓に多くふくまれていますが、ウナギは肉の部分にも相当にふくまれています。
夏場の魚は、どれも油っ気が少なく、栄養価のすぐれた魚が乏しいのに、ウナギばかりは別で、脂肪も豊富で、丑の日にかぎらず、体力をつけるには、もってこいの魚といえましょう。
そんなウナギも食べ方としては蒲焼きがいちばんです。同じ蒲焼きでも、関東と関西では、作り方がちがい、関東ではウナギを背開きにし、竹串を打って白焼きにし、さらにこれを蒸してやわらげ、タレをつけて焼きます。一方、関西では腹開きにし、五、六尾いっしょに金串を打って焼き上げ、頭と尾の部分を切り落とし、大きさによって食べやすいように切り分けます。どちらも焼きたてがおいしく、さめた蒲焼きは、うま味が半減してしまいます。
おみやげに蒲焼きをいただいたときなど、食べる三〇分くらい前に両面に、清酒をふりかけておくか、清酒をしめらせたふきんで包んでおくかして、食べる直前に焼き直せば、焼きたてに近いうま味が楽しめます。
花ざくろ鰻を食へと宣伝車 十字星
丑ウナギと言うと、きまって平賀源内と大田南畝(蜀山人)が駆り出されますが、このふたりのうちいずれかが、あまりはやらないウナギ屋の宣伝に一肌ぬいだと伝えられるからです。もしこの言い伝えがほんとうだとすると、今からざっと一九〇年前の安永のころということになります。
丑ウナギの、もう一つ有力な説としては、江戸は神田、和泉橋通りのウナギ屋春木屋善兵衛の話が伝わっています。文政年間(一八一八—三〇)の、ある夏のこと、お出入りの藤堂さまという大名家から、旅行をするので——ということで、蒲焼きの大量注文を受けました。店をあげて、土用の子、丑、寅の三日にわたり、焼きつづけ、日ごとに土がめに分けて貯蔵しておきました。さて、約束の当日、取り出してみると、子の日と寅の日に焼いたウナギは、色・味ともに変わっていたのに、丑の日に焼いたものは、色・味・香りとも変わっていません。ひとまずそれを藤堂さまに納め、御用を済ませたといわれます。それ以来、ウナギの蒲焼きは丑の日にかぎるということになり、この日がウナギ屋の書入れ時になったというのです。いずれにしても、丑の日のウナギは、ウナギ屋の営業政策に端を発しています。
土用丑のろのろされぬ蒲焼屋 古川柳
それはそれとして、夏のさかりのスタミナ食として、ウナギの効用はあっぱれなもので、ビタミンAをたっぷり内蔵しています。ビタミンAは欠乏すると視力の調節がきかなくなる——いわゆるトリ目になるといわれ、伝染病に対する抵抗力も弱くなり、肌アレになるとか、子どもの場合は、発育不良になるといわれるビタミンです。魚の場合は、おもに内臓に多くふくまれていますが、ウナギは肉の部分にも相当にふくまれています。
夏場の魚は、どれも油っ気が少なく、栄養価のすぐれた魚が乏しいのに、ウナギばかりは別で、脂肪も豊富で、丑の日にかぎらず、体力をつけるには、もってこいの魚といえましょう。
そんなウナギも食べ方としては蒲焼きがいちばんです。同じ蒲焼きでも、関東と関西では、作り方がちがい、関東ではウナギを背開きにし、竹串を打って白焼きにし、さらにこれを蒸してやわらげ、タレをつけて焼きます。一方、関西では腹開きにし、五、六尾いっしょに金串を打って焼き上げ、頭と尾の部分を切り落とし、大きさによって食べやすいように切り分けます。どちらも焼きたてがおいしく、さめた蒲焼きは、うま味が半減してしまいます。
おみやげに蒲焼きをいただいたときなど、食べる三〇分くらい前に両面に、清酒をふりかけておくか、清酒をしめらせたふきんで包んでおくかして、食べる直前に焼き直せば、焼きたてに近いうま味が楽しめます。
花ざくろ鰻を食へと宣伝車 十字星