私どもの幼時には、カツオ節を削る音と、擂《すり》鉢でみそを擂る音で暮らしの一日が始まりました。まだ夜も明けきらぬ台所の片隅で、カッカッカッと響くその音は、今でも鮮かに思い出されます。
このことわざは、カツオ節をキャベツの葉でつつむ——というのが正しく、こうしておくとカツオ節に適度のしめり気を与えるので、削りやすいのです。キャベツの葉は、毎日新しいものと取換え、削る部分にだけ巻きつけ、輪ゴムか洗濯バサミで止めておきます。
使い始めのとき、よく水やタワシでごしごし洗ったりする人がおりますが、いったんぬれたカツオ節は、時間が経つとともにカツオ独特の生臭い匂いを生じ、カツオ節特有の香味をそこないますので、絶対洗ってはなりません。乾いたふきんで拭《ふ》いてお使いください。
削り方について触れる前に、お手|許《もと》のカンナをよく見てください。赤くサビついたり、刃が鈍《にぶ》くなってはいませんか。よく削るためには、まず切れ味のよいカンナを用意することです。
削り方は、できるだけ薄く、長いめに、雁皮紙《がんぴし》のように削ります。削り始めるとき、亀節なら上身と下身を割って、背を上にして尾から頭へと削ります。しろうとにはカンナの刃を手前にして引くほうが、軽い抵抗があって削りよいようですが、本来はやはり、刃を向こうにして速度と力の調子をのみこみ、さっさっと押し削っていきます。
よくカツオ節の先を立てて削り、両端を尖らせている方がありますが、これでは粉になってしまいますので、なるべく平らに、先のほう(尾の部分)をいくぶん上げて、手のひらで押しながら目に沿って削ります。本節の削り方もこれに準じます。なお、削っているうちに、肉質の組織の方向が変わって逆目《さかめ》になるところがありますので、注意して、なるべく逆目にならぬように削ります。逆目になったカツオ節は、往々にして、汁を濁らせる恐れがあります。
よい吸物はカツオ節で出汁《だし》をとりますが、削りたてを使うようにしないと、よい味は出ません。入用以上のものは削り置いてはいけません。湯を煮立ててから削ったのとでは、味に格段の開きが出てきます。グラグラッと湯のたぎるところへサッと入れた瞬間、十分に出汁が出ています。それをいつまでも入れておいて、クタクタに煮るのではロクな出汁は出ず、かえって味をそこなうばかりです。いわゆる二番出汁というようなものにしてはいけません。また、出汁をとった残りのカツオ節を、未練がましく杓子の底で押ししぼる人がいますが、ムリにしぼると、せっかくの出汁にカツオ節のクセ味が出て、よい香りが台なしになってしまいます。削れないほど小さくなったカツオ節は、ぬかみその中へ入れるか、おでん(関東煮)の出汁に入れておくと、ムダなく生かせます。
カツオ節を保存するには、カビを落とさぬように罐に入れて密封し、夏は月一回、あとはふた月に一回ほど、天気のよい日に取り出し、かげ干しし、温かみが抜けてからしまっておきます。
このことわざは、カツオ節をキャベツの葉でつつむ——というのが正しく、こうしておくとカツオ節に適度のしめり気を与えるので、削りやすいのです。キャベツの葉は、毎日新しいものと取換え、削る部分にだけ巻きつけ、輪ゴムか洗濯バサミで止めておきます。
使い始めのとき、よく水やタワシでごしごし洗ったりする人がおりますが、いったんぬれたカツオ節は、時間が経つとともにカツオ独特の生臭い匂いを生じ、カツオ節特有の香味をそこないますので、絶対洗ってはなりません。乾いたふきんで拭《ふ》いてお使いください。
削り方について触れる前に、お手|許《もと》のカンナをよく見てください。赤くサビついたり、刃が鈍《にぶ》くなってはいませんか。よく削るためには、まず切れ味のよいカンナを用意することです。
削り方は、できるだけ薄く、長いめに、雁皮紙《がんぴし》のように削ります。削り始めるとき、亀節なら上身と下身を割って、背を上にして尾から頭へと削ります。しろうとにはカンナの刃を手前にして引くほうが、軽い抵抗があって削りよいようですが、本来はやはり、刃を向こうにして速度と力の調子をのみこみ、さっさっと押し削っていきます。
よくカツオ節の先を立てて削り、両端を尖らせている方がありますが、これでは粉になってしまいますので、なるべく平らに、先のほう(尾の部分)をいくぶん上げて、手のひらで押しながら目に沿って削ります。本節の削り方もこれに準じます。なお、削っているうちに、肉質の組織の方向が変わって逆目《さかめ》になるところがありますので、注意して、なるべく逆目にならぬように削ります。逆目になったカツオ節は、往々にして、汁を濁らせる恐れがあります。
よい吸物はカツオ節で出汁《だし》をとりますが、削りたてを使うようにしないと、よい味は出ません。入用以上のものは削り置いてはいけません。湯を煮立ててから削ったのとでは、味に格段の開きが出てきます。グラグラッと湯のたぎるところへサッと入れた瞬間、十分に出汁が出ています。それをいつまでも入れておいて、クタクタに煮るのではロクな出汁は出ず、かえって味をそこなうばかりです。いわゆる二番出汁というようなものにしてはいけません。また、出汁をとった残りのカツオ節を、未練がましく杓子の底で押ししぼる人がいますが、ムリにしぼると、せっかくの出汁にカツオ節のクセ味が出て、よい香りが台なしになってしまいます。削れないほど小さくなったカツオ節は、ぬかみその中へ入れるか、おでん(関東煮)の出汁に入れておくと、ムダなく生かせます。
カツオ節を保存するには、カビを落とさぬように罐に入れて密封し、夏は月一回、あとはふた月に一回ほど、天気のよい日に取り出し、かげ干しし、温かみが抜けてからしまっておきます。