「腹の皮が張れば目の皮がたるむ」といわれるように、食べものが胃腸にはいり、満腹の状態になると、消化のため血液が動員されるので、頭のほうがお留守になり、眠くなってきます。おとなはなんとか自制することはできても、子どもは眠たいままに横になりがち。このことわざは健康上の問題より、子どものしつけに重点を置いたもののようです。
牛はごろりと横になって休むのが好きで、そのとき、いちど食べたものをまた口に戻して噛み直します。その様子は、まるで寝ながら食べているか、あるいは食べたあとすぐ寝るように見えます。そのようなことから「食うてすぐ寝ると牛になる」と、いわれるようになったのでしょう。人間が牛になる——というようなことは、現代っ子には、もはや通じない非科学的なことですが、そのむかしは、牛が今よりももっと子どもたちには身近な存在だったし、人智もそれほど発達していなかったので、結構戒めにもなり得たのでしょう。
現代医学では、牛のように、食後しばらく横になることは健康によいとさえ言われています。もっともむかしだって、こうしたことの効用を全然認めていなかったわけではなく、「食後の一睡|万病円《まんびようえん》」とか「親が死んでも食休み」とかいって、むしろ、食後の休息を積極的に認めていたフシすらあります。
それだけに、食べてすぐ風呂にはいったり、激しい労働をしては、からだのためによくありません。西洋人はこの点を深く考え、食後の休養時間をたっぷりとり、国によっては、昼休みが正午から三時、四時にまで及ぶところもあり、お国柄とは言え、海外旅行をする日本人をしばしば唖然とさせます。
食後に休む場合、行儀のことを抜きにして、消化の点だけからいえば、最低三〇分間ぐらいは静かに横になっているほうがよいのです。さらに休むときの姿勢を言えば、右腹を下にして休んだほうが消化のためには効果的です。
人間の胃袋は、お腹《なか》の中では左上から右下にかけて、ちょうど日本本土のように斜めに位置しています。それが坐っているときは、お腹の壁が張って、肺や心臓が消化器を上から圧《お》していますが、右腹を下にして休むと、それがなくなり、お腹の中がひろくなり、しかも食べものの流れに逆《さか》らわないため、胃腸が働きやすくなり、消化作用を助けることになります。また、消化液の分泌も横になったときにもっとも多く出るので、消化作用はいっそう促進されます。ですから、胃腸の弱い人には、食後に休むことは一種の治療法ともなるわけです。
そうかといって、満腹の状態で横になって眠ってしまってはいけません。眠っている間は、すべての内臓の働きがにぶり、胃腸の働きも不活発になるからです。食べものが胃で消化されるには、だいたい四、五時間はかかります。むかしから、夜食はほどほどにし、寝る前、三、四時間は、食べものを控えたほうがからだのためにはよいといわれてきたのもそのせいです。
牛はごろりと横になって休むのが好きで、そのとき、いちど食べたものをまた口に戻して噛み直します。その様子は、まるで寝ながら食べているか、あるいは食べたあとすぐ寝るように見えます。そのようなことから「食うてすぐ寝ると牛になる」と、いわれるようになったのでしょう。人間が牛になる——というようなことは、現代っ子には、もはや通じない非科学的なことですが、そのむかしは、牛が今よりももっと子どもたちには身近な存在だったし、人智もそれほど発達していなかったので、結構戒めにもなり得たのでしょう。
現代医学では、牛のように、食後しばらく横になることは健康によいとさえ言われています。もっともむかしだって、こうしたことの効用を全然認めていなかったわけではなく、「食後の一睡|万病円《まんびようえん》」とか「親が死んでも食休み」とかいって、むしろ、食後の休息を積極的に認めていたフシすらあります。
それだけに、食べてすぐ風呂にはいったり、激しい労働をしては、からだのためによくありません。西洋人はこの点を深く考え、食後の休養時間をたっぷりとり、国によっては、昼休みが正午から三時、四時にまで及ぶところもあり、お国柄とは言え、海外旅行をする日本人をしばしば唖然とさせます。
食後に休む場合、行儀のことを抜きにして、消化の点だけからいえば、最低三〇分間ぐらいは静かに横になっているほうがよいのです。さらに休むときの姿勢を言えば、右腹を下にして休んだほうが消化のためには効果的です。
人間の胃袋は、お腹《なか》の中では左上から右下にかけて、ちょうど日本本土のように斜めに位置しています。それが坐っているときは、お腹の壁が張って、肺や心臓が消化器を上から圧《お》していますが、右腹を下にして休むと、それがなくなり、お腹の中がひろくなり、しかも食べものの流れに逆《さか》らわないため、胃腸が働きやすくなり、消化作用を助けることになります。また、消化液の分泌も横になったときにもっとも多く出るので、消化作用はいっそう促進されます。ですから、胃腸の弱い人には、食後に休むことは一種の治療法ともなるわけです。
そうかといって、満腹の状態で横になって眠ってしまってはいけません。眠っている間は、すべての内臓の働きがにぶり、胃腸の働きも不活発になるからです。食べものが胃で消化されるには、だいたい四、五時間はかかります。むかしから、夜食はほどほどにし、寝る前、三、四時間は、食べものを控えたほうがからだのためにはよいといわれてきたのもそのせいです。