薬というものは、たいていの場合、直接または間接にその人に備わっている「生きる力」や「回復能力」(病気を治す働き)を助けるだけのことで、その働きが盛んにならなければ、病いは治りません。その働きは、人が何を食べているかによって(そのために、人のからだがアルカリ性になっているか、酸性になっているか、ビタミンが充実しているか、老廃物や刺激物がたまっているか、いないかというようなことによって)、非常にちがってきます。なぜなら、人のからだは細胞からできており、その細胞は食べものからできているからです。周知のように食べもののないところに、生命のいとなみはありません。
「薬より養生」ということわざは、この間の消息をズバリ指摘したもので、病気になってからそれ医者よ薬よ、と騒ぐのは的はずれ。前の項で触れたように、はじめから病気にならなければそれに越したことはありません。事実、ふだん健康なときから食べものを規則正しく、しかも、からだに必要なものを十分|摂《と》っていれば、たとえ病気になっても治りが早いことは、今日、医学の常識にすらなっています。(伝染病にかかる率は、ビタミンやカルシウムが十分だと、約二〇分の一に減少するという研究結果もでているくらいです)
中国古代に書かれ、漢方薬の聖書ともいうべき古典に『神農本草経《しんのうほんそうきよう》』という本があります。この本によりますと、薬には上・中・下の別があり、「上薬は命を養い、中薬は性を養い、下薬は病を治す」と、記されています。
現代語に訳せば、さしずめ上薬は五穀をはじめ、日常口にする食べもの。中薬は保健薬、ビタミン剤をはじめ、各種の栄養剤。下薬は病気の際用いる治療薬ということになりましょう。
「上薬はたくさん服用したり長く服用しても人を傷つけることはないが、中薬は人によっては毒にもなるので、服用するときはよく注意し、下薬は副作用がはげしいので、長くこれを服用してはならぬ」——と但書《ただしがき》がついています。
こうした薬についての評価も、今日では至極当たり前のことで、取るに足らぬことのように思われがちですが、よくよく玩味しますと、薬亡者の現代人に対する痛烈な批判になっていますし、また鋭い文明批評にもなっています。自然とともに歩み、からだと薬の効用、薬の害毒というものを、よく理解していた古代人の偉さに、いまさらながら頭の下がる思いがします。
胃カイヨウが気になるなら、酒はほどほどにし、あまり熱い食べものを口に入れず、コーヒーなども多量に飲むことを控え、睡眠薬や胃腸薬の連用を避け、根菜類の大根やにんじん、はす、ごぼう、ねぎなど、新鮮なものをできるだけ召し上がるようにして、日常の食生活を組み替えるようになされば、そのほうが、よほど人間らしい生き方だと思います。
薬より食養生——なにはともあれ、命を養う上薬、食べものに気を配り、取り合わせよく召し上がり、健康なからだを保つよう心がけましょう。
「薬より養生」ということわざは、この間の消息をズバリ指摘したもので、病気になってからそれ医者よ薬よ、と騒ぐのは的はずれ。前の項で触れたように、はじめから病気にならなければそれに越したことはありません。事実、ふだん健康なときから食べものを規則正しく、しかも、からだに必要なものを十分|摂《と》っていれば、たとえ病気になっても治りが早いことは、今日、医学の常識にすらなっています。(伝染病にかかる率は、ビタミンやカルシウムが十分だと、約二〇分の一に減少するという研究結果もでているくらいです)
中国古代に書かれ、漢方薬の聖書ともいうべき古典に『神農本草経《しんのうほんそうきよう》』という本があります。この本によりますと、薬には上・中・下の別があり、「上薬は命を養い、中薬は性を養い、下薬は病を治す」と、記されています。
現代語に訳せば、さしずめ上薬は五穀をはじめ、日常口にする食べもの。中薬は保健薬、ビタミン剤をはじめ、各種の栄養剤。下薬は病気の際用いる治療薬ということになりましょう。
「上薬はたくさん服用したり長く服用しても人を傷つけることはないが、中薬は人によっては毒にもなるので、服用するときはよく注意し、下薬は副作用がはげしいので、長くこれを服用してはならぬ」——と但書《ただしがき》がついています。
こうした薬についての評価も、今日では至極当たり前のことで、取るに足らぬことのように思われがちですが、よくよく玩味しますと、薬亡者の現代人に対する痛烈な批判になっていますし、また鋭い文明批評にもなっています。自然とともに歩み、からだと薬の効用、薬の害毒というものを、よく理解していた古代人の偉さに、いまさらながら頭の下がる思いがします。
胃カイヨウが気になるなら、酒はほどほどにし、あまり熱い食べものを口に入れず、コーヒーなども多量に飲むことを控え、睡眠薬や胃腸薬の連用を避け、根菜類の大根やにんじん、はす、ごぼう、ねぎなど、新鮮なものをできるだけ召し上がるようにして、日常の食生活を組み替えるようになされば、そのほうが、よほど人間らしい生き方だと思います。
薬より食養生——なにはともあれ、命を養う上薬、食べものに気を配り、取り合わせよく召し上がり、健康なからだを保つよう心がけましょう。