このことわざの出どころは、中国古代の史書『漢書』の「食貨志《しよつかし》」。ちょうどキリスト紀元のはじまったころ、前漢の王位を奪い取って「新《しん》」の国を興《おこ》し、みずから王となった王莽《おうもう》が、経済政策の徹底を志して発表した詔《みことのり》のはじめに出てきます。
「夫れ塩は食肴《しよつこう》の将、酒は百薬の長、嘉会《かかい》の好《こう》、鉄は田農《でんのう》の本」いうならばこのことば、王莽の専売事業(塩・酒・鉄などの)に役立てるためのコマーシャルの一節。
「酒は百薬の長」などというと、左党の面々「わが意を得たり」と勢いづくことでしょうが、手放しで喜ぶにはチト早すぎます。酒は�百薬の長とはいえど万の病は酒よりこそ起これ�で、「酒は百毒の長」の汚名も着せられています。もちろん、ほどを得た飲み方をすれば、酒は確かに薬以上の効きめがあります。むかしの人は「酒に十《とお》の徳あり」と、すでに捨てがたい役割を認め、百薬の長のほかに�寿命を延ばす、旅行に慈悲あり、寒気に衣あり、推参に便あり、憂えを払う玉箒《たまぼうき》、位無くして貴人に交わる、労を助く、万人和合す、独居の友となる�などの徳をあげております。疲れたときに飲めば疲れをいやし、気持ちを静め、心地よい眠りに誘います。また、寒さの折に飲めば、からだを温めてくれます。医薬用としても、消毒殺菌用として「日本薬局方」に登録されています。かぜのときの玉子酒、貧血を起こしたときの気付薬、軽い狭心症を起こしたときには、一口の酒、よく苦しみを和らげてくれます。
酒のアルコールはカロリー源としても無視できません。一〇グラム当たり九〜一〇カロリーの熱を出し、カロリーの上では脂肪とほぼ同じ、炭水化物やたんぱく質の二倍以上となります。ただし利用されるのは、その六、七割程度。米一合(一五〇グラム)と同じ五〇〇カロリーの熱を出すためには、日本酒でお銚子三本、ビールなら大びんで二本ほどが入用です。
このようにカロリーはこと足りても、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素はほとんどありません。ですから酒さえ飲んでいれば、食べものはいらない、というのはウソです。サカナも十分に食べなければいけません。
酒はまた調味料としても見逃がせないものです。日本料理では、塩、みりん、酢などと並んでたいせつな|かくし《ヽヽヽ》味の一つです。もっとも、味の引き立て役として使われるのは、もっぱらお酒のコクの成分で、今日、流行の合成酒では、|かくし《ヽヽヽ》味としての役割は期待できません。醸造した上質の清酒でないと、料理のうま味は引き出せません。
同じ調味料としてのお酒も、国々によってそれぞれ種類がちがい、フランス料理ではおなじみのぶどう酒、中国料理では黄酒や料酒、日本料理では、すでにあげた清酒と|みりん《ヽヽヽ》がそれを代表しています。ただし煮ものには清酒のアルコール分は不要なもので、調味の最初に使い、加熱することによって、アルコール分を蒸発させ、お酒のコクの成分によって調味料全体の味を引き立たせ、煮ものの味のうまさを完成させます。
「夫れ塩は食肴《しよつこう》の将、酒は百薬の長、嘉会《かかい》の好《こう》、鉄は田農《でんのう》の本」いうならばこのことば、王莽の専売事業(塩・酒・鉄などの)に役立てるためのコマーシャルの一節。
「酒は百薬の長」などというと、左党の面々「わが意を得たり」と勢いづくことでしょうが、手放しで喜ぶにはチト早すぎます。酒は�百薬の長とはいえど万の病は酒よりこそ起これ�で、「酒は百毒の長」の汚名も着せられています。もちろん、ほどを得た飲み方をすれば、酒は確かに薬以上の効きめがあります。むかしの人は「酒に十《とお》の徳あり」と、すでに捨てがたい役割を認め、百薬の長のほかに�寿命を延ばす、旅行に慈悲あり、寒気に衣あり、推参に便あり、憂えを払う玉箒《たまぼうき》、位無くして貴人に交わる、労を助く、万人和合す、独居の友となる�などの徳をあげております。疲れたときに飲めば疲れをいやし、気持ちを静め、心地よい眠りに誘います。また、寒さの折に飲めば、からだを温めてくれます。医薬用としても、消毒殺菌用として「日本薬局方」に登録されています。かぜのときの玉子酒、貧血を起こしたときの気付薬、軽い狭心症を起こしたときには、一口の酒、よく苦しみを和らげてくれます。
酒のアルコールはカロリー源としても無視できません。一〇グラム当たり九〜一〇カロリーの熱を出し、カロリーの上では脂肪とほぼ同じ、炭水化物やたんぱく質の二倍以上となります。ただし利用されるのは、その六、七割程度。米一合(一五〇グラム)と同じ五〇〇カロリーの熱を出すためには、日本酒でお銚子三本、ビールなら大びんで二本ほどが入用です。
このようにカロリーはこと足りても、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素はほとんどありません。ですから酒さえ飲んでいれば、食べものはいらない、というのはウソです。サカナも十分に食べなければいけません。
酒はまた調味料としても見逃がせないものです。日本料理では、塩、みりん、酢などと並んでたいせつな|かくし《ヽヽヽ》味の一つです。もっとも、味の引き立て役として使われるのは、もっぱらお酒のコクの成分で、今日、流行の合成酒では、|かくし《ヽヽヽ》味としての役割は期待できません。醸造した上質の清酒でないと、料理のうま味は引き出せません。
同じ調味料としてのお酒も、国々によってそれぞれ種類がちがい、フランス料理ではおなじみのぶどう酒、中国料理では黄酒や料酒、日本料理では、すでにあげた清酒と|みりん《ヽヽヽ》がそれを代表しています。ただし煮ものには清酒のアルコール分は不要なもので、調味の最初に使い、加熱することによって、アルコール分を蒸発させ、お酒のコクの成分によって調味料全体の味を引き立たせ、煮ものの味のうまさを完成させます。