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第二章 大惨劇--あいびき(1)

时间: 2023-12-20    进入日语论坛
核心提示:あいびき この事件では、何もかもが調子がくるっている。 登場人物のすべてが、まるで刷りそこなった粗悪な三色版のように、色
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あいびき

 この事件では、何もかもが調子がくるっている。

 登場人物のすべてが、まるで刷りそこなった粗悪な三色版のように、色彩が輪郭からは

み出していて、妙に狂気じみた感じなのだが、とりわけ、いやらしいのは守衛という男

だ。

 かれの部屋の小簞笥から、さまざまな東西の媚薬、性欲昂進剤を発見したとき、私はな

んともいえぬほど、浅間しいような、哀れなような気がしたものだが、それと同時にまた

一方、ぞっとするような不気味さをかんじたことも事実である。

 ずらりと並んだおびただしい媚薬のなかに、守衛という男の、救いがたい焦しよう燥そ

うと悪念がかんじられる。

「おい、もう外へ出よう。こんなもの、見ちゃ悪いよ」

「悪い? どうして?」

「どうしてって、……同じ秘密でも、これは人間として、若い男として、いちばんひとに

知られたくない秘密じゃないか。おれ、なんだか気持ちが悪くなったよ」

「気持ちが悪い?」

 直記は不思議そうに私の顔を見直したが、かれ自身、この発見にはやはり驚いたのにち

がいないのだ。いつものような憎まれ口もとび出さなかった。

「守衛がなあ、こんな薬をなあ……」

 と、いつになく沈んだ調子で、

「こればっかりは、おシャカ様でも御存じあるめえ。ふん、可哀そうに」

 吐き出すように呟つぶやくと、バタンと小簞笥の戸をしめて、

「おい、外へ出よう」

 と、みずからさきに立って廊下へ出たが、そこでわれわれはぎょっとばかりに立ちど

まった。ドアの外には八千代さんが立っている。八千代さんはいま眼がさめたのにちがい

ない。パジャマのうえに、薄桃色のケープをまとい、くしけずらない髪の毛をふっさりと

肩の上に垂らしている。そして、あのスリッパを平気でつっかけているのである。直記と

私は思わず顔を見合わせた。

「八っちゃん、おまえ……」

 と、直記は魚の骨でも咽の喉どにひっかかったような声で、

「いま、眼がさめたのかい」

 と、訊たずねた。

「ええ、……あたし……すっかり寝坊しちゃって……」

 八千代さんは、まだ夢のあとを追うているような、定かならぬ眼の色をして、たゆとう

ように呟いたが、いま私たちの出て来たドアのほうを見ると、

「直記さん、あなた、いまこの部屋でなにをしていたの」

 と、急に怪しむような眼つきになった。

「ううん、いや……ちょっと調べることがあってね」

「調べること……? 直記さん、兄さんがどうかしたの」

「八っちゃん、おまえ、お藤に何かききゃアしなかったかい」

「いいえ。お藤、どうかしてるわ。眼を泣きはらして……直記さん、昨夜、何かあった

の」

 八千代さんは急に不安そうな顔色になった。直記と私はまた、彼女のはいているスリッ

パに眼をおとした。

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