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八墓村-第二章 疑惑の人(7)

时间: 2022-06-05    进入日语论坛
核心提示:二老婆「寺田さん、気にしちゃだめよ。田舎の人は口先だけはうるさいけれど、その実、みんな意気地がないから何もできゃあしない
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二老婆

 

 

「寺田さん、気にしちゃだめよ。田舎の人は口先だけはうるさいけれど、その実、みんな意気地がないから何もできゃあしないのよ。おどおどするとかえってつけこまれるから、ちゃんとしていらっしゃい」

まったくそのとき、美也子がそばについていてくれたからこそ、私も辛うじて体面を保つことができたけれど、もし自分ひとりだったらどうだろう。おそらく私は途中から夢中になって駆け出していたにちがいない。事実、田治見家の門のなかへ駆け込んだとき、私は全身にびっしょりと汗をかいていたのだ。

「しかし、あの濃茶の尼というのは、いったい何者なのです。どうしてあんなにしつこくぼくにつきまとうんです」

「あの人もね、あの事件のときの犠牲者の一人なのよ。あの人の御亭主と子どもが、あのときいっしょに殺されて……それで尼になって、濃茶というところに庵あん室しつを結んでるんだけれど、さっきいった八つ墓明神の双生児杉の一本が、雷にうたれて真っ二つになるところをその眼で見て以来、少し気が変になっているのよ」

「濃茶というのはところの名ですか」

「ええ、そう、字あざの名なのよ。昔からそこに尼寺があってずっとせんにそこにいた尼さんが、客さえあれば濃茶を立てて出したのね。それ以来、その尼さんのことを濃茶の尼と呼んでいたのが、いつの間にか字の名になってしまったって話よ。あの尼さん、ほんとうは妙蓮みょうれんさんというんだけど、妙蓮さんなんて神妙らしく呼ぶものは一人もないわ。濃茶の尼だの、濃茶婆ばばあだのと……まあ、気ちがいのことだから気にしないほうがいいわ」

それにしても、いま濃茶の尼の口走った言葉と、いつか舞いこんだ無気味な警告状の文句のあいだに、どこか共通したところがあるのはどういうわけだろう。あのように半分気の狂った老女に、気ちがいめいてはいるけれど、どこか理路整然としたところのある、あのような警告状が書けようとは思えない。ひょっとするとあの警告状を書いた人物は、気ちがいの尼の口走る言葉からヒントを得て、ああいう文句をつづり出したのではあるまいか。とにかく私はしっかりと、そのことを心の中に書きとめておこうと決心した。

それはさておき、はじめて見る私の生家というのは、予想を越えてはるかに大きなものであった。何かしらそれは巨大な巌いわといった感じの、どっしりとした重量感と安定感をもった建物で、土ど塀べいをめぐらせた邸内には、亭てい々ていと天を摩す杉木立ちが、うっそうとしてそびえている。私たちが門のくぐりを入って広い玄関のほうへ行こうとしたとき、横の木戸から女中らしい女がとび出してきた。

「あら、西屋の若奥様、いらっしゃいませ。表のあの騒ぎは何事でございます」

「なんでもないのよ。捨てておきなさい。それよりお島さん、奥へ行って美也子が辰弥さんをお連れしてきたからといってくださいな」

「辰弥様……」

お島という若い女中は、大きく眼をみはって私の顔を見ていたが、いくらか頬を染めるようにして小走りに木戸の奥へひっこんだ。

「さあ、寺田さん、どうぞこちらへ」

「ええ」

広い玄関へ入ると、いかさま旧家らしい落ち着いた冷気が身にしみる。私は緊張のためにいくらか心臓がドキドキするのを覚えた。

しばらく待っているとさっきの女中のあとから、三十五、六の、少し髪のちぢれた色の小白い、いかにも生気のない顔色をした女が現われた。

「まあまあまあ、西屋の若奥様、さ、どうぞ、どうぞ」

そういう言葉はこのへんの女特有の、かん高い調子で、いかにも仰山ぎょうさんそうであったが、なんとなく声の調子に熱がなく、動作がのろのろとしているのは、必ずしも誠意にかけているのではなくて、体のせいであるらしく思われる。心臓でも悪いのか、蒼あおくむくんだような顔をして、眼のいろにも力がなかった。

「ああ、春代さん、おつれしてきましたよ。お待ちかねの辰弥さん。寺田さん、こちらがあなたのお姉さまの春代さんですよ」

美也子はこの家とよほど親しいらしく、私たちを紹介すると、靴くつをぬいでさっさと上へあがってしまった。私たちは玄関の上と下とで黙って頭を下げたが、春代は気き後おくれしたようにすぐ眼をそらしてしまった。

これが私と異母姉との初対面だったが、その第一印象は悪くはなかった。姉の春代はけっして美人ではなかった。まずまずやっと十人並みという器量だろう。しかし、いかにも田舎の大家でボーッと育ってきたらしい、善良で気のよさそうなところが、緊張した私の神経を、なごやかにときほぐしてくれる。私はなんだか、ほっと重荷をおろしたような気持ちだった。

「どう? 春代さん、弟さんの印象は……?」

「はあ、あの……たいそうりっぱになって……」

姉はちらと私の顔を見ると小娘のように頬をあからめ、うつむいてにっと笑った。そういう様子からみて、姉もまた私に対してよい印象を持ったらしく、それがいっそう私の心にくつろぎをあたえた。

「さあ、それでは伯母さまたちがお待ちしていらっしゃいますから」

私たちは姉のあとについて長い廊下をふんでいった。外から見てもこの家は、ずいぶん大きなものだが、なかへ入るとその大きさはいっそう拡大され、十五間けんの長廊下をわたるときなど、私はどこかのお寺かなにかにいるような錯覚にとらわれたくらいであった。

「春代さん、伯母さまたちは離れなの?」

「はあ、あの、今日は辰弥さんをはじめてお迎えするのだから、あちらにしようとおっしゃって……」

十五間の長廊下がつきると、三段ほどあがって、そこに十畳と十二畳の二間つづきの座敷があった。これは後に知ったことだけれど、旧幕時代この家に、御領主様をお迎えすることがあって、そのとき、この離れを普ふ請しんしたのだということである。

この十二畳の床の間を背負うて、田治見家の二人の主権者、小梅様と小竹様が、ふだん着の上に、あわててひっかけたと見えて紋付きの羽織を着てきちんと座っていた。
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