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八墓村-第二章 疑惑の人(8)

时间: 2022-06-05    进入日语论坛
核心提示:廊下からこの二人の姿を見たとき、私はなんともいえぬ異様な感じに打たれたことだ。双生児には一卵性の双生児と二卵性の双生児と
(单词翻译:双击或拖选)

廊下からこの二人の姿を見たとき、私はなんともいえぬ異様な感じに打たれたことだ。

双生児には一卵性の双生児と二卵性の双生児とふたとおりあるということを、私はいつかきいたことがある。そしてひとつの卵がわれて二つになった双生児ほど、相似が顕著だということだが、私の大伯母たちはあきらかに、一卵性の双生児にちがいない。

二人はたぶん、もう八十を越えているのだろう。真っ白な髪を、ちんまりうしろにたばねて、背を丸くして座っている。顔も体も掌たなごころの中に丸めてしまえそうなほど小さく、なんだか猿さるが二匹座っているような感じであった。ただし、ここで猿といったのは、体の大きさを形容したまでのことで、その顔が猿のように醜いという意味ではない。どうしてどうしてその顔は、若いころはさぞ美しかったろうと思われるような面影をとどめている。年齢のわりには色いろ艶つやもよく、歯のないくちびるを、巾着きんちゃくの口のようにすぼめているのも上品であった。

しかし、なんといってもあまり顕著な相似が、見るものに一種異様な戦せん慄りつをあたえるのである。

双生児も若いものにはそれほど珍しいという現象ではない。また、それほど異様な感じもしない。しかし八十を越えて、しかもこんなによく似た双生児というものは珍しいとか異様とかいうよりも、むしろなんだか薄気味悪いのである。先天的な相似はともかく、後天的にできたはずのしわの一筋から、皮膚のシミにいたるまで、そっくり同じで、一方が笑えばもう一方の顔の筋肉も、同じようにほころびるのではないかと思われるほどだった。

「伯母さま」

春代は縁側にきっちりと手をつかえた。

「西屋の美也さまが、辰弥をおつれくださいました」

これがこの家の家風なのであろうか。春代の大伯母たちに対する態度は、慇いん懃ぎん丁重をきわめていた。私は思わず廊下に膝ひざをついたが、美也子はにやにやしながら立ったままだった。

「ああ、そう、御苦労さま」

背中を丸くした老婆のひとりが、巾着のような口をもぐもぐさせた。私にはまだどちらがどちらともわからなかったが、後でそれが小梅様だとわかった。

「さあ、どうぞこちらへ、美也さん、御苦労でしたえなあ」

小竹様もそのあとにつづいて口をもぐもぐさせた。

「いいえ、伯母さま、おそくなりまして──お待ちどおだったでしょう」

美也子はこの家の家風などおかまいなしに、座敷へ入ると少し横のほうへ横座りに座ると、

「さあ、辰弥さん、こちらへお入りなさいな。こちらがあなたの大伯母さまになるかたがたよ。こちらが小梅様で向こうにいらっしゃるのが小竹様」

「美也さん、ちがいますよ。わたしが小竹で向こうのが小梅ですよ」

老婆のひとりが静かに訂正した。

「あら、失礼。あたしいつもまちがってしまいますのよ。伯母さま、こちらがお待ちかねの辰弥さん」

私は大伯母たちのまえに座って、黙って頭をさげた。

「ああ、それじゃこれが辰弥かいな。小竹さんや」

「はい、小梅さん、なんでございます」

「血は争われぬものじゃな。鶴子に生きうつしじゃないか」

「ほんになあ、眼もと口もと、あの時分の鶴子にそっくりじゃえなあ。辰弥、ようかえってこられた」

私はまた黙って頭をさげた。

「ここがおまえの生まれた家じゃえ。おまえはな、この家の、この座敷で生まれたのじゃ。あれからもう二十六年になるが、この座敷はあのときのまんまにしてある。襖ふすまも、屏風びょうぶも、掛け軸も、欄らん間まの額がくも……なあ、小竹さん」

「ほんになあ、二十六年といえば長いようでも、過ぎてみればすぐじゃえなあ」

老婆たちの眼には、過ぎ去った日を追うような影がほんのりとさした。そのとき横から美也子が口を出した。

「伯母さま、久弥さんは……?」

「ああ、久弥かいな。あれは病気で寝ているで、引き合わせるのは明日にしよ。あれももう長うはあるまい」

「まあ、そんなにお悪いんですか」

「久野の恒さんはまだ大丈夫大丈夫とゆうてるが、あんな藪やぶ医者に何わかる。この夏が越せるか越せぬか」

「御病気はなんですか」

私ははじめて口を開いた。

「肺病じゃがな。辰弥や、だからおまえにしっかりしてもらわにゃならん。春代も腎じん臓ぞうが悪うてな、子どもを産める当てはないのじゃえ。それでかたづいていた先からもどされたのじゃけん、おまえがしっかりしてくれぬと、この家はつぶれてしまうがな」

「でも、小梅さん、もう大丈夫じゃえなあ。こんなりっぱな子どもがかえってきたのじゃけん、跡取りの心配はもうのうなった。どこやらで大当てちがいをしてるやつがあるじゃろ。よい気味えなあ、ほっほっほ!」

「ほんに小竹さんのいうとおりじゃ。これでようようわたしも安心できる。ほっほっほ!」

薄暗い黄たそ昏がれどきの広い座敷で、二匹の猿のような老婆が声を立てて笑ったとき、私はまたゾーッと背筋が冷たくなるのを覚えた。それほど二人の笑い声のなかには、いままでのおだやかさとうってかわった、邪気と陰険さが露骨に現われているのであった。

こうして私はいよいよ、この山奥の、古い伝説と、なまなましい惨劇の記憶のつきまとう家に身をおくことになったのであった。

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