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八墓村-第二章 疑惑の人(10)

时间: 2022-06-05    进入日语论坛
核心提示:「さあ、それがまことにとりとめのないことで嘘うそだかほんとうだかよくわかりませんけれど、でも、ちょっと妙なことがありまし
(单词翻译:双击或拖选)

「さあ、それがまことにとりとめのないことで……嘘うそだかほんとうだかよくわかりませんけれど、でも、ちょっと妙なことがありましたのよ」

と、春代は人のよい調子で、次のようなことを語ってきかせた。

「この離れはたいてい締めきってあるのですが、それでも部屋が蒸れるといけませんから、三日に一度くらい開けることにしておりますの。ところがいまからふた月ほどまえ、私がお島と雨戸をあけにまいりますと、どうも変なところがありますの。だれかが入ってきたんじゃないかと思われるようなところがあるんですわね。でも、そのときは、わたしそれほど気にもとめませんでした。ところが、それから二、三日たってまた雨戸をあけにまいりますと、やっぱり変なところがあるんですの。たしかにだれかが入ってきたような……つまり、屏風の位置がほんの少しですがちがっていたり、違い棚の地袋がぴったりしまっていなかったり……それでいて、雨戸には少しも異状はないんですの。それでわたし、気の迷いかしらとも思いましたが、やっぱり気になるもんですからお島にも内緒でわざと地袋を少しあけておいたり、屏風の位置を畳のへりでちゃんときめたり……つまり、もしほんとうにだれかが入ってきて、地袋や屏風にさわったら、すぐわかるようにしておいたんですの。そして、その次の日、こっそり見にきたんですが……」

「変わったことがありましたの、地袋や屏風に……」

「いえ、その日はなんともありませんでした。それでわたし、やっぱり気のせいだったのかと思いましたが、それから二、三日たって来てみると……」

「来てみると……? どうかしたんですの」

「ええ……屏風のはしが畳のへりから外れており、地袋がぴったりしまっているんです」

「まあ!」

美也子と私は顔を見合わせた。

「それで雨戸にさわった形跡は……?」

「それがありませんの。わたしねえ、それを確かめると雨戸を開くまえに枢くるるをよく調べてみました。それから一枚一枚雨戸も調べてみましたが、枢はちゃんとおりていますし、無理に雨戸を外したような形跡はどこにもございませんの」

私はまた美也子と顔を見合わせた。

「この離れへ入ってくるのは、お庭からしか入れないのですか」

「ええ、そのほかには、さっきあなたが通っていらした十五間の長廊下しかございません。でも、あの長廊下には戸がしまるようになっていて、母おも屋やのほうから錠をおろすようになっております。その鍵かぎはふたつあって、ひとつはわたし、ひとつは伯母さまが持っているんですの」

「どなたかおうちのかたが……」

「いいえ、そんなはずはございませんわ。兄はあのとおり寝たっきりで、步くことさえできないような始末ですし、伯母さまがまさか……お島だってこんなところに用事のあるはずはありませんし……」

「変ねえ」

「変ですねえ」

「ええ、ほんとに妙なんです。わたしもなんだか気味が悪くなりましたが、うっかりそんなこと他ひ人とにいうわけにはまいりません。それでいろいろ考えたあげく、山やま方かたの平吉に頼んで、ここへ寝てもらうことにしましたの」

これはあとで知ったことだが、この広い屋敷のなかには奉公人の寝起きする建物が別に建っていて、そこには山方だの牛方だの河方だのというのがたくさん住んでいるのだった。山方というのは、山へ入って木をきったり炭を焼いたりする係り、牛方とはいうまでもなく牛の世話係り、河方というのは、舟に炭だの材木だのを積んでN駅まで運び出す係り、ちかごろではN駅まで運び出せばよいが、昔はずっと下まで河を下ったということである。

「それでどうでした。何か変わったことがございましたの?」

「それがねえ、平吉というのがたいへんな酒飲みでしてねえ、酒を振る舞うという条件で、ここに寝てもらうことにしたのですが、はじめの二、三日うちは何も変わったことはございませんでした。ところがたしか四日目でしたか、わたしが朝早く様子を見にくると、平吉がいないのです。それに見ると雨戸が一枚開いています。わたしびっくりして平吉を探したのですが、平吉は、自分の部屋へかえって頭から布団をかぶって寝ているんですの、それを起こしていろいろきいてみると、……」

「…………?」

私たちが無言のまま、春代の顔を見つめていると、春代はポッと頬を赤らめながら、

「つまり、その……真夜中ごろにその屏風の絵が抜け出したというんです」

「まあ!」

私たちは思わず屏風のほうを振り返った。

「この絵が……三人とも……?」

「いいえ、抜け出したのは一人だったそうです。なんでもお坊さんらしかったというのですが、果たしてどうでしょうか。まえにもいったとおり平吉は、たいへんな酒飲みで、酒を飲まないと寝られないのです。それもズブズブに酔うてしまうまで飲まないと承知ができないほうで……それですから、何をいうことやら取りとめはございませんが、真夜中ごろふっと眼をさますと、寝るまえにたしか電気を消しておいたはずだのに、どこからともなくほのかな光がさしこんでいた。それでおやとあたりを見回すと、屏風のまえにだれやら立っている。平吉はびっくりしてだれだと声をかけたそうですが、すると相手も驚いたらしくふっとこちらをふりかえったのですが、それがたしかにその絵のお坊さんだったというんです」

「まあ、おもしろいわね、それで平吉というひとどうしましたの」

美也子は膝を乗り出した。私も固かた唾ずをのんで春代の顔を見つめていた。春代はふっと笑いをふくんで、

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