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八墓村-第三章 八つ墓明神(8)

时间: 2022-06-05    进入日语论坛
核心提示:姉にしてすでにしかりとすれば、疑いぶかい警察官の猜さい疑ぎの眼が、いっせいに私の上に注がれるのも無理はない。私は大手、搦
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姉にしてすでにしかりとすれば、疑いぶかい警察官の猜さい疑ぎの眼が、いっせいに私の上に注がれるのも無理はない。私は大手、搦手からめてから、執しつ拗ような取り調べをうけた。あるいはまわりくどく、あるいは直接法に、係官の尋問は、あくなき苛か烈れつさでつづけられ、そのために私は、心身ともにへとへとになったのだ。

江戸時代にはうつつ責めという拷問法があったそうである。囚人をいくにちもいくにちも眠らせずにおいて心身ともに綿のごとく疲れ、虚きょ妄もう状態にあるところへつけこんで、あることないこと、白状させるのである。

その夜の係官の態度がそうであったというのではないが、うちつづく緊張と興奮の破は綻たんから私自身うつつ責めに会っている囚人みたいであった。ひょっとすると、自分は自分でも気がつかぬ怪物であって、どこかに第二の恐ろしい自分がひそんでおり、そいつが自分でも知らぬ間に、あのような、恐ろしいことをやってのけるのではあるまいか。……そんなつまらぬことさえ考えたのである。

私はもう少しのところで、

「そうです、そうです。何もかも私です。私のやった仕事なのです。さあ、こう白状したからには、もう、そう私をいじめないで……私をそっとしておいてください」

と、叫び出したいような心境にさえ追いこまれていたのだ。

それを救ってくれたのは、ほかならぬ金田一耕助であった。

「まあまあ、警部さん、この事件はね、だれが犯人であるにしろ、一朝一夕には解決しませんよ。なぜといって動機が皆かい目もくわかっていない。丑松さんの場合でも、久弥さんの場合でも、動機があるようで、じつはよくよく考えてみると、まるでないみたいなものです。こんどの洪禅さんにいたっては、全然、動機がわからない。犯人はいったい何をたくらんでいるのか。……それが判明するまでは、そうむやみに、短兵急に責めてもだめですよ」

金田一耕助という人物は、磯川警部に対して、不思議な勢力をもっているらしく、かれの一言によって、私はやっと、警部のするどい尋問のほこさきから、解放されることができたのだ。

磯川警部はにが笑いをしながら、

「いや、もう、実にやっかい千万な事件ですな。二十六年まえの事件も、恐ろしいことにかけては、前代未聞であったが、その代わり、まあ単純な事件であった。それにひきかえ、こんどの事件は、規模こそ小さいが、われわれを悩ませることにかけちゃ、まえの事件以上だ。畜生、親子二代にわたって、われわれに手をやかせるのか……」

それはさておき、洪禅さんの死体の見張りとして、ふたりの刑事をのこして、係官の一行がひきあげたのは夜ももう十一時過ぎのことであった。洪禅さんの死体は、明日N博士の到着するのを待って、この家で解剖されるのである。

係官がひきあげると間もなく、それまで、足止めをくっていた、初七日の客も、逃げるようにこそこそとかえっていって、ひろい屋敷うちは、潮のひいたあとのような、わびしさのなかにとりのこされた。

私はもう、なにをする勇気もなかった。なにかしら、みじめな想おもいが胸のうちに満ちあふれ、取りちらかした座敷のなかに、腑抜けのようにべったり座っていると、不覚の涙があとからあとからあふれてきた。

だれも私に言葉をかけてくれるものはない。台所のほうでガチャガチャと皿小鉢を洗う音がするが、闃げきとして人声はなかった。おそらくお島をはじめ手伝いの女たちは、今日の惨劇の話をしているのだろうが、私をはばかって大きな声を出すことさえひかえているのだろう。と、いうことは、その人たちの胸にも、私に対する疑いが、しだいに黒い根となってはびこっているのだろう。皿小鉢を洗う音さえ、どこかあたりをはばかるように……。

ああ、私は孤独だ。

だれも私の味方となって、やさしい言葉をかけてくれるものはない。……孤独の想いがひしひしと、切なく胸にみちあふれてきたとき、突然、私の想いを見抜いたように、

「いいえ、そうではありません。私はいつでもあなたの味方ですよ」

うしろから、そっと私の肩を抱いてくれたものがあった。

姉の春代だった。

姉はやさしく、私の肩をだきすくめ、

「だれがなんといっても、私だけはいつもあなたの味方ですよ。そのことだけは忘れないでね。私はあなたを信じています。いいえ、信じているというよりも、私は知っているのです。あなたがそんな恐ろしいかたでないことを……」

このときほど、私はひとの情けを身にしみて感じたことはなかった。私は思わず、子どものように、姉の胸にすがりついた。

「姉さん、姉さん、教えてください。ぼくはいったい、どうすればいいのです。ぼくがここへ来たのがいけなかったのでしょうか、もし、それならば、ぼくはいつでも神戸へかえります。姉さん、教えてください。ぼくはどうすればいいのです」

姉はやさしく私の背中をなでながら、

「まあ、神戸へかえるなんて、そんな気の弱いことはいわないで……あなたはこのうちのひとなのだから、ここへ来るのに、なに不都合なことがありましょう。いつまでも、ここにいてもらわねばなりません……」

「しかし、姉さん、ぼくが来たために、あのような恐ろしいことが次々と起こるとしたら、ぼくは一刻もここにいることはできません。姉さん、教えてください。だれがあんなことをするんです。そして、それとぼくとのあいだにどのような関係があるんです」

「辰弥さん」

姉は声をふるわせて、

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