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八墓村-第三章 八つ墓明神(9)

时间: 2022-06-05    进入日语论坛
核心提示:「そんなつまらないことを考えないであなたとあのような恐ろしい事件とのあいだに、なんの関係がありましょう。そのことは、兄の
(单词翻译:双击或拖选)

「そんなつまらないことを考えないで……あなたとあのような恐ろしい事件とのあいだに、なんの関係がありましょう。そのことは、兄の場合でよくわかっているじゃありませんか。あなたにいつ、薬の包みをすりかえる機会があって? ここへ着いたばかりのあなたに……」

「でも、でも、警察のひとびとは、そういうふうに考えてくれません。あのひとたちは、ぼくがまるで、悪魔の妖術ようじゅつを心得ているように考えているのです」

「それもこれも、みんな血迷っているからです。いまに冷静になれば、だんだん誤解もとけますわ。辰弥さん、けっして悲観したり、捨て鉢になったりしないで……」

「姉さん!」

私はなにかいおうとしたが、声がのどにつまって、あとの言葉が出なかった。姉もしばらく黙っていたが、やがて思い出したように、

「そうそう、辰弥さん、あなたこのあいだ、妙なことを私にきいたわね」

「妙なこと?」

「ええ、そう、だれかちかごろこの村を離れて、どこかへ旅行をしたものはないかと……あれはいったいどういう意味でしたの」

何かしら、思い当たる節のあるらしい声こわ音ねに、私ははっとして姉の顔を見直した。姉は疲労のためにむくんでいたが、キラキラとかがやく瞳ひとみのなかには、なにかしら強い想いがひそめられていた。

私はそこで、つつむところなく、いつか神戸で、私の素行品性を、尋ねてまわっていた男のことを打ち明けた。そしてそれは、私を探しあてた、諏訪弁護士も関知しない人物で、しかも、田舎のひとらしかったと付け加えた。

姉はまあと眼をみはり、それはいったい、いつごろのことかとききかえした。そこで私が指折りかぞえて、だいたいのひにちを思い出すと、姉は指を折って日数をくっていたが、やがて、しだいに息を弾ませると、

「やっぱりそうだわ。ちょうどその時分だった……」

と、姉はにわかに膝をすすめて、

「辰弥さん。このあいだあなたは、この村のものとおっしゃったでしょう。だから私はうっかりしていたけれど、この村のものではなく、しかし、この村とたいへん縁の濃いひとが、ちょうどそのころ旅立ちをしているのです」

「だれです。姉さん、それはだれですか」

「麻呂尾寺の英泉さん……」

私はギョッとして、姉の顔を見直した。何かしら、脳天から大きな楔くさびをうちこまれたような感じであった。

「ね、姉さん、そ、それはほんとうですか」

私の声は思わずふるえた。

「ほんとうですとも。けっしてまちがいではありません。さっき英泉さんが、あなたに向かって変なことをいったでしょう。私はあのとき腹が立ってたまらなかったから、夢中になって食ってかかったのですが、そのとき、ハッと思い出したのです。英泉さんが、先月のはじめ、五、六日寺をあけて、どこかへ旅行したことを……」

私はなにかしら、ゾッとするような想いに胸を吹かれた。興奮のために、歯がガタガタと鳴る感じだった。

「姉さん、姉さん、英泉さんというのはどういうひとです。なにかこの家に関係のあるひとですか」

「とんでもない。あのひとは終戦後間もなく、麻呂尾寺へころげこんできたひとで、以前は満州のお寺で、布教にあたっていたということです。麻呂尾寺の長英さんとふるいおなじみらしく、長英さんが御病気なので代理をつとめているのですが、どこのどういう素性すじょうのひとか、私はちっとも存じません」

もし神戸へ現われた人物が、真実英泉さんであるとしたら、あのひとはなぜ、そんなことをするのだろう。どうして私にそのような関心を持つのだろう。……

「姉さん、英泉さんはこの事件について、何か知っているのではありますまいか。今日のあのひとの恐ろしい言葉からしても……」

「きっとそうにちがいありません」

姉はキッパリと、

「それでなくて、あのような恐ろしい言葉が出るはずがありません。英泉さんはあとで、あまりの恐ろしさに逆上したのだといってましたね。逆上は逆上にちがいなかろうけれど、いかに逆上したからといって、心にもないことが、口をついて出るはずがありません。辰弥さん、あなたはあのとき英泉さんが口走った言葉を覚えているでしょうね」

どうしてそれを忘れることができようか。私はそのときの恐ろしい想いに身ぶるいしながら、無言のままうなずいた。

「あなたはあの言葉のうちに、何か思いあたることはありませんか。英泉さんはむろん、なにか勘ちがいしているのにちがいありませんが、その勘ちがいのいわれとなりそうなことを……」

むろん、私にはなんの思いあたる節もなかった。

私はいまさらのように、この村における、自分の心細い立場を思い、悄然しょうぜんとうなだれていたが、そのとき、お島が入ってきた。

「あの辰弥さま……」

お島は敷居ぎわに手をつかえて、

「御隠居さまがたが、ちょっと……」

「あら、そう、じゃいますぐにまいりますって……」

姉の春代が立ちかけるのを、お島はおしとめるようにして、

「いえ、あの、奥さまはおよろしいそうで……辰弥さまだけにちょっと……」

姉と私は、思わず不審の眼を見交わした。

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