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大金块-最后的胜利

时间: 2021-10-30    进入日语论坛
核心提示:最後の勝利 二少年は、たがいに身をすりよせて、手をにぎりあって、胸をドキドキさせながら、立ちすくんでいました。まるでへび
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最後の勝利


 二少年は、たがいに身をすりよせて、手をにぎりあって、胸をドキドキさせながら、立ちすくんでいました。まるでへびにみこまれたかえるのように、逃げだす力さえなくなってしまったのです。そういえば、くらやみの中に光っている懐中電灯は、とほうもなく大きな毒へびの目のようにさえ感じられるのでした。
 そのぎらぎら光るへびの目は、刻一刻こちらへ近づいてきました。ああ、もう運のつきです。とうとうつかまってしまったのです。
 小林君も不二夫君も、いよいよ覚悟をきめました。そして、口をきくかわりに、にぎりあっていた手に、ぎゅっと力をこめて、最後のわかれをつげるのでした。
 すると、そのとき、じつに思いもよらぬことが起こりました。
「おお、不二夫、不二夫じゃないか。」
「あ、やっぱりそうだ。小林君だね。」
 とつぜん、ぎらぎら光るへびの目のうしろから、そんなさけび声が聞こえてきたのです。
 意外も意外、ふたりの少年にとっては、たましいもしびれるほどうれしい意外でした。それは賊ではなかったのです。賊どころか、味方も味方、さがしてさがしぬいていた明智探偵と宮瀬氏だったのです。
 二少年の口から、なんともいえない喜びのさけび声がほとばしりました。そして、小林君は明智先生の胸をめがけて、不二夫君はおとうさんの宮瀬氏の胸をめがけて、おそろしいいきおいで飛びついていきました。
 先生と弟子と、父と子とは、そのくらやみの中で、ひしとだきあったまま、しばらくは口をきくこともできませんでした。やがて、はげしいすすり泣きの声が聞こえてきました。不二夫君が、あまりのうれしさに、とうとう泣きだしてしまったのです。
 あとで聞きますと、明智探偵と宮瀬氏は、二少年のゆくえをさがして、長いあいだ、地底の迷路をさまよったあげく、知らず知らずほら穴の入り口にたどりついたのです。すると、ちょうどそこへ、小林君たちも来あわせていたというわけでした。なんという幸運でしょう。やっぱり神さまは正しいものをお見すてにはならなかったのです。悪いやつは、いつかはほろび、正しい者は、いつかは、しあわせにめぐりあうのです。
 しかし、うれしさにむちゅうになっているばあいではありません。いつ賊がもどってくるかもしれないからです。小林君はそこへ気がつきましたので、明智探偵と宮瀬氏に、てみじかに、ことのしだいを語りました。
 それを聞いたふたりのおどろきは申すまでもありません。
「ああ、また、きみたちにてがらをたてられてしまったねえ。金貨が見つかったというのも、そんなおそろしい水ぜめにあいながら、少しもくじけなかった、きみたちの勇気のたまものだよ。えらかったねえ。ことに不二夫君は、よくがまんしましたね。」
 明智が、年下の不二夫君をほめれば、宮瀬氏は、それもまったく小林君のおかげです、小林君は不二夫のいのちの親ですと、明智探偵の名助手をほめたたえるのでした。
「でも、その金貨は賊が横どりしようとしているのです。船でどっかへはこぼうとしているのです。先生、どうかして、あいつらをとらえるわけにはいかないでしょうか。」
 小林君は何よりも、それが気がかりでした。
「それならば安心したまえ。ぼくは今、うまいことを考えついたんだ。たとえ相手が何人いようとも、きっととらえてみせるよ。宮瀬さん、ご先祖の小判一枚だって、賊の手に渡すようなことはしませんから、ご安心ください。さあ、それじゃ、賊がもどってこないうちに、急いで外へ出よう。」
 明智探偵は何か考えがあるらしく、たのもしげにいって、さきに立ってほら穴の入り口へと進むのでした。
 それから、四人はせまい入り口をはいだして、なつかしい太陽のかがやく地上の世界へ、もどりました。もう夕方です。考えてみれば、おひるまえから六、七時間の長いあいだ、地底のくらやみをさまよっていたわけです。
 明智探偵は、しばらくあたりを見まわしていましたが、ほら穴の入り口から二十メートルほどのところに、大きな岩が立っているのを見つけて、一同をつれてその岩かげに身をかくしました。
 そして、四人のものは、賊が千両箱をはこびだすために、もどってくるのを、待ちかまえていたのです。
 岩かどから、そっとのぞいていますと、それとも知らぬ賊の一団は、覆面の首領を先頭に、どこからか姿をあらわし、岩穴の中へはいって行くのが見えました。
 明智探偵は、賊の最後のひとりがその中へ消えるのを見とどけて「さあ、今だ。」と、人々をうながし、大急ぎでほら穴の入り口へかけつけました。
 読者諸君は、四人が最初その場所を発見したとき、ほら穴の入り口が大きな岩でふさいであったことをご記憶でしょう。あの大岩はそのまま入り口のそばにころがっていたのですが、明智探偵は、いきなりそれに近づいて、大岩に両手をかけ、
「さあ、みんな、力を合わせておしてください。もとのように穴をふたしてしまうんです。」
と、ささやき声でさしずしました。
 ひとりやふたりの力では、とても動かないのですが、四人がいっしょうけんめいにおしたものですから、さすがの大岩もやっと動きだし、まもなく、ほら穴の入り口をぴったりとふさいでしまうことができました。
 ああ、なんといううまい考えでしょう。これでいっさいすんでしまったのです。賊と格闘したり、なわでしばったり、そんなめんどうな手数をかけないで、大岩一つで、五人のものを完全にとりこにしてしまったのです。さすがに名探偵ではありませんか。
「小林君、わかるかい。これは理科の問題だよ。こうしておけば、中からはどうしても、この岩をおしのけることができないのだ。なぜかというとね、穴の入り口のところは、立って歩けないほどせまいので、中からこの岩をおすにしても、たったひとりしか手をかけることができないからだよ。いくら力の強いやつでも、ひとりでこの岩を動かすなんて、思いもよらんことだからね。」
 明智探偵が説明しました。なるほど、穴のそとでは、四人が力を合わせることができたので、さしもの大岩も動いたのですが、せまい穴の中からでは、いくらおおぜいいても、岩をおすことのできるのはひとりだけですから、とても動かせるものではありません。
「こうしておいて、ぼくたちは賊の船で長島の町へ帰るんだよ。そして賊の捕縛は、町の警察へお願いするんだ。なあに、見はり番なんかのこしておくことはないよ。たとえこの岩が動かせたとしても、船がなくては、どうすることもできゃしない。まさか、あの遠くの海岸まで泳ぐわけにもいくまいからね。」
 何から何まで、じつにうまくできていました。四人は、れいの漁師のじいさんの小船を待つまでもなく、賊の船をうばって町へ帰ることができるのです。しかも、そうすれば、賊はこの島から一歩も逃げだせなくなるのですからね。
 賊の船はわけもなく見つけることができました。四人の探検隊が上陸したのと反対がわの、島の切り岸に、一そうのりっぱなランチがつないであったのです。まっ白にぬった、窓の多い客室がついていて、へさきには美しいローマ字で「カモメマル」としるしてありました。
 船の中に賊の部下がのこっているかもしれないと、用心しながら近づいてみますと、客室も機関室も、まったくからっぽで、人っ子ひとりいないことがわかりました。賊は一刻も早く千両箱をつみこもうと、総動員でほら穴へ出かけたのです。
 四人は美しい「カモメマル」に乗りこみました。明智探偵が機関をしらべて、すぐさま運転をはじめました。名探偵はそういう技術も、ちゃんとこころえていたのです。
 ランチは岸をはなれ、青海原を、はるかの長島町にむかって、すばらしい速力で走りだしました。
 晴れわたった青空のかなたに、まっかにもえた夕やけ雲が、たなびいています。そよそよと吹く潮風、音楽のようにこころよい機関のひびき、白波を二つにわけて、矢のように走る「カモメマル」のへさきには、小林、宮瀬の二少年が、肩をくみあって、はるかの海岸をながめながら、立っていました。声をあわせて唱歌を歌ったり、口笛を吹いたり、そのほおは夕焼け雲にてりはえて、つやつやと希望の色にかがやいていました。

 覆面の首領をはじめ、五人の賊が、その日のうちに、長島町の警察署の手で捕縛せられたことは申すまでもありません。そして、覆面の首領が美しい女であることもたしかめられたのですが、しらべてみますと、この女賊は、数年のあいだ、東京、大阪をまたにかけて、数かぎりない悪事をはたらいていたことがわかりました。
 日本全国の新聞が、この大事件を社会面いっぱいに書きたてました。無人島の地底にうずまっていた時価一億円の大金塊、これに希代(きだい)の女賊がからみ、名探偵明智小五郎とかれんな二少年の冒険談がつけくわわっているのですから、新聞記事としては、じつに申しぶんのない大事件でした。
 宮瀬氏が手に入れた金貨や金のかたまりを、ことごとく大蔵省におさめたことはいうまでもありませんが、一どきに一億円という大金塊が、国の金庫へおさまったのですから、政府の感謝、国民の喜びはことばにつくせぬほどでした。大蔵大臣は、わざわざ宮瀬氏を官邸に呼んで、ていちょうな感謝の意を表したほどでありました。
 宮瀬氏は、金塊と引きかえに、政府からさげわたされた、ばくだいなお金も、けっして自分のものにしようとはせず、学校を建てたり、病院を建てたりして、あくまで世間のためにつくす考えでした。
 名探偵明智小五郎は、この事件によって、いっそう、その名声を高めましたが、宮瀬氏のひょうばんは明智探偵以上でした。
 しかし、そのふたりのおとなのりっぱな行ないよりも、もっともっと世間の人を喜ばせたのは、小林君と不二夫君の、手に汗にぎる冒険談でした。大金塊を見つけたのも、賊をとらえたのも、つまりは二少年のいのちがけの冒険のおかげなのですから、そのひょうばんは、たいしたもので、小林、宮瀬二少年の名は、日本全国津々浦々(つつうらうら)にまでひびきわたったのでした。

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