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地狱风景-嫌疑人

时间: 2021-10-14    进入日语论坛
核心提示:被疑者 その朝、殆ど時を同じうして、麗子は迷路の中心で、二郎少年はメリー・ゴー・ラウンドの木馬の上で、折枝は空中の風船か
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被疑者


 その朝、殆ど時を同じうして、麗子は迷路の中心で、二郎少年はメリーゴーラウンドの木馬の上で、折枝は空中の風船から墜落して惨死(ざんし)をとげた。麗子を殺した兇器は、ちま子と同じ怪短剣、二郎少年を殺したのは弾丸、折枝は風船の綱が切れて落たのだけれど、これも何者かが彼女を殺す為に、その綱を切断したのかも知れぬ。
 いや、「知れぬ」ではない。それに違いないことが間もなく分った。
 警察や検事局の人達がやって来て検屍を済ませ、死体が室内に運び去られたあとで、木島刑事の発議で風船が地上へ引きおろされた。繩梯子の切口を調べる為だ。
 銀色の巨大な風船玉が、瓦斯(がす)を抜かれて、くらげみたいに地上に(よこた)わった。
「やっぱりそうだ。この切口をごらんなさい。決して自然に切れたものではない。何か鋭利な刄物でたち切ったあとです」
 刑事の言葉に一同そばへ寄って、繩の切口を見ると、成程、プッツリと一思いに切れている。
「併し、まさか折枝さんが自分で繩梯子を切る筈はないから、風船には(ほか)に下手人が乗っていたと考えなければなりません。ところが、この子供も、子供の知らせで驚いて飛び出して見た炊事係の婆さんも、折枝さんが落たあとの風船には、誰も乗っていなかったというのです。僕が駈けつけた時にも、折枝さんが墜落してから二三分しかたっていなかったのですが、風船の附近には誰もいなかった。とすると、この綱は、いつの間に、誰が、どうして切ったのでしょうね」
 恋人を失った大野雷蔵が、青い顔をして、さも不思議そうに云った。
「サア、それですて。私も今それを考えていた所ですよ」
 木島刑事が、意味ありげに答えた。彼は(すで)に何事かを悟っている様子だ。
 それから、一同建物の一室に引上げて、検事の取調べを受けたが、詳細に書いていては退窟だから、重要な部分丈けを抜き出して(しる)して置く。
 ()ず第一に、三谷少年の臨終の言葉に従って、彼の日記帳が調べられた。
「今夜、山の下で青い顔をした麗子さんに逢った。どうしたのかって聞くと、誰にも云っちゃいけないと云って、若しあたしが死んだら、その下手人は譲次なんだから、あんたよく(おぼえ)といて、刑事さんに告げて下さい。と変なことを云った」
 日記帳にはこんなことが書きつけてあった。そして、そのあとに、今度の犯罪についての二郎少年の感想がつけ加えてある。
「誰も気がついていない様だが、僕は譲次さんが、例のちま子さんの胸にささっていたのと同じ短剣を、沢山(たくさん)持っていることを知っている。僕は最初からあの前科者の譲次を疑っていたのだ。やっぱりそうだ。今夜の麗子さんの言葉で僕の考えが愈々(いよいよ)本当らしくなって来た。皆にこのことを教えてやろうかしら。だが、麗子さんは誰にも云うなと云った。あの人の言葉にそむくのはいやだ。アア、どうしたらいいのだろう」
 湯本譲次は迷路の中心で、麗子の死骸を写生していたという事実丈けでも、充分嫌疑をかけられていた上、今又こういう証拠物件が現われた。彼は最早(もはや)のがれるすべはないのだ。
 誰しも譲次が下手人だと信じた。殺人の動機が判明していなかったし、一人の男が同時に三ヶ所で、しかも一つは空中の風船の上、一つは複雑な迷路の中という風に、ひどく飛び離れた場所で、三重の人殺しを犯したなんて、何だか本当らしく思えなかったけれど、そういう点を除くと、譲次が最も濃厚なる嫌疑者であることは、誰も疑わなかった。
 検事は譲次を前に呼び寄せて、鋭い質問をあびせかけたが、彼は何事も知らぬ存ぜぬの一点張りでおし通した。
 検事は更に治良右衛門、木下鮎子、大野雷蔵、餌差宗助などをも取調べたが、これという程の発見はなかった。
 その朝、三重の殺人事件が起った時間には、治良右衛門は例によって観覧車の箱の中に、鮎子と雷蔵とは、建物の中の各自のベッドに、まだグーグー寝ていたことが明かになった。それぞれ証人があって、一点の(うたがい)を挟む余地もなかった。
 脊むしの餌差宗助は、早起きの男で、その朝も五時頃から起き()で、園内を見廻っていたと申立てたが、園内といっても山あり川あり広い場所のこと故、犯罪の行われた時分、彼がどこで何をしていたかは、誰も目撃したものがなかった。つまり彼にはアリバイとなるべき証人がなかったのだ。
 右の人達の外に、花火係りのKという男が検事の取調べを受けたことは注意すべきだ。
「君は今朝六時頃に花火を打上げていたということだが、そんなに早くから、何の為に花火なんぞを上げていたのだね」
 検事が尋ねた。
「ヘエ、それが私の仕事なんで、毎日、朝の六時から夕方の六時まで、ひっきりなしに昼花火を打上げているのが、私の役目なんです」
 四十男のKが、黒く汚れた仕事服で答えた。
「それは園主の云いつけなのかね」
「それは私が命じているのです」喜多川治良右衛門が引取って答えた。「御承知の通り風変りな遊園地です。朝っぱらから花火を打上げたところで、不思議はないのです。私達はあのポーン、バリバリバリという威勢のいい音と、花火玉が割れて降って来る風船の雨が、たまらなく好きなのです」
 検事は苦笑しながら、更に花火係のKに向直って、質問を続けた。
「君は六時前後に、何か怪しい人物を認めなかったかね。君の花火の筒は丁度迷路の裏側にあった筈だね」
「私の持場へは誰も来ませんでした。怪しい人物にも何にも朝の間は人の影さえ見ませんでした」
「迷路の中から人の叫び声は聞えなかったかね」
「ヘエ、それも、少しも気がつきませんでした。丁度花火の音に消されて、私の耳に入らなかったのかも知れませんが」
 この花火係を最後にして、一通り取調べが終った。結局湯本譲次が犯人であることを打消す様な事実は何も現われなかった。
 例の地底の血の池地獄のそばに隠してあった十数本の怪短剣が、二郎少年の日記帳と共に、証拠品として押収された。そして、当の湯本譲次が唯一の被疑者として引致(いんち)せられたことは云うまでもない。

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