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地狱风景-日记本和远视镜

时间: 2021-10-14    进入日语论坛
核心提示:日記帳と遠眼鏡 つまり、その朝、ジロ楽園には、殆ど時を同じうして、三つの殺人が行われたのだ。原田麗子は迷路の中心で、三谷
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日記帳と遠眼鏡


 つまり、その朝、ジロ楽園には、殆ど時を同じうして、三つの殺人が行われたのだ。原田麗子は迷路の中心で、三谷二郎はメリーゴーラウンドで、人見折枝は風船で。
 朝寝坊の同人(どうにん)達の中で、三谷少年丈けは例外の早起きであった。その朝も、彼は午前六時頃寝室を抜け出して早朝の楽園を駈廻っていたが、メリーゴーラウンドの側を通りかかった時ふと乗って見たくなったので、一人でスイッチを入れてそれを廻転させ、一匹の木馬に飛乗った。
 奇怪な木彫りの裸馬が十数頭、ガクンガクンと首を振りながら、ゴロゴロ、ゴロゴロ廻り始めた。
 三谷少年は手綱(たづな)を握って、お尻を前後にゆすぶりながら、ハイシイ、ドオドオ、裸馬共と競争だ。
 あたりには、木馬館の附近は勿論(もちろん)、見渡す限り人影もなかった。すがすがしい朝の風が、スーイスーイと頬をかすめる音の外には小鳥の声さえ聞えなかった。
 ところが、木馬がやがて十廻転もした時分、突然、その静寂を破って、ビューンという(はげ)しい唸り声が起ったかと思うと、二郎は胸の中へ棒を刺された様な、恐ろしいショックを感じた。
「ギャッ!」
 という悲鳴が思わず(ほとば)しった。と同時に、彼は廻転中の木馬から、真逆様(まっさかさま)に転落して、地面に叩きつけられた。
「誰だッ」叫んでも答えるものはなかった。
 不思議、不思議、見渡す限り人影もないのにどこからともなくピストルの(たま)が飛んで来て、少年の胸を射抜いたのだ。
 木下鮎子と餌差宗助が、虫の息の三谷少年を発見したのは、それから一時間もたってからであった。
 血と泥でお化けみたいに汚れている少年を抱き起して、
「誰が撃った、誰が撃った」と下手人を尋ねると、少年は(わずか)に口を動かして、
「分らない。……日記帳、日記帳」
 と(つぶや)いたまま、グッタリとなってしまった。それ以上物を云う気力がないのだ。そこで、あとを鮎子に頼んで置いて、宗助が急を告げに走ったという次第であった。
「日記帳といったのは、いつも二郎さんがつけている日記帳のことではないかしら。それを読んで見れば、何か分るかも知れませんわ」鮎子がかしこくも推察した。
「その日記帳のありかをご存じですか」木島刑事は聞きのがさぬ。
「エエ知ってます。二郎さんの寝室の机の抽斗(ひきだし)にしまってある筈です」
「じゃ、すぐそこへ案内して下さいませんか。早く調べて見たいと思いますから。……喜多川さん、あなたは先へもう一人の死人を見て上げて下さい。僕もじき行きますから」
 そして、刑事と鮎子は三谷少年の寝室へ、治良右衛門は二三の傭人を引連れて、風船の方へ急いだ。
 飛行船形の軽気球は、楽園の一隅、とある小山の上に繋留(けいりゅう)してあった。近づくに従って、その風船から地上に垂れている繩梯子(なわばしご)の一方の綱が切れて、梯子の形を失い、残る一本の綱でやっと風船をつなぎとめている事が分った。
「アア、繩梯子が切れたんだな」
 治良右衛門は誰にともなく呟いた。
 現場へ来て見ると、そこにも傭人達の人山が出来ていた。
「大野君、大野君はいないか」
 声に応じて、群集の中から、雷蔵の顔が現われた。
「アア、喜多川君、見てくれ給え、これだ。ひどいことになるもんだね」
 雷蔵は半泣きの渋面(じゅうめん)を作って云った。
 指さす箇所を見ると、折枝の死体が横たわっている。なる程ひどいことになるもんだ。力まかせに投げつけられた饅頭(まんじゅう)みたいに、彼女の死体は大地にメリ込んで、グシャッと押しつぶされていた。
「オヤ、この人は双眼鏡を握っているね」
「ウン、それで何かを見ていたんだ。そして、風船から()り様として、繩梯子に足をかけるかかけないに、突然弾丸の様に墜落してしまったんだ」
「すると、君は見ていたのかい」
「イヤ、僕が見たら、今までうっちゃって置きゃあしない。子供が見たんだ。炊事場の婆さんの小せがれが見たというんだ。この子だよ」
 雷蔵が六七歳の男の子の頭を押さえて見せた。
「どうも誠にすまねえことでございます。子供の云うことだで、気にも止めねえでいましたら、やっぱりこんな恐ろしいことが……」
 子供の母親が、(しき)りと()び言をするのを聞き流して、治良右衛門は鼻たれ小僧の頭をなでながら、質問を始めた。
「坊や、いい子だね。この姉ちゃんが、風船の上で、遠眼鏡を見ていたのかい」
「ウン、そうだよ。一生懸命に見ていたよ」
 子供は存外ハッキリ答える。
「どっちの方を見ていたの?」
「あっちの方」
 子供の指さす方角には、例の殺人迷路があるばかりだ。
「あっちだね。間違いないね」
「ウン、あっちばかり見ていたよ」
「大野君、折枝さんは風船の上から、ラビリンズを研究していたのかも知れない。上から覗けば、迷路の地図が、ハッキリ分るからね」
「だが、朝っぱらから、何を酔狂にそんなことを」
「イヤ、ひょっとしたら、この風船の上からは、麗子さんの殺される光景が、手に取る様に見えたかも知れないぜ。おばさん、それは一体何時だったの」
「この子が、(おち)た落たと云って帰って来たのは、あれは確か六時頃でございました」
「六時、……やっぱりそうかも知れないね」
「坊や、それでどうしたの。この姉ちゃんは、何かびっくりした様な風はしなかったかい」
「ウン、何だか大きな口を開いて喋舌(しゃべ)っていたよ。それから、いそいで降りて来たよ」
「喋舌っていたって、風船には(ほか)に誰もいなかったのだろう」
「ウン、誰もいなかったよ」
「じゃ、なぜ喋舌ったりするんだろう。アア、分った。坊や、姉ちゃんは、大きい口をあいて、叫んだのだね。アレエとか、助けてくれエとかいって」
 だが、子供は困った様な顔をして黙っていた。
「ウン、よしよし、坊やには少し難しすぎる。だが、大野君、これは僕の想像が当っている様だね。それから坊や、どんなことがあったの?」
 治良右衛門が質問を続ける。
「それから、綱が切れたんだよ」
「どうして?」
「知らないや。でも、プツッと切れちゃったんだよ。それから、姉ちゃんが、さかとんぼになって、スーッと落て行ったんだよ。早かったよ。見えない位早かったよ」
 子供は自慢らしく、息をはずませて報告した。
 繩梯子の綱が切れたのは、偶然であったか。何かそこに恐ろしい意味が隠されていたのではないか。殆ど時を同じうして、三人の変死事件が突発した。偶然の一致にしては余りに奇怪である。これは恐らく別々の事件ではない。(この)一連の血腥(ちなまぐさ)椿事(ちんじ)の裏には、同じ動機が……たった一人の犯人が、隠れているのではないだろうか。

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