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地狱风景-旋转木马

时间: 2021-10-16    进入日语论坛
核心提示:メリー・ゴー・ラウンド「なる程、こういう次第でしたか」 泥棒姿の木島刑事が、喜多川治良右衛門の肩をポンと叩いて云った。 
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メリーゴーラウンド


「なる程、こういう次第でしたか」
 泥棒姿の木島刑事が、喜多川治良右衛門の肩をポンと叩いて云った。
 ちぎれたマラソン選手達の化猫踊りも、だんだん勢がなくなって、いつしか動かなくなっていた。池なす血潮に、ヒラヒラと降る紙の雪が、落ては濡れていた。
「アア、木島さんでしたか」
 巡査の制服を着た治良右衛門が、静かに振向いて、ニヤニヤ笑った。
「そのピストルには実弾がこめてあるのですか」
 流石に刑事は、身構えをして、固くなって尋ねた。
「こめてあるかも知れません。併し、ご安心なさい。お(かみ)の方々に手向いは致しませんよ」
「フン、手向いしようたって、させるものか。神妙(しんみょう)にしろ」
 刑事は弁慶縞(べんけいじま)のふところから捕繩(ほじょう)を出した。
「イヤ、待って下さい。僕はまだ仕事が終っていないのです。それに、少しお話したいこともありますから。……………………決して逃げ隠れはしません」
 木島氏はそれでも繩をかけようとは云えなかった。そんなことをすれば、相手に笑われ相な気がしたのだ。何だか恥かしかったのだ。それ程も、楽園の光景は気違いめいていたし、犯人治良右衛門は落つきはらっていたのだ。
「僕は人殺しをする為に、この楽園を作ったのですよ。刑事さん。そして、最初の間は一人ずつ、今日は一まとめにという訳です。人殺しというものが、どんなに美しい遊戯であるか、あなたにもお分りでしたろう。これは僕等の先祖のネロが考え出した世にもすばらしいページェントなのですよ」
「話したいことと云うのは何だ」
 刑事が青ざめた顔で怒鳴った。
「外でもありません。この間から僕が仲間の人達を、一人一人殺して行った方法です。あなたはその秘密がお分りですか」
「そんなことはどうだっていい。君が下手人に極り切っているのだから」
「ハハハハハハ、お分りにならないと見えますね。では種明かしをしましょうか」
「あとでゆっくり聞こうよ。今はそんなこと云っている場合じゃないからね」
 刑事はせいぜい意地悪な調子を出すのに骨折らねばならなかった。
「イヤ、今お話して置かないと、具合の悪い事情があるのです。マア聞いて下さい。あなたになら一口で分るのです。手品の種というのはあの観覧車なのですよ」
 治良右衛門は空にかかっている観覧車の箱を指さした。
「僕があの高い空の箱の中を寝台にしていたことです。あすこにいればアリバイもなり立ちますし、同時に、園内はすっかり見通しですから、あの箱の窓から鉄砲の狙いを定めて、どこにいる人でも撃ち殺すことが出来たのです」
 それを聞くと刑事が不審相な顔をした。いまいましいけれど眉をしかめないではいられなかった。
「ハハハハハハハ、あなたはまだお分りにならないと見えますね。迷路の中で殺された女達は、短剣で刺されていたではないか、とおっしゃるのでしょう。短剣がどうして鉄砲で撃てるのだ、とおっしゃるのでしょう。……ところが、撃てるのですよ。僕はあの短剣を、鉄砲に仕込んで発射したのですよ。なんとうまい考えではありませんか。それは短剣の形をよく見て下されば、成程と(うなず)けますよ。あれには(つば)がなく、柄から刄先まで同じ太さで、その(うえ)柄の部分には、銃身の螺旋(らせん)としっくり合うネジネジが彫刻してあったのですからね。ハハハハハ、短刀を発射するなんて、実にすばらしい思いつきじゃありませんか」
 園内は大げさに云えば一間先も見分けられぬ程、五色の雪が降りしきっていた。来客達は例外なくグデングデンに酔っぱらっていた。花火の音とジンタ楽隊の(ひびき)が、あらゆる物音、叫び声をうち消してくれた。それ故、この不思議な殺人狂と刑事とは、誰に怪しまれる事もなく、変てこな会話を続けることが出来たのだ。
 だが、それには際限があった。丁度そこまで話した時、雪の中を一人の酔っぱらいが、千鳥足でやって来た。そして、地上にころがっている、(おびただ)しい死骸につまずいた。
「ワアアアア、これはどうだ。なんてすばらしい生人形だろう。オヤ、そこにいるのは喜多川さんだね。イヤ、ご趣向恐れ入りました。ジロ楽園バンザアイ……」
 彼は両手を上げて、殺人鬼を祝福した。
 それをきっかけに、木島刑事は我に返った。そして、普通の刑事の様に、素早い動作で犯人に飛びかかって行った。治良右衛門の手からピストルが叩き落された。捕繩が蛇の様に纒いついて来た。
「オット、まだ早い。まだ早い。僕はまだ仕事が残っていると云ったじゃありませんか」
 治良右衛門は捕繩をはねのけて、刑事をつきとばすと、吹雪の中を、一目散に逃げ出した。帯剣をガチャガチャ云わせながら。
 泥棒姿の刑事は、云うまでもなく追っかけた。
 二人は園内を彼方此方(かなたこなた)へと、つむじ風の様に走った。
 逃げる治良右衛門の目の前に、グルグル廻るメリーゴーラウンドがあった。誰も乗っている者はなく、ただ十数匹の木馬丈けが、ガクンガクン首をふりながら、グルグル、グルグル廻っていた。
 彼はいきなりその廻り舞台に飛び乗った。木島刑事も飛び乗った。
 そして、二人とも木馬の廻る方向へ、木馬の三倍の早さで、グルグル、グルグル走り出した。奇妙な鬼ごっこ。
 制服のお巡りさんを泥棒が追っかけている。それが丸い台の上をグルグル廻っているものだから、お巡りさんが追っかけられているのだか、泥棒が追っかけられているのだか分らなくなる。風体(ふうてい)で判断すると、泥棒の木島刑事が逃げ手で、警官姿の治良右衛門が追手(おって)としか見えぬのだ。
「さっきの話の続きですがね」
 目の廻る様に走りながら、治良右衛門が大声で追手に話しかけた。
「迷路の殺人はまあそう云った訳なのですが、では、最初人見折枝が迷路の中で出逢った小柄の男は一体誰か、とお尋ねなさるでしょう」
 刑事は、そんなこと聞きやしないよと、だんまりで、息を切らしながら、一生懸命に追っ(かけ)ている。どうも少からず馬鹿にされている形だ。
「あれは三谷二郎少年だったのですよ。あの子供が迷路の中に遊んでいて、ちま子の死骸を一番早く発見したのです。そして疑われることを恐れて、逃げ隠れなんかしたんです。僕はそれを観覧車の上から、ちゃんと見ていたのですよ」
 怒鳴りながら、治良右衛門は、ヒョイト一匹の木馬に飛びまたがった。ハイシイドウドウ、手綱をとりながら、彼は又叫ぶ。
「それから第二回目の殺人で、二郎少年は、こうして木馬にのっている所を、今度は普通の弾丸(たま)で撃ち殺されました。無論観覧車の上からです。同時に、僕は風船の繩梯子を弾丸で撃ち切り、折枝を墜落させました。僕は射撃の名人だけれど、まさか初めから繩梯子を狙った訳じゃない。あれはまぐれ当りですよ。オットどっこい。(あぶな)い危い」
 云いながら、治良右衛門は、追い(すが)った刑事の手をよけて、ヒョイと木馬を飛び降り、又グルグルと走り出した。
 やっとその時、場内に張り込んでいた制服巡査が十数人、騒ぎを悟って駈つけて来た。
「あいつを捉まえるんだ。早く、早く」
 泥棒姿の木島刑事が、走りながら、喜ばしげに叫んだ。
「なんだって、あの制服巡査を捉まえるんだって?」変装を知らぬ本物の警官達は、面喰ってしまった。彼等は木島氏の顔を見分ける余裕がなかったのだ。
「オイ、君達、その手に乗っちゃいかんよ。あいつが犯人だ。風体を見ても分るじゃないか」
 治良右衛門が機先(きせん)(せい)して怒鳴った。
 なる程(もっと)もだ。犯人はあの和服の奴に違いない。それが証拠に、あいつこそ追っかけられているではないか。と思って見れば、そんな風にも見えるのだ。
 警官達はドヤドヤと廻り舞台へよじ昇って、和服の方を、(すなわ)ち木島刑事を追っかけ始めた。
 奇々怪々の捕物が始まった。
 花火はドカーン、ドカーンと打ち上げられていた。その度毎に、降りしきる五色の雪は益々密度をまして、空を、地上を覆いかくした。その中を無数のゴム風船が、ツーイ、ツーイと空へ昇って行った。
 楽隊は滅茶苦茶(めちゃくちゃ)のジャズ音楽を吹き、叩いていた。酔っぱらいの来客達は、或は歌い、或は歓声を上げて、場内を飛び廻っていた。
 木馬館の活劇は、その(うち)、誰にも気づかれることなく、続いていた。
 泥棒姿の木島刑事が、廻る木馬台の上で、とうとう捉まった。十数人の巡査達がその上へ折重なって行った。
「馬鹿ッ、どじッ、とんまッ」
 警官の山の下から、木島氏の激怒する声が聞えた。
「俺は木島だ。俺の顔を知らんのかッ。犯人はあいつだ。巡査にばけている喜多川治良右衛門だ」
 やっと事の仔細(しさい)が分って、警官達が立直った時には、併し、当の治良右衛門は、とっくに木馬館を離れて、彼方の丘の上を走っていた。
「ソレッ、逃がすなッ」
 一同、廻り舞台を飛び降りて、中には転がるものもあって、又しても追跡が始まった。今度は追手が多勢だ。いくら治良右衛門が手品師でも、もう逃れっこはないだろう。

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