水が! 水が!
二メートル四方ぐらいの、ふかい井戸の底のようなコンクリートの地下室におちこんだ井上少年とポケット小僧は、懐中電灯で、コンクリートの壁の上のほうに、直径十五センチほどの丸い穴があいているのに気づきました。
なんだかきみのわるい穴です。空気ぬきの穴かとおもいましたが、どうもそうではなさそうです。いまに、あの穴から、なにかおそろしいものが出てくるのではないかと気が気ではありません。
やがて、ドドドド……と、みょうな音がきこえてきました。
「あっ、そうだ。やっぱりそうだっ」
ポケット小僧が、ひとりごとをつぶやきました。
りこうなポケット君は、はやくも、それを察したのです。
穴から、チョロチョロと、なにか、ながれ出してきました。はじめは、ひかった、ほそいひものように見えましたが、それが、たちまち、ふとくなり、しまいには、しぶきをたてて、まるで発射するようないきおいで、とび出してくるのです。
水です。水がおそろしいはやさで、あふれ出しているのです。もう、せまいコンクリートの床が、すっかり水におおわれてしまいました。
「あっ、わかった。水ぜめだっ」
ポケット小僧がさけびました。
「えっ、水ぜめって?」
「ぼくらは、水におぼれて、死んでしまうのだよ。あの穴は、ぼくらの背の倍もある。水がいっぱいになれば、おぼれてしまうよ」
「きみはおよげるかい」
井上君が、まっさおになって、ききました。
「およげるよ。きみは?」
「ぼくのクラスで、いちばんおよぎがうまいんだよ」
そのとき、頭の上から、大きなわらいごえが、きこえました。
「わはははは……きみたち、せいぜいおよぐんだな。だが、何時間およげるね。その水は一日や二日では、ひかないんだぜ。そんなにながくおよぎつづけられるかね。わはははは……それじゃ、あばよ」
人形の顔をもつ怪人が、高いおとし穴の口から、そう言ったかとおもうと、パタンと、そこの戸をしめてしまいました。その戸は上のへやの床板と見わけられないようにできているので、こんなところに、おとし穴があるなんて、だれにもわからないのです。いよいよ運のつきです。
丸い穴から、あふれ出す水のいきおいは、すこしもおとろえません。おそろしい音をたてて、おとし穴の床におち、床にたまる水は、だんだんふかくなっていきます。
水はもう、立っているふたりの、ひざのちかくまでのぼってきました。
まだ秋のはじめですから、つめたくてたまらないほどではありません。ふたりは、いざとなったら、およぐつもりで、上着やズボンをぬいで、その用意をはじめました。
「ぼくたち、たすかるだろうか」
井上君が、心ぼそいこえを出しました。
「BDバッジを、だれかが見つけて、小林団長に知らせてくれるかどうかで、きまるよ。ぼくは、きっと、知らせてくれるとおもうよ。あんなにたくさん、ばらまいたんだもの」
ポケット小僧は、井上君をはげますように、いうのでした。