ピストルの名人
「き、きさま、なにものだっ」
怪人がどなりつけました。その大きなものは人間だったからです。
金庫の中から、小林少年のニコニコ顔があらわれました。
「ぼくは明智探偵の助手の小林だよ。ぼくは、きみのあとをつけたのさ。葬儀車の中で変装したことも、ちゃんと知っている。そこで、さきまわりをして、金庫の中にかくれて、きみを待っていたのだよ。
きみは中村警部じゃない。人形怪人だ。もうこのへやから、逃げだすことはできないよ」
「ウーン、またしても、チンピラめが、じゃまをしやがったなっ」
中村警部に、ばけた怪人は、まっかになって、くやしがりました。そして、手ばやくポケットから、ピストルをとりだすと、ピッタリと、小林君の胸に、ねらいをつけました。
「手をあげるんだ。へんなまねをすると、ぶっぱなすぞっ。そのままじっとしているんだ。きょうは、ひとまずひきあげる。じゃまするやつは、だれであろうと、ようしゃはしない。ピストルのたまがおみまいするのだ。いいか」
怪人はピストルをかまえながら、ジリッ、ジリッと、あとずさりをはじめました。
そのときです。入口のドアがサッと開きました。そして、シューッという、はげしいおと。怪人の手から、ピストルが宙にはねあがり、床にころがりました。
怪人がびっくりしてふりむきますと、明智探偵がニッコリわらって、立っていました。手には小がたのピストルをかまえています。
明智のうったピストルのたまが、怪人のピストルにあたって、宙にはねあがったのです。
たいしたうでまえです。怪人の手をすこしもきずつけないで、ピストルだけを、うちおとしたのです。めったにピストルなんかつかわないのですが、いざつかうとなれば、明智はこれほどの名人でした。
「こんどは、きみが手をあげるばんだよ。でないと、こいつが、きみの心臓のまんなかを射ぬくからね。もうすこし、ぼくのうでまえを、お目にかけようか」
むこうの柱に、大きなカレンダーがかかっていました。それに、美しい女の人が、トランプのカードを持っている絵が印刷してあります。カードはハートの5でした。
「いいかい。あのカードの五つのハートを、射ぬいてみせるよ」
ピストルが、かまえられました。五つの赤いハートに、つぎつぎと、穴があいていきました。ひとつもそれだまはなく、五つとも完全に命中したのです。