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恐怖王-片手美人(3)

时间: 2021-08-29    进入日语论坛
核心提示: 何とも云えぬ気味の悪い音が、部屋中に響渡った。だが、アア、あれは何だろう。金属性の音に混って、笛の様な、甲高かんだかい
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 何とも云えぬ気味の悪い音が、部屋中に響渡った。だが、アア、あれは何だろう。金属性の音に混って、笛の様な、甲高かんだかい途切れ途切れの声が、どこからともなく聞えて来るではないか。
「オヤ!」
蘭堂はゾッとした様に、鍵盤から手を引いた。
併し、ピアノは黙らない。笛の様な声がいつまでも続いている。余韻にしては余り長いのだ。しかも、どこやら人の心をえぐる様な調子を持っている。
「人の声ですね、確に」
蘭堂は伯爵夫妻と顔見合せて、囁き声で云った。
「併し、誰もいないじゃありませんか」
伯爵はさも気味悪げに部屋の中を見廻した。
「イヤ、この中にです」
「エ、エ、ピアノの中に?」
「多分僕等の探している人です」
云うなり、蘭堂はピアノの下部の塗り板のネジを廻して、何なくそれを開いた。
「アッ、京子さん、しっかりなさい」
ピアノの胴の中に、さも窮屈きゅうくつらしく、妙な恰好で、京子が押し込められていた。ピアノの弦の震動が失神していた彼女の神経を呼びさまし、苦痛の細いうめき声を発した。それがあの異様な笛のとなって外部に漏れたのだ。蘭堂は愛人のグッタリした身体を抱き取って、絨氈の上に横にした。
伯爵夫妻は、駈け寄って、令嬢の上にかがみ込んで、しきりにその名を呼んだ。
「アア、気がついた様だ。大江さん、京子が目をあきました」
殺されたとばかり思っていた京子が、兎も角も無事でいたのだ。両親の狂喜も無理ではない。
見るとやっぱり右手をやられている。仕合せなことには、賊が血の垂れるのを防ぐ為に、傷口を固く縛って置いてくれたので、出血も左程さほどでなく、ようやく一命をとりとめたのだ。
「オヤ、左の手にこんなものを握っていますよ。アア、あの男が持って来た手紙だ。大江さん見て下さい」
伯爵がそれを取って差出すのを、蘭堂が開封して読下よみくだした。

 この手紙持参の男は僕の友人です。例の件につき是非お話しして置かねばならぬ事があるのです。僕が行けぬのでこの男を伺わせました。是非面会して事情を聞取って下さい。

蘭堂

京子さま

「畜生、僕の名前をかたったんだな。無論こんな手紙を書いたおぼえはありませんよ」
蘭堂は読終った手紙を畳もうとして、何気なくその裏面を見ると、そこに赤鉛筆で大きな乱暴な文字が書きつけてあるのに気附いた。
「オヤ、これは何だろう」
読んで見ると、これこそ正真正銘の賊の置手紙だ。脅迫状だ。

 京子、命は助けてやる。だが、今日限り大江蘭堂と絶交するのだ。彼と口を利いてはいけない。手紙を書くこともならぬ。若しこの命令に違背いはいすれば、今度こそは命がないものと思え。

恐怖王

「ハテナ、これは一体何のことだろう」
蘭堂はその意味を理解することが出来なかった。
「京子に絶交させて俺を苦しめる為かな。だがそんな廻りくどいことをせずとも、俺をやッつける手段は外にいくらもある筈ではないか。それとも、俺の探偵上の手腕に恐れをして、こんなことを云うのかしら。イヤどうもそればかりではないらしい」
いくら考えても分らぬ。この理解し難き文意の裏には、何かしら恐ろしい秘密が隠されている様な気がする。
「イヤ、こんなものはどうだっていいです。それより京子さんのお身体が大切だ。早く医者を呼ばなければいけません」
蘭堂は賊の手紙をポケットに仕舞しまいながら云った。

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