「よく出来ただろう」
「全くどうも、驚きましたね。これが死骸ですかい。あっしゃ、こんな美しい死骸なら、本当に女房にしたい位のもんですよ」
「だから婚礼をするんじゃないか」
「だって、並んで写真を写す丈けじゃ物足りないね。何とかならないもんですかね」
「ハハハハ、何とかといって、死骸を何とする訳にも行くまいじゃないか」
そうしている所へ、玄関に人の声がした。写真屋が来たのだ。
「サア、そこへ並んで坐るんだ。気取られてはいけないぜ。グッとすまして、口は利かない方がいい」
ロイド眼鏡は、云い残して、アタフタと玄関へ出て行った。
やがて、助手をつれた写真屋が、座敷へ通された。
「もうちゃんと用意が出来ているんです。これからすぐ式場へ出かけることになっているんで、急いでやって下さい」
ロイド眼鏡が、セカセカと忙し相にして見せる。
写真屋は、家の中の様子が何だか変だと思ったけれど、前金は貰ってあるし、別に苦情を云う筋はないので、早速ピントを合せて、マグネシウムを焚いた。
「二三日中にこの家は引越しをすることになっていますから、写真は出来た時分に、こちらから取りに行きます。約束の日限をおくれない様にして下さい」
ロイド眼鏡は写真師を玄関に送り出して、念を押して置いて、元の座敷に帰って見ると、びっくりした。
ゴリラが死骸花嫁の手を握って、手の平に接吻したり、肩に手を廻して、まるで本当の新婚夫婦みたいに、何かボソボソと囁いたりしていたからだ。
「オイ冗談じゃない。つまらない真似はよせ」
声をかけると、ゴリラ奴ハッと飛び放れて、
「エヘヘヘヘヘ、つい、あんまり美しいもんだから」
と極り悪そうだ。
「サア、これでいい。花婿さま御用ずみだ。着物を着換て来るがいい」
「だが、あっしゃ、どうも腑に落ないね。こんなことをして一体どうなるんですい。あの写真が何かの種にでもなるのですかい」
「それは俺に任せて置けばいいのだ。君達は、黙って俺の指図に従っていればいいのだ。二三日の内に、俺のすばらしい目論見が、君達にも分るだろう」
「それから、この娘さんの死骸は? まさかここへうっちゃらかしても置かれますまい」
「それも俺に考えがある。まあ見ててごらん。世間の奴等が、どんな顔して驚くか。君は俺の日頃の腕前をよく知っているじゃないか」
「ウフフフフフ、何だかあっしにも、薄々分らないでもないがね。定めし例によって、物凄いところを演じる訳でしょうね。だから、かしらの側は離れられねえんですよ。ウフフフフフ」
ゴリラは舌なめずりをして、さも嬉しげに、不気味なふくみ笑いをした。