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恐怖王-自备金十万日元(2)

时间: 2021-08-29    进入日语论坛
核心提示: するとたちまち部屋の一隅から、絹(きぬ)を裂く様な悲鳴が起った。 振向くと、伯爵夫人が、飛出した両眼で、ゴリラの手元を凝
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 するとたちまち部屋の一隅から、(きぬ)を裂く様な悲鳴が起った。
 振向くと、伯爵夫人が、飛出した両眼で、ゴリラの手元を凝視しながら、何とも云えぬ変な泣き顔になっていた。
「いけません、いけません。それ丈けは勘弁して。……大江さん、大江さん、早くあの子をとり返して」
 野獣の振舞は、余りにもむごたらしかった。夫人の悲鳴を聞かずとも、恋人の蘭堂には、仮令死骸とは云え、京子の身体がおがらかなんぞの様にへし折られるのを見ている訳には行かなかった。
「待て、お嬢さんを下に置け。そうすれば貴様を逃がしてやらぬものでもない」
 蘭堂は遂に弱音を吐いた。
「ワハハ……、参ったな。じゃ、道を開け。そこをどけ」
 ゴリラが歯をむいた。
「よし、のいてやる。その代りお嬢さんを離すんだ」
 蘭堂は云いながら、部屋の隅へあとじさりした。そこにほんのちょっとした隙があった。
 ゴリラはパッと寝台を飛降りると、矢の様に部屋の入口へ走った。京子さんの死骸を小脇に抱えたまま。慾深くも、切断された左腕さえ片手に引掴(ひっつか)んで。
「コラッ、お嬢さんをどうするんだ。待てッ」
 蘭堂は叫びさまドアの外へ追って出た。二人の書生もあとに続いた。
 外の廊下から、ゴリラ男が走りながらの捨てぜりふが聞えて来た。
「こいつは俺の武器だからね、うっかり手放す訳には行かんよ。貴様が俺に追いついたら、ホラ、ペキンと二つに折っちまうんだ。貴様の好きな女をね」
 そして、逃走者と追手の足音が、慌しく玄関の方へ消えて行った。
 伯爵夫人はどうしていいのか分らなかった。泣くにも泣けぬ腹立たしさであった。若しあのまま京子の死骸が帰って来なかったら、旅行中の主人伯爵に何と云って申訳(もうしわけ)をすればいいのだろう。と思うと、俄かに胸がつぶれて、彼女は寝室を去りもやらず、主なきベッドに倒れ伏して、声もなく泣き入った。
 十分程たつと、追手の蘭堂を初め書生達が、空しく引返して来た。そのあとから、青ざめた女中達がオズオズと、寝室の入口へ顔を出した。
「奥さん申訳ありません、逃がしてしまいました」
 蘭堂はセイセイ息を切らしながら云った。
 夫人はやっと顔を上げて、キョトキョトとあたりを見廻した。
「では、あの京子も……」
「エエ、京子さんの死骸もです。僕はとりあえず附近の交番に立寄って、非常線の手配を、電話で本署に頼んでくれる様に云って来ましたが。もう手遅れかも知れません」
「見失ったのですか」
「そうです。……僕は駈けっこでは人にひけを取らない(つも)りなんだけれど、あいつにかかっては敵いません。あいつは全くゴリラです。人間ではありません。あんな重いものを抱えながら、まるで黒い風の様に走るのです。町角を三つばかり曲ったと思うと、もう影も形も見えませんでした。実に恐ろしい魔物です。今頃非常線の手配をした所で、恐らく無駄でしょう」
 蘭堂は申訳なさそうに説明した。
「本当です。奥さん。あいつは人間じゃありません。僕等は心臓が喉から飛出す程走ったんだがなあ」
 一人の書生が残念そうに怒鳴った。
 暫く誰も物を云わなかった。さしずめ何をすべきか、見当もつかないのだ。

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