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恐怖王-针头(1)

时间: 2021-08-29    进入日语论坛
核心提示:注射針 それから一時間程後(のち)、大江蘭堂と、怪画家黒瀬とは、捜査課長自身の案内で、ゴリラと対面する為に、警視庁の地下室
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注射針
 それから一時間程(のち)、大江蘭堂と、怪画家黒瀬とは、捜査課長自身の案内で、ゴリラと対面する為に、警視庁の地下室の階段を降りていた。
「すると、あなたとあのゴリラとは、戸籍面では兄弟という事になっているのですか」
 捜査課長のS氏は、先に立って薄暗い段々を降りながら、尋ねた。
「エエ、僕の兄に当る訳です」
 黒瀬は真面目な声で答えた。
 何だか変な具合であった。考えて見ると、これは六年ぶりの兄弟の対面に相違なかった。何という異様な対面であろう。兄の方は一匹の野獣として、動物の檻の中にとじこめられているのだ。
 奥まった薄暗い部屋のドアが開かれると、その中に頑丈な鉄の檻があった。檻の中には動物園の熊の様に寝そべっている黒いものがあった。
「コラ、起きろ起きろ、お前に逢い度いという人があるんだ」
 S氏は靴で檻の(ふち)をコツコツ蹴りながら、怒鳴った。
 野獣はビックリした様に、ヒョイと顔を上げてこちらを見た。ゴリラの目と黒瀬画家の目とが、カチッとぶッつかった。
「アッ、お前……」
 ゴリラが何か叫びかけてハッと口をつぐんだ。非常に驚いている様子だ。
「僕だよ三吉。覚ているかね、黒瀬正一(しょういち)だよ」
 画家は、ゴリラの目を見つめながら、(おさ)えつける様に云って、檻の側へ近づいて行った。画家はゴリラに対して、一種催眠術的な力を持っている様に見えた。彼の前では、あばれもののゴリラが非常におとなしく、首を垂れてかしこまっていた。
「三吉、お前は飛んでもないことをしたんだ相だね。その上、捕まってからも、人を(きずつ)けたというではないか。お前は何という馬鹿だろう。こんな動物の檻の中へ入れられるのも、お前の智恵が足りないからだよ。悲しいとは思わないのか。素直に何もかも白状してしまうがいいじゃないか。お前が云わなくても、こうして僕が知ったからには、僕からすっかり申上げてしまうよ。その方がお前の為なのだ。警察の(かた)も、お前の哀れな素性をお聞きになったら、きっと同情して下さるよ」
 黒瀬は檻の鉄棒に顔をくッつけて、涙ぐんだ声で、諄々(じゅんじゅん)(さと)し聞かせるのであった。ゴリラの方でも、久方振りの対面を懐かしがってか、黒瀬の側へすり寄って来て、じっと蹲まっていた。
 黒瀬は話しながら、鉄棒の間から手を入れて、ゴリラの背中をさすったり、その手を握ったりした。そんなにされても、ゴリラは、まるで猛獣使いの前に出たけだものの様におとなしかった。
 画家とゴリラとの不思議な対面は三十分程もかかった。彼はその間、ゴリラを説き伏せる為に、ボソボソ、ボソボソ囁き続けていたのだ。そして、結局彼の努力は報いられた様に見えた。
「とうとう説き伏せました。三吉は今度のお検べには、何もかも白状すると云っています」
 黒瀬は少し離れて待受けていた二人の方へ戻りながら云った。
 捜査課長はこの吉報にひどく喜んで、お礼を云った。
 黒瀬は何かもじもじしていたが、
「洗面所はどちらでしょうか」
 と尋ねた。

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