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魔术师-美しき友(3)_魔术师_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: 明智は眠られぬベッドの中で、幾度も自分を叱(しか)った。そして、明日こそは出発しようと決心するのだが、朝になると、つい立
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 明智は眠られぬベッドの中で、幾度も自分を(しか)った。そして、明日こそは出発しようと決心するのだが、朝になると、つい立ちそびれてしまうのが常であった。
 だが、この問題は妙子さんのお父さんが、解決してくれた。彼は娘の滞在が長引くのを心配して、ある日東京から電話をかけて、早く帰る様にと娘に云いつけた。大人しい妙子は、その云いつけを守って、即日ホテルを出発したが、明智に別れを告げる時には、彼女の方でも、気のせいか、ひどく名残(なご)り惜しげに見えた。
 妙子が去ってからも、明智は以前の様に、子供達をボートにのせて、湖水を漕ぎ廻るのを日課にしていたが、さも快活に装いながら、眉宇(びう)一抹(いちまつ)の曇りを隠すことは出来なかった。
 妙子の(つか)めば消えてしまい相な、しなやかな身躯(からだ)、ほほえむとニッと白い八重歯(やえば)の見える、夢の様に美しい顔、胸の(くすぐ)られる様な甘い声音(こわね)、それらの一つ一つが、時がたてばたつ程、まざまざと記憶に浮んで、明智は二十歳(はたち)の青年の様に、悩ましい日を送らねばならなかった。
 湖水に舟を浮べて、妙子と取交わした、様々の会話も思い出の(たね)であった。だが、それらの春のそよ風の様に、(ほがら)かに甘い会話の中で、たった一度、打って変って、彼女は非常に陰気な打開け話をしたことがある。どういう訳か、その彼女の不思議な言葉が、殊更(ことさ)ら忘れ(がた)く頭の底にこびりついて離れなかった。それは()わばこの物語の発端(ほったん)()す所の、一挿話(そうわ)に相違ないのだから、ここに簡単に(しる)して置くが、その時、舟は例の常盤木の蔭暗き岸辺に漂っていた。その舟の中で、妙子は、ふと通り魔に襲われでもした様に、妙な事を云い出したのである。
「それは、根もない夢の様なことかも知れませんわ。でも、わたくし小さい時分から、不思議に先々のことが分りますの。母は五年以前になくなりましたが、その母の死にますのが、わたくしには、半年も前からちゃんと分って居りましたのよ。それと同じ様に、今度のこの恐ろしい夢も、本当になって現われるのではないかと思いますと、もう怖くって、怖くって、一人で寝んでいる時など、ふとそれを考えますと、ゾーッと水をあびせられた様な、それはいやアないやアな気持になりますのよ」
「お姉さま、又そんな話をしちゃ、いやだ」
 進一が、まだ十歳の少年の癖に、大人の様な恐怖の表情で、叫んだ。
「で、それは一体どんな夢なんです」
 明智が、妙子の異様に陰気な表情に、びっくりして尋ねると、彼女はそれを口にするさえ恐ろしい様子で、声を低くして云うのだ。
「何ですか(たましい)のある黒雲みたいなものが、私達一家の上に、恐ろしい早さで覆いかぶさって来るのです。わたくし、もう二三ヶ月も前から、絶えまなくそれを感じていますの。恰度(ちょうど)(きじ)が大地震を予感します様に。……誰かが私達一家を(のろ)ってでもいる様な。今にも私達一家のものが、何かの恐ろしい餌食(えじき)になる様な。そんな気持ですのよ」
「では、何か、そんな疑いをお起しなさる様な理由でもあるのですか」
「それがちっともございませんの。ですから、なお怖いのですわ。どういう風の(わざわい)ですか、えたいが知れませんもの」
 無論(むろん)妙子は、名探偵としての明智小五郎を知っていた。で、この妙な打開け話も、彼にすがって、彼の判断を乞う為であったかも知れない。(しか)し、全然現実的根拠(こんきょ)のない夢物語では、いかな明智にも、どうする(すべ)もないのだ。そして、丁度(ちょうど)そうしている所へ、ホテルの小使(こづかい)が、東京から電話だといって、妙子を探しに来たのであった。

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