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魔术师-巨人の手型(1)_魔术师_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:巨人の手型 さて、波越警部の現場調査、それから暫(しばら)くして来着した裁判所の一行の検視手続(てつづき)などを細叙(さいじ
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巨人の手型


 さて、波越警部の現場調査、それから(しばら)くして来着した裁判所の一行の検視手続(てつづき)などを細叙(さいじょ)していては、非常に退屈だから凡て省略して、ただ読者に告げて置かねばならぬ点丈けを、列記すると、
 第一には、被害者福田氏の隠し戸棚から、高価なダイヤモンドが紛失していたことが、玉村氏の注意で判明した。
 それは玉村商店の番頭が欧洲の宝石市場で手に入れた、古風なロゼット切りの十数カラットのもので、福田氏はその由緒(ゆかり)ありげな光輝(こうき)()れて、兄の玉村氏から原価で譲り受けた品であった。原価といっても、無論(まん)(もっ)(かぞ)える価格である。(その)貴重な宝石が福田氏の奇怪な死と共に、消失せてしまったのである。
 第二は、福田氏の寝室の模様壁紙の上に、犯人の大きな血の手型が残されていたこと。流石老練警部の波越氏、巡査や玉村二郎が見逃していた大切な手掛りを苦もなく発見した。
「どうして、僕等はそれに気がつかなかったのでしょう」
 と二郎青年が不審がると波越氏は大様(おうよう)に笑って答えた。
「この手型が余りに高く、普通でない場所にあったからです。人間が壁によりかかる時は、目よりも低い箇所に手を突くのが普通です。(したが)って、犯人の手掛りを探す場合にも、大抵の人は目よりも高い場所を忘れている。どんなに丹念に床を探し廻る人でも、天井は見ようとさえしないものです。壁でさえも、殆ど注意しないのが普通です。僕の友達の明智君に云わせると、これはつまり心理上の盲点なんですね。我々はウッカリするとこいつに引かかって、飛んだ失策をやることがありますよ。それに、ここは、丁度電燈の傘の線の上だし、壁紙の模様にまぎれて、一寸位見たのでは気がつきませんからね」
 それにしても、変な場所に手型が残ったものだ。五尺何寸の玉村二郎や波越警部の目の線よりもずっと高く、一杯に腕を延ばしてやっと届く様な場所に、どうしてこんな手型がついたのであろう。
 いや、手型の高さよりも、もっと驚くべきことが、間もなく分った。それは血の手の平の寸法だ。波越氏が計って見ると、普通人の(てのひら)の少くも一倍半はある。異様に巨大な手型であった。それを知った警察の人々玉村父子等は、思わず声を呑んで顔を見合わした。こんな手の平を持った人間が、一体この世にいるのであろうか。
 人々は、迂濶(うかつ)に彼等の空想を(しゃべ)ることを恐れたけれど、心の中では、一人の巨人を描いていた。その巨人は、手型の高さから想像して少くも七尺に近い身長を有し、常人の一倍半の手の平を持った、怪物でなければならない。
「どこかに間違いがある。そんな怪物が、この厳重に密閉された部屋に出入したなんて、それが巨人であればある程、愈々(いよいよ)不可能なことだ。馬鹿馬鹿しいことだ」
 と人々は彼等のこの驚くべき空想を打消そうと(つと)めた。ところが、この空想が満更ら空想でないことが、更らに別の方面から分って来たのだ。それが、つまり第三番目の発見である。
 で、第三に分ったことは、裁判所の一行が来着するのと前後して、各新聞社社会部夜勤記者の一団が、福田邸の門前に殺到して、あわよくば犯罪現場に闖入(ちんにゅう)せん(いきおい)で、探訪秘術を尽していたが、その内の一新聞記者が、鋭敏な探訪神経によって、一つの重要な新事実を発見し、その報を波越警部に(もたら)したのである。(この記者は右の手柄の引替えに、最も詳しく、犯罪前後の事情を聞出すことに成功した)
 福田邸は東京市西北郊外の、ある閑静な地域にあって、門前は自家専用の通路の外は、広い空地になっていた。その空地が、一般街路に接する所、即ち福田邸専用通路のはずれに、時代に取残された人力車夫のたむろする、みすぼらしい掘立(ほったて)小屋がある。その晩、その掘立小屋に、一人の独身老車夫が、毛布にくるまって寝ていた。機敏な新聞記者は、その老車夫を訪ねて、何か気づいたことはないかと聞いて見たのだ。
 犯罪の行われた時刻は、老車夫が、珍らしい長帳場(ながちょうば)の一仕事を終って帰り、毛布にくるまって、ウトウトとしていた時分で、夢現(ゆめうつつ)境故(さかいゆえ)確かなことは云えぬが、そう云えばどうも変なことがあったとの答えだ。
「あっしゃ、あんな背の高い野郎を、ついぞ見たことがねえ。勿論顔なんか見えない。ボンヤリと闇の中に浮出した大入道(おおにゅうどう)みたいな野郎だったがね。そいつがお(やしき)の方からやって来て、この町を飛ぶ様に駈け出して行ったんでさあ。薄っ暗い町のことだから、半丁もへだたると、もうそいつの姿は見えなくなっちゃったがね。あんまり不思議なんで、夢でも見たんだろうと思っていたが、そんな人殺しがあったんじゃ、ひょっとすると、あの大入道の野郎が、下手人かも知れませんぜ」
 と云うのだ。

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