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魔术师-獄門舟(2)_魔术师_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: 首を括(くく)りつけた板は、明かに舟に擬(ぎ)したもので、その船首に当る箇所には、船名のつもりか、筆太に「獄門舟」と記(し
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 首を(くく)りつけた板は、明かに舟に()したもので、その船首に当る箇所には、船名のつもりか、筆太に「獄門舟」と(しる)されてさえいた。
 アア、獄門舟、何という不気味な名称であろう。獄門台の代りに、水のまにまに流れ漂う移動さらし首だ。いうまでもなく、これは生前の福田氏に深き深き恨みを抱く、かの下手人が、死者に最大の侮辱(ぶじょく)を与える為に案出した、恐ろしき私刑に相違なかった。
 この出来事は所管警察署を通じて、警視庁に伝えられ、生首の主が福田得二郎氏であることも(たちま)ち判明した。
 波越警部は、犯人の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)なやり口に、重ね重ねの大侮辱を蒙り、鬼刑事の名にかけて、最早(もは)やじっとしていることは出来なかった。(ただ)ちに捜索刑事団が編成され、草の根を分けても犯人を引掴んで来いとの厳命が下され、波越刑事自身その先頭に立って、白橋上流の両岸、当時その辺にいたと覚しき荷舟乗合舟の類を、(しらみ)つぶしに調べ廻ったが、遂に何の()る所もなかった。
 白橋上流には、遠く千住(せんじゅ)大橋まで一つの橋もなく、しかも大川はその中間で(ほとん)ど直角に折れ曲り、見通しが利かぬので、人知れずこの異様な流し物をするには、究竟(くっきょう)の場所であったに相違ない。その上綾瀬川(あやせがわ)その他支流や入江(いりえ)なども多く、捜査範囲は非常に広い地域に(わた)り、如何(いか)な警察力を以てしても、余りにも漠然(ばくぜん)たる探し物であった。
 犯人につき(まと)う怪談、獄門舟の妖異、加うるに人気者明智探偵の誘拐、新聞編輯者(へんしゅうしゃ)にとって何という好題目であろう。社会面は福田氏殺害事件で埋められ、従って世間の騒ぎは日一日と(はなはだ)しくなって行った。

窓なき部屋


 明智小五郎は、うたたねの夢から覚めた様な気持で、ふと目を開いた。
 少々頭痛がするのを除くと、凡てが甚だ快適であった。手狭(てぜま)ながら贅沢(ぜいたく)に飾られた洋室、天井から下った古風な併し贅沢な空気ランプ、深いクッションの立派な長椅子。……彼は意識を恢復して、上野駅での出来事を思起(おもいおこ)した刹那(せつな)猿轡(さるぐつわ)と手足の繩目(なわめ)を幻想したが、どうして、繩目どころか、全く自由な身体で、彼はその長椅子のクッションに深々と横わっていたのである。
 明智が目を開いて、まじまじしていると、それを待構えてでもいた様に、ドアが開いて、一人の女が室内に這入って来た。美しい十八ばかりの娘だ。一寸見なれぬ型のダブダブした黒絹の洋装で、手に銀盆をささげている。盆の上には飲み物と軽い食事の皿が並んでいるのだ。
「お目ざめになりまして?」
 娘はソファの前の(テーブル)に銀盆を置いて、ニッコリして明智に話しかけた。
「本当に大変でしたわね。でも、どこも御痛みにはなりません?」
 無論知らぬ娘だ。この部屋にも見覚えはない。明智は夢みたいな気持で、しばらくボンヤリしていたが、やっと気を取り直して、
「ここは一体どこの御宅なんでしょう。そしてあなたは?」
 と尋ねて見た。
「イイエ、御心配なさることはありませんわ。あなたの御危い所を御救い申した人の(うち)とでも思っていて下さいまし。そしてあたしはその家の娘ですの」
「そうでしたか。僕は上野駅で変な自動車に押込まれたことは覚えていますが、すると今迄(いままで)気を失っていたのでしょうか。それにしても、どうして僕を救って下すったのですか。御主人はどなたですか。そして、ここはやっぱり東京市内なんでしょうね」
「エエ、まあそうですの。でも、あなたまだ色々なこと御考えなさらない方がよござんすわ。それに、あたし、何にも喋ってはいけないって云いつけられているんですもの」
「ナアニ、もう大丈夫ですよ。どこも何ともありません。少し頭がフラフラしている位のものです」

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